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http://blog.jog-net.jp/200610/article_1.html

[トップページ][平成18年一覧][Common Sense][370 教育]

■■ Japan On the Globe(465)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

         Common Sense: ないないづくしの教育基本法
    
                 現在の教育基本法には、家庭教育、幼児教育、
                地域教育、文化伝統教育、環境教育の視点がない。
■転送歓迎■ H18.10.01 ■ 34,577 Copies ■ 2,236,516 Views■

■1.「ないないづくしの教育基本法」■

     青少年犯罪や、学級崩壊、学力低下などの問題から、現在の
    教育がうまく行っていない、と多くの国民が感じている。安倍
    新政権も教育基本法改正を最優先する方針を打ち出した[1]。 
    しかし、教育基本法のどこがどう問題なのか、考えたことのあ
    る国民は少ないだろう。

     先の通常国会で、政府は「国と郷土を愛する態度」を謳う教
    育基本法改正案を提出し、民主党は「日本を愛する心」を盛り
    込んだ対案を提出した。愛国心をどう涵養するか、という点に
    議論が集中しがちだが、現行教育基本法の大きな欠陥は、これ
    だけではない。家庭教育、幼児教育、地域教育、文化伝統教育、
    環境教育などの視点も欠けている。まさに「ないないづくしの
    教育基本法」なのだ。

     今回は衆参両院の過半数を超える378人の国会議員が参加
    している「教育基本法改正促進委員会」が発表した独自の「新
    教育基本法案」(以下「新法案」と呼ぶ)をベースに、現行基
    本法の問題を考えてみたい。

■2.家庭科教科書で離婚の勧め?!■

     家庭教育について、現在の教育基本法は以下のように述べる
    だけである。

        第7条(社会教育) 家庭教育及び勤労の場所その他社会に
        おいて行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励
        されなければならない。

     これでは、どのような家庭教育を目指すのかが不明である。
    ある高校用家庭科教科書には、

         A子さんとB男さんは結婚して二十年ですが、八年前か
        ら別居中です。きっかけはA子さんに別の好きな人ができ
        たから。この二人は離婚できるでしょうか。[2,p101]

    などと、まるで離婚の勧めが書かれている。この二人に子供が
    いたら、さぞ悲しい思いをするだろう、などという想像は「想
    定外」なのである。生徒がこの教科書から、夫婦とはこういう
    ものだと思いこんでしまえば、子供なぞ生まない方が良いと考
    えてしまうだろう。少子化になるのも、当然である。

     また、こんな風に家庭を描く教科書もある。

         祖母は孫を家族と考えていても、孫は祖母を家族と考え
        ない場合もあるだろう。・・・犬や猫のペットを大切な家
        族の一員と考える人もいる。[2,p101]

     お祖母さんよりも犬猫を家族と考えても構わない、と教えて
    いるかのようである。祖父母がいてくれたからこそ、父母がお
    り、自分たち子供がいる、というのが家族の基本である、とい
    う常識がそもそも欠如しているのである。

■3.子育ては「至福の時の積み重ね」■

     このような風潮を糺すべく、新法案では第五条に「家庭教育」
    という項目を新設し、こう規定している。

         教育の原点は家庭にあり、親は人生最初の教師であるこ
        とを自覚し、自らが保護する子供を教育する第一義的責任
        を有する。
        
    「親は人生最初の教師である」という事は、責任だけではなく、
    実は親自身の喜びであり、また成長の機会でもあると、西川京
    子・衆議院議員は自らの母親体験から語る。

         一方で、自由を謳歌している独身女性にとっては、子育
        てというのは、自分の時間を奪われる上、最近は子供を取
        り巻く嫌なニュースも多いですから、どうしてもマイナス
        ・イメージを持ちがちです。確かに辛いこともありますが、
        子育てというのは、経験された方には判ってもらえると思
        いますが、すぐには目に見えない宝物が詰まった、実は至
        福の時の積み重ねなんですよ。・・・

