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■■ Japan On the Globe(470)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

     Common Sense: 国際派商社マンの本領(そこぢから)
            〜 泉幸男氏の『日本の本領(そこぢから)』を読む

                   「日本の本領」を国際社会で発揮する道とは。
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■1.「韓国や中国は"隣国"で、米国や英国は遠い国、なのか?」■

    「日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々
    に、、、」というのが、平成17年、自民党が発表した新憲法
    草案の前文の始まりだった。かつて本誌に何度か登場いただい
    た国際派商社マン・泉幸男氏[a,b]はこれに違和感を感じたと
    して、その理由をこう語る。

         ・・・商社マン生活をしていると日本が地球上のどこに
        あるかなんて、それほどだいじなことではないからだ。
         韓国や中国は"隣国"で、米国や英国は遠い国、なのか?

         東京の自宅から北京のホテルへ着くまで、十時間あまり。
        これが、東京の自宅からニューヨークまでだと、十八時間。
        機内食が一食か二食か、ていどの違いにすぎない。まして
        インターネットには時間のロスもない。

         危険な国と隣り合わせにいるわれわれであってみれば、
        国境の概念がとびきり大切であることは言うまでもないけ
        れど、日本人の「居場所」を語るとき、いまさら「アジア
        の東、太平洋と日本海の波洗う島々」はないだろう。
        [1,p188]

     泉氏の2冊目の著書が上梓された。論じられているテーマは、
    天皇、憲法、言語政策、道州制、少子化対策など、およそ商社
    マンには専門外の分野だ。それなのに、なぜか、このような鋭
    い発想が次々と飛び出してくる。

     この本領(そこぢから)は、泉幸男氏の個人的文才もさるこ
    とながら、氏が国際派商社マンであるところから来ている、と
    いうのが、私の見方である。

     泉氏との対談[a]で、氏が学生時代に朝日新聞を愛読し、
    「朝日新聞の記者になりたかった」と語られた時には驚いたが、
    氏が初志を貫徹して朝日の記者になっていたら、こんな発想は
    出てこなかったろう。

■2.対極をなす新聞社と商社■

     というのは、新聞社と商社とは、ある意味で対極をなす職業
    だからだ。

     新聞社はどんな「絵空事」を説いていても、つぶれることは
    ない。宅配制度に守られて、販売店員に景品つき押し売り競争
    をさせていれば、売上は確保できる。大多数の記者はまっとう
    な常識を持っていると信じたいが、一部の非常識な記者は、社
    会の現実に触れず、また自らの言説に責任を持つこともなく、
    自らの紡いだ「絵空事」の繭(まゆ)の中で、ぬくぬくと生き
    ていける。

     一方の商社マンは、安全・快適な国内で人権やら国際平和や
    らと「絵空事」を唱えているヒマはない。危険な場所にも出掛
    けて、抜け目のない華僑や、袖の下を待ち受けている発展途上
    国の役人などを相手に、丁々発止のやりとりをしなければなら
    ない。取引に失敗すれば、何億、何十億の損失を蒙る真剣勝負
    である。

     泉氏が、商社マンとなって3年間北京に駐在してから、朝日
    への百年の恋が醒めた、というのは、さもありなん、と思った。

     氏が朝日新聞社に入っていたら、今頃『日本の本領』とは正
    反対の「絵空事」を、パワフルな文章で述べていたかもしれな
    い。そういう恐るべき事態を、氏を採用し、北京駐在の機会を
    与える事で、未然に防いでくれた商社に感謝したい。

■3.「『東アジア共同体』という絵空事」■

    「日本はアジアの東」「韓国や中国は"隣国"」という発想の延
    長が「東アジア共同体」である。それをなぜか朝日新聞は、
    「2005年の始まり アジアに夢を追い求め」と題して、次
    のように熱く説くのである。

         EUのように、とは言わない。アジアの実情にあった緩
        やかな共同体の実現に向けて、まずは夢を追い求めたい。
        [2]

     この構想を、泉氏は「『東アジア共同体』という絵空事」と
    題した章で、ばっさりと斬って捨てる。「東アジア共同体」と
    は、ヨーロッパで言えば「ヨーロッパ・アフリカ共同体」を作
    るようなものだ、と言うのだ。

     確かに東アジアには、所得レベルで数万ドルレベルの日本か
    ら100ドル以下の中国辺境の貧民までいるので、それらを統
    合すれば「ヨーロッパ・アフリカ共同体」になってしまう。

        「ヨーロッパ・アフリカ共同体」なんてものが、できてみ
        ろ。アフリカの億単位の貧民に、ヨーロッパ文明国家の門
        戸が開く。花のシャンゼリゼ通りも旧フランス植民地の貧
        民であふれるだろう。・・・

        「東アジア共同体」なんてものができて、わが東京や大阪、
        名古屋が、中国の貧困地区からの移民であふれかえったら、
        どうするつもりだ。[1,p140]

     この記事が書かれたのは平成17年8月だが、その2ヶ月後、
    フランス全土でアフリカ系移民の大暴動が20日間も続き、数
    千台の車が放火される、という事件が発生した。「ヨーロッパ
    ・アフリカ共同体」ができたら、こういう事が日常茶飯事とな
    るだろう。

■4.中国とASEAN各国との間の火種■

    「靖国参拝は、中韓をはじめとするアジア諸国の心を傷つける」
    などと朝日新聞に論じられると、「アジア諸国は一枚岩」と思
    い込んでしまう読者も多いだろう。しかしそんな見方は、商社
    マンとして長らく仕事をした泉氏によって、すぐに「絵空事」
    と暴かれてしまう。

         中国とASEAN各国とのあいだには、華僑・華人問題
        (中国籍ないし中国系国民への差別)、領土問題(南沙諸
        島の帰属)、歴史問題(ポルポト虐殺をもたらした中国の
        位置づけ)、水問題(メコン河上流での取水)等の火種が
        ある。
         じつは靖国参拝問題ごときより厄介なものばかりだ。
        [1,p165]

     そんななかでタイとミャンマーは、中国とのあいだに大きな
    懸案がない。「抑圧国家ミャンマーは同病相哀れむが昂(こう)
    じてすっかり中国の属国となったが」[1,p166]、この点をAS
    EAN諸国はどう見ているのか。

         そんなASEAN諸国をさぞや立腹させたであろうと思
        うのが、相変わらず繊細な配慮に欠ける中国の言動だった。

         ASEAN諸国がこれまでの「内政不干渉」の原則をか
        なぐり捨てて、ミャンマーの軍事政権に皆でお灸を据えよ
        うと合意した二日後の十二月十四日、中国の温家宝首相は
        何をしたか。

         ミャンマーのソー・ウィン首相と会談するや、内政不干
        渉の原則を賞賛し、ミャンマー軍事政権をこれ見よがしに
        支持してみせたのである。[1,p156]

■5.「東南アジア文明圏の庭に泥靴で踏み込む中国」■

         中国側がいう「内政干渉」とは、中国ないし中国の子分
        格の国に対して諸外国は文句をつけるな、ということ。

         逆に中国から周辺諸国に対しては、内政干渉めいた行為
        のし放題であることはご存知のとおり。「強制」一歩手前
        の、あらゆる挑発・恫喝・こき下ろしが許されるというの
        が、中国の基本発想である。

         そして、またやってしまったわけですな。[1,p156]

     これをASEAN諸国がどう受けとめたか、泉氏の記述には、
    タイやフィリピンで仕事をしてきた現場感覚が息づいている。

         ASEANの首脳らは、中華風の小便を顔にひっかけら
        れた思いがしたことでしょう。

         東南アジア人は、居丈高には怒りませんけどね、スーー
        ーッと引いて怒りを沈潜させるのです。

        「東南アジア文明圏の庭に泥靴で踏み込む中国」を、温家
        宝という大根役者はみごとに演じてしまったのだが、これ
        がいかに東南アジア側の顰蹙(ひんしゅく)をかったか、
        中国側はまったく悟っていないだろう。

         こんな中国であるかぎり、ASEAN側は必ず距離を置
        く。

■6.「自由貿易圏構築へ弾みをつけようとの試み」!?■

    「東アジア共同体」を夢見る朝日新聞は、中国とASEAN諸
    国との経済的統合が進んでいる事を盛んに報道する。

         中国とタイが、10月から農産物188品目の関税を撤
        廃する。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が、自
        由貿易協定(FTA)の創設に向けた協定を結んでから約
        1年。自由貿易圏構築へ弾みをつけようとの試みが、具体
        的に動き出した。[3]

     こんな報道に日本だけが置いていかれるのではないか、と心
    配する向きも少なくないだろう。しかし、この「自由貿易圏構
    築へ弾みをつけようとの試み」の結果は、こうだった。

         ものは試しの農産物価格関税ゼロが、タイでは大きな社
        会問題になった。タイの価格の二分の一から三分の一の安
        価なニンニク、タマネギ、リンゴが、タイの東北部に流入
        して農民に壊滅的な打撃をあたえたのだ。

         タイのメディアで中国関連といえばここ二年間、FTA
        に対する賛否を論ずるものがかなりを占めた。

        「FTAのおかげで、タイの東北部は中国農産品の洪水だ。
        FTA締結は、とんでもない間違いだった」と嘆く上院議
        員。
        「中国はタイを植民地にする気か」といきまく新聞記者・
        ・・・。[1,p166]

■7.「東南アジア地場先業の工場は地獄を見るのではないか」■

      中国の工業製品もタイの市場を席巻しつつあるが、それを
     タイ国民はどう見ているのか?