         それに子育てをする中で何物にも替えがたい宝物や充実
        感を得られ、仕事に戻った時も恐らく仕事の幅が広がるし、
        人間的にもこんなに成長できるよ。----こうしたメッセー
        ジも、「家庭教育」を支援することを通じて積極的に発信
        していきたいですね。[2,p100]

■4.「わぁ素敵! 私も結婚しよう! 子供を生もう!」■

     これに応えて、同じくママさん議員の後藤博子・参議院はこ
    う語る。

         先日、地元大分の大学で講演させてもらったんです。い
        まどきの学生さんたちは、出産は苦しくて痛いと思ってい
        るんですね。

         確かに苦痛なんですが、生まれた瞬間に、本当に今まで
        感じたことのない喜びを感じて、旦那さんと目と目を見合
        わせて「お互いに親になったね」と感動したのよと話した
        ら、学生たちが、「わぁ素敵! 私も結婚しよう! 子供
        を生もう!」という空気になってしまったんですよ。

         ですから、お母さんもおばあちゃんも、もっと出産のと
        きの喜び・感動を、子供や孫に話したらいいと思いますね。
        [2,p101]

■5.「幼児教育は家庭が主」■

    「家庭」という視点の欠如した現行の教育基本法は、当然なが
    ら幼児教育についても、何も語らない。新法案では幼児教育に
    ついて、以下のように詳細に規定している。

        第6条(幼児教育)
        1 幼児教育が生涯にわたる人間形成の基礎となる重要性
            にかんがみ、国及び地方公共団体は、その振興に努め
            るものとする。・・・

        3 幼児教育は、家庭との緊密な連携を図り、これを助け、
            かつ補完するものでなければならない。

     この第3項で、幼児教育は家庭が主で、国や地方公共団体は
    それを支援・補完するという位置づけがなされている。西川京
    子・衆議院議員は、その背景をこう説明している。
    
         ヨーロッパでは乳児教育はしていません。少なくとも最
        低生まれてから一年間は母親が面倒を見るという基本路線
        は守っていますよ。日本だけですよ、生まれて2、3ヶ月
        の赤ちゃんをお母さんから引き離すようなことをする国は。

         子供は生まれてから6ヶ月が勝負なんです。同じ顔が自
        分の目の前に毎日現れて、笑顔でおっぱいをくれる、それ
        を6ヶ月間続けることによって自分と他者との信頼感が育
        つわけですね。・・・

         ですから、・・・「乳児は預かりません。その代わり、
        育児休業制度を整備し、経済的な手当ても含めて、みんな
        が安心して育児休業がとれて、さらに職場にきちんと復帰
        できるシステムを作ります」という姿勢を、国として打ち
        出そうということにしたのです。[2, p104]

     従来の厚生労働省の方針は、乳児にも24時間保育を行なお
    う、というものだったが、これは働き方に子育てを合わせる、
    という考え方であった。今回の新法案では、これを転換して、
    小さな子供をもっている父親・母親は、まず子育てを家庭で最
    優先して貰い、それが出来るよう、社会制度の方を改革してい
    こう、という方針を採用したのである。

■6.「子供たちには地域の秋祭りにぜひ参加させてあげたい」■

     教育の場として、家庭とともに地域がある。地域教育にいたっ
    ては、現在の教育基本法はその言葉すら出てこないが、新法案
    では次のように明記している。

        第8条(学校・家庭・地域の連携と協力)
         国及び地方公共団体は学校、家庭及び地域社会が相互に
        緊密な連携と協力を図り、教育の目的達成と教育環境の整
        備を図るよう努めるものとする。

     高市早苗・衆議院議員は、地域社会とのつながりを実感させ
    る機会として、地域のお祭りを勧める。

         子供たちには、地域の秋祭りにぜひ参加させてあげたい。
        農産物の実りに感謝する伝統文化そのものですし、同時に
        秋祭りは地元の人々が懸命に作り上げるものですから、地
        域とのつながりを実感させる絶好の機会にもなる。

         ところが、神社からお神輿(みこし)がでることもあっ
        て秋祭りに参加させることが教育基本法第九条(*)に抵
        触するといわれる。しかし、地域の人々が懸命に準備した
        秋祭りに参加して地域の伝統を肌で知るチャンスを奪うこ
        とが果たして子供たちのためになるのでしょうか。

        * 第9条2項: 国及び地方公共団体が設置する学校は、
          特定の宗教教育その他の宗教的活動をしてはならない

     お祭りそのものが子供たちには楽しいイベントだが、そのた
    めに地元の人たちが無償で働く姿そのものが貴重な教材である
    と言えよう。自分たちは地域に守られ、支えられていると気が
    つくことから、自分も地域のために何か貢献したい、という感
    謝報恩の心につながる。そういう心をもった人間を育てたいも
    のである。

■7.「自分たちのふるさとは自分たちで守るんだ」■

    「地域のための貢献をしよう」という心を育てるために、古川
    禎久・衆議院議員は、次のようなアイデアを語る。

         地域との係わり合いや国家・社会への貢献という面では、
        「公民教育」の分野で、消防団に光を当てたいと思います。

         消防団の皆さんは別に公務員ではなくて、純粋にボラン
        ティアですよね。それぞれ仕事を持ちながら地元を守るた
        めに日々訓練し、消火活動に従事している。「一旦緩急あ
        れば義勇公に奉じ(JOG注:教育勅語中の一節。非常の際
        には、正義と勇気を持って公のために尽くし)」ではない
        ですが、火事が起これば、自分の仕事を放り投げてでも消
        火活動を行う。

        「自分たちのふるさとは自分たちで守るんだ」という気概
        に満ちた消防団こそ、「国民が社会における自己の責任を
        自覚し、国家社会の発展に積極的役割を担う」という精神
        を体現していると思いますね。[2,p39]

     子供たちが消防団に体験入隊したり、その活動を手伝うこと
    で、地域のために役立つ喜びを感じる機会を持てるだろう。そ
    れは健全な大人になるための不可欠のプロセスである。

■8.「自然との共生や一体感をはぐくむ教育」■

     地域とは、人々の共同体であるとともに、それを支える自然
    環境も含む。現在の教育基本法は自然や環境への言及はまった
    くないが、新法案では環境教育についても一項を立てている。

        第17条(環境教育)
         地球環境を保全するため、あらゆる段階において、自然
        を尊び、自然との共生や一体感をはぐくむ教育を重視する
        ものとする。

     この項目の趣旨について、古川禎久・衆議院議員はこう解説
    する。

         日本の神話、特に天照大神の「天壌無窮の神勅」には、
        「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国」という
        形で、わが日本は稲穂の国だと表現されていんですね。で
        すから、天皇陛下は春になると、皇居にある田んぼで自ら
        苗を植えられ、秋には収穫され、その稲穂を宮中三殿と伊
        勢神宮に捧げられている。

         また、「日本書紀」でも、スサノヲノミコトが日本には
        こんなに素晴らしい樹木という宝物があるではないかとおっ
        しゃって、スサノヲは樹木神ということになっている。

         ですから、日本には、美しい緑の国土があり、稲作を中
        心とした村落共同体がしっかりとあって、そこから我が国
        の歴史・伝統・文化も生まれてきた。それが自然との共生
        であったり、豊かな恵みに感謝する心であったり、和を尊
        ぶ人間関係、わび・さび・もののあわれという美意識であっ
        たわけです。

         その意味で、「環境教育」を通じて、日本の伝統的価値
        観の素晴らしさに気付かせると共に、日本が稲作共同体で
        あったという歴史をきちんと受け継がせたいと考えたので
        す。[2,p43]

     地域教育は、地域の自然への愛情につながり、そしてその自
    然を守り、また自然に守られてきた先祖の歴史・文化・伝統に
    もつながっていく。子供たちにはそうした広やかな世界にぜひ
    目を開いて貰いたいものである。