         タイ人と話していると、中国の商品を露骨に見下すので、
        日本人のコラム子でさえ「そこまで言うか・・・」と戸惑
        うことがある。

         タイの商品市場は、高級・中級品を扱うショッピングセ
        ンターと中級・下級品を売るわっさわっさした露天市に二
        極分化している。前者で日本ブランドが元気のいい分、後
        者は中国の商品が席巻しつつある。
        
         下級市場を席巻したばかりに中国品はみごとに格下のレッ
        テルと化し、一段上へ這い上がる糸口が見えない。
        [1,p164]

     泉氏は、中国製品が席巻する東南アジア市場の未来をこう予
    測する。

         平成二十年の北京オリンピックの終幕とともに、中国国
        内の土建バブルも幕を引き、中国企業は東南アジア市場に
        怒濤のような商品放出・プラント受注攻勢を仕掛けてくる
        だろう。・・・

         現状では平成二十二年に中国とASEAN間のFTA発
        効が想定されている。何とも恐ろしいタイミングだ。・・
        東南アジア地場先業の工場は地獄を見るのではないか。
         [1,p174]

■8.「日本の影が余りにも薄い」?■

     東アジア共同体構想に「前のめり」にならない日本政府を朝
    日は、「何とも気がかりなのは、日本の影が余りにも薄いこと
    だ」[4]などと、けしかける。ASEAN諸国と中国の結びつ
    きが強まる中で、日本だけが蚊帳の外という印象をふりまくが、
    はたして現実はどうなのか。

     泉氏は公称100万部の『タイラット』紙の平成18年4月
    3日号に載っている外国企業の広告をこう紹介する。

        トヨタ(一頁分の全面広告)、松下電器(一頁)、ヨーク
        (米国の空調メーカー、一頁)、本田技研(一頁)、モト
        ローラ(四分の一頁)、フィリップス(半頁)、ソニー
        (一頁)、GE(半頁)、キャノン(半頁)。・・・

         ページを繰っていて、
        「あ、日本企業、また日本、あ、また・・・・」
        と思わずつぶやいた。とにかく元気なプレゼンス。[1,p162]  

     思わず吹きだしてしまったのは、広告の中には「サイジョー
    ・デンキ」や「ミスシタ」などという「コテコテのタイ地場企
    業」まであることだ。

■9.「日本の本領(そこぢから)」を国際社会で発揮する道■

     何のことはない。すでに日本企業は東南アジアに無数の工場
    を建て、多くの現地従業員を雇い、消費者には圧倒的なブラン
    ドを確立している。中国でも似たような状況だろう。この「東
    アジア経済共同体」とも呼べる現実を無視して、さらなる「政
    治共同体」を夢見る朝日新聞の動機は何なのか?

    「お隣どうし仲良く」を理想とする日本の古き良き農村感覚か
    らか、あるいは、共産革命への夢破れ、今はせめて中国と一体
    化したいという郷愁からか。いずれにしても現実から遊離した
    「夢」に過ぎない。

     自らの「夢」をもとに「絵空事」を描く。そういう姿勢から
    はASEAN各国が中国との関係においていろいろな問題を抱
    え、怒り苦しんでいる現実は見えてこない。特定のイデオロギ
    ーの色眼鏡で、自分の夢に合った「絵空事」を描くというので
    は、どこぞの共産主義独裁国家の御用新聞と変わらない。

     国際社会で指導的な役割を果たす国とは、多くの国民が泉氏
    のように国際的に活躍し、それを通じて各国の現実をよく理解
    し、そこで磨かれた国際感覚を持って、外交や貿易、国際交流
    を進めていく国であろう。それが「日本の本領(そこぢから)」
    を国際社会で発揮する道である。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(369) 独立国家とコモン・センス
   〜 「国際派時事コラム」泉幸男氏との対話
    福沢諭吉曰く「独立の気力なき者は、国を思うこと深切なら
   ず」。 
b. JOG(409) 泉幸男氏の『中国人に会う前に読もう』
    中国の「お家の事情」が分かれば、 中国人との付き合い方も
   見えてくる。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 泉幸男『日本の本領(そこぢから)』★★★、彩雲出版、H18
2. 朝日新聞「2005年の始まり アジアに夢を追い求め(社説)」
   H17.01.01、東京朝刊、3頁
3. 朝日新聞「動き始めた『自由貿易圏』 中国・タイ、農産物関
   税10月に撤廃」、H15.08.21、東京朝刊、10頁
4. 朝日新聞「(社説)東アジア 共同体めざして息長く」H17.08.01
   東京朝刊、3頁  

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「国際派商社マンの本領」に寄せられたおたより

                                             時宗望さんより
     現在、東アジア共同体に関する卒業論文を書いています。

     賛否両論ありますが、日中の和解を推し進め、普遍的価値に
    基づく、開かれた共同体を目指していけることを祈っています。
    最終目標は、中国共産党政権の退陣です(笑)

     かつての古代ローマ帝国のような、自由な市民が中心となっ
    た東アジア共同体の実現を願ってやみません。それはアメリカ
    を排除するものでも、中国の残酷な抑圧体制を維持するもので
    もなく、むしろ中国をはじめとした独裁体制の変革を促し、独
    自の文化と自由民主主義にもとづくまったく新しいアジアを築
    き上げるものであってほしいと思います。

© 平成18年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.