■9.「人間は生まれながらにして尊厳がある」のか?■

     現行の教育基本法は「われら、個人の尊厳を重んじ、真理と
    平和を希求する人間の育成を期する」と謳うように、そこに描
    かれた人間像は、虚空を飛び交う原子のように、共同体から切
    り離された「個人」でしかない。家族、地域、国家という根っ
    こを持たなければ、それこそ、好き勝手に離婚し、祖母よりも
    犬猫を大事にするような人間しか育たないのではないか。

         伝統や慣習、道徳律というものをしっかり身につけ、共
        同体の一員としていかに価値ある生き方をするのかを懸命
        に求めようとするところに「人間としての尊厳」があるの
        であって、そうした努力をしない人に対しても無条件に
        「尊厳」を認めてしまうという考え方は、少なくとも教育
        の場にはなじまないのではないでしょうか。・・・

         何故なら、「人間は生まれながらにして尊厳がある」と
        いう言い方をしていると、結局は子供たちに「先人が築い
        てきた伝統や文化、そして道徳や生活習慣などを身につけ
        なくともいい」という誤ったメッセージを送ってしまうこ
        とになるからです。(鷲尾英一郎・衆議院議員)[2,p54]

    「個人の尊厳」とは、家庭、地域、国家、国際社会という共同
    体の中で、各個人がその個性と能力を磨いて貢献をなす過程で、
    もたらされるものである。こういう基本的な人間観が欠落して
    いるのが、現行の教育基本法の本質的な欠陥であり、現代日本
    の多くの教育問題もここから起こっている、と考えられる。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(170) 個人主義の迷妄〜「国民の道徳」を読む
    奉仕活動をする青年も、援助交際をする女子高生も、同じく
   「個人の尊厳」では、、、 
B. JOG(442) 「科学から空想へ」 〜 現代日本の教育思想の源流
    「子供の権利」「自己決定権」「個性尊重」など の教育思想
   の源泉にある「空想」。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 産経新聞、「安倍政権の政策 『教育法改正』最優先に テロ
   特措法の成立期す」、H18.09.21 東京朝刊 2頁
2. 教育基本法改正促進委員会起草委員会「教育激変―新教育基本
   法案がめざす「家庭」「学校」「日本」の10年後」★★★、明成社、
   H18 

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「ないないづくしの教育基本法」に寄せられたおたより

                                       「2児の母」さんより
     安倍新総理が教育基本法も改正する、と言われていて、でも
    具体的にどのように変えようとしているのかまでわからなくて
    不安でしたが、今号を拝読いたしまして、今の教育基本法の足
    りなかった部分、一番大事な土台の部分を明文化されるのだと
    いうことがわかってほっとしました。

     そう、この部分が欠落していたために、道徳の時間も、私の
    子どもの頃にも授業時間は確かにありましたが、何を具体的に
    教える時間なのか、まで統一したものがなかったようで、あっ
    て無きが如くのような時間でした。この部分がしっかりとして
    初めて、他国の文化との違いもはっきりと意識され、受け入れ
    るもの、拒否するものを選別する価値判断基準になると思いま
    す。

     今の家庭科の教科書にそのような記述があるというのは、初
    めて知りました。あまりの価値観の違いに驚きです。おかしい
    ことをおかしい、と言えずに、それもあり、あれもあり、と受
    け入れていった挙句の果ての結果だろうか?と首を傾げたくな
    るような記述です。昔ながらの伝統を古い風習と否定してしまっ
    ては、きっとこの国は日本国でなくなってしまうと思います。
    新しいものもそれはそれで良しとする反面、大事なことが伝統
    の中に今も息づいている部分が必ずあると思うので、有名な四
    字熟語やことわざにあります、「温故知新」「初心忘れるべか
    らず」、きっと今でも生きている言葉だと思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     教育基本法に関する議論を通じて、今後のわが国の教育のあ
    るべき姿を描いていく事が大切だと思います。

© 平成18年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.