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■■ Japan On the Globe(515)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

          The Globe Now: 石油で読み解く覇権争い

                            北野幸伯著『中国・ロシア同盟が
                           アメリカを滅ぼす日』を読む
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■1.アメリカは民主主義のために戦っているのか?■

     ブッシュ大統領は二言目には「民主化」「民主主義」と言う
    が、それが「インチキなみせかけ」であることを、「一瞬にし
    て証明しましょう」と北野幸伯氏は新著『中国・ロシア同盟
    がアメリカを滅ぼす日』で語る。[1,p74]

         もしアメリカが民主主義のために戦っているなら、「独
        裁者」と仲良くしてはいけないことになりますね。

         実際、アメリカはアフガンを攻め、イラクを攻め、今は
        イランを敵視していますから、「そのとおり!」ではあり
        ます。

         まるごと、そうでしょうか?

         サウジアラビア、アゼルバイジャン、カザフスタン、ト
        ルクメニスタン。

         思いつくままザッとあげましたが、この4国の特徴はな
        んでしょう?

         そう、イスラム教の独裁国家であること。・・・

         これらの国々はイスラムで独裁なのに、アメリカとそこ
        そこいい関係を築いているのです。

■2.アメリカにとって「石油は民主主義よりも大事」■

     アメリカと仲良くしているこれら4つのイスラム教独裁国家
    には共通点がある、と北野氏は指摘する。[1,p75]

         そう、石油か天然ガス、あるいは両方がたっぷりある。

         そうなのです。これらの国々はイスラム教で独裁ですが、
        石油・ガスがたっぷりあり、アメリカに反抗していない。
        だから、アメリカは独裁者を保護しているのです。

         一言で言えば、アメリカにとって、「石油は民主主義よ
        りも大事」ということ。

     アメリカの石油需要量は増え続ける。2000年の日量約2千万
    バレルが、2030年には2580万バレルに達する。世界需要も大幅
    に伸びるが、その中でのアメリカの消費シェアは2000年の26
    %から2030年でも23%と、世界一の石油消費大国の地位は揺
    るがない。

     アメリカは石油生産大国でもあり、2000年の国内生産量は
    日量1000万バレルと、世界の原油生産の8分の1を占める。し
    かし、国内の確認埋蔵量は約300億バレルで、11年後には
    枯渇してしまう。輸入に頼らざるを得ない。

     世界の推定石油埋蔵量も2千億バレルから9千億バレルまで
    とバラツキがあるが、2040年から2060年までには石油が枯渇す
    る、というのが、多くの専門家の意見である。

     枯渇していく世界の石油供給の中で、いかに自国の生存と繁
    栄をかけて、石油を確保するか。国際社会では激しい石油争奪
    戦が繰り広げられており、その中でアメリカが本音では「石油
    は民主主義よりも大事」と考えるのは、当然なのである。
    
■3.「アメリカ政府は躊躇なく武力を行使する」■
    
     その石油をどこから調達するか。埋蔵量で見ると、1位サウ
    ジアラビア、2635億バレル、2位イラク1125億バレル、以下、
    アラブ首長国連合、クウェート、イランと続くが、バーレーン、
    オマールなどを含め、中東の9カ国で全世界の65%を占める。

     当然、中東石油への依存度は高まっていく。1999年の中東石
    油は世界需要の27%をカバーしていたが、2020年には39%
    となる。

     アメリカが中東の重要性を認識したのは、73〜74年のオイル
    ショックだった。1973年に第4次中東戦争が勃発すると、アラ
    ブ諸国はイスラエルの肩を持つアメリカへの原油輸出停止と他
    諸国への輸出制限を行った。このオイルショックが世界経済に
    大打撃を与えた。

     1975年、国務長官キッシンジャーは「(産油国の行動が)な
    んらかの形で先進工業世界の首を絞める事態が起これば、アメ
    リカ政府は躊躇なく武力を行使する」と断言した。

     1979年、イランの親米的な国王がイスラム原理主義勢力に追
    放される革命が起こり、世界は第2次オイルショックに直面し
    た。カーター大統領は「ペルシャ湾の支配権を握ろうとする外
    部勢力の試みは、いかなるものであれ、アメリカ合衆国の死活
    的国益に対する攻撃と見なされ、必要ならば武力行使を含むあ
    らゆる手段によって排除される」と警告した。

     1980〜88年のイラン・イラク戦争では、アメリカはサダム・
    フセインを支援したが、そのフセインがクウェートに侵攻する
    と、アメリカを中心とする多国籍軍が湾岸戦争に踏み切った。

     敗戦後、フセインは国連の許可を得て、石油輸出を再開した
    が、相手はロシア、中国、フランスだった。国連常任理事国に
    石油利権を与えて、アメリカの攻撃をかわそうとしたのである。
    しかし、アメリカは3国の抵抗を押し切って、第2次湾岸戦争
    を始め、この利権を取り戻した。

     こうして見ると、アメリカは中東石油の利権を脅かす存在に
    は、武力行使をためらわない、というのが、石油ショック以来
    の確固たる国策となっている事が分かる。
    
■4.イランと北朝鮮■

     イラクのフセイン政権が打倒されて、いまや中東産油大国で
    アメリカの支配が及んでいないのは、イランだけとなった。そ
    のイランの核開発問題に関して、ブッシュ大統領は武力行使も
    ありうることを示唆している。

     しかし、ここでも核問題は表向きの理由のようだ。2005年に
    ラムズフェルド国防長官(当時)は、「現時点では(核兵器を)
    保有していないことは、イラン側の公式声明から極めて明らか
    だ」と語っている。

     北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)から脱退して、核実験に
    踏み切ったのに対し、イランはNPTとIAEA(国際原子力
    機関)の中での平和的な核技術開発を主張している。それなの
    に、ブッシュ大統領は「北朝鮮を攻撃する意思はない」と明確
    な意思表示をする一方、イランに対しては「どんな選択肢も決
    して除外しない(武力攻撃もありえる)」と語っている。

     これほどあからさまな二重基準もないだろう。核兵器問題は
    表向きの理由に過ぎず、本当の狙いはイランの石油にあるので
    ある。
    
■5.中国とイランの接近■

     石油を巡ってアメリカとの覇権争いを演じているのが、中国
    である。中国の石油消費量は、1999年の日量430万バレルか
    ら2030年には1500万バレルまで、3.5倍に増加すると予
    測されている。世界の石油需要において、アメリカの23%に
    続き、第2位の13%を占める。

     自国の経済成長のためにも石油が必要であり、また枯渇して
    いく石油資源を囲い込むことで、アメリカの覇権に横やりをい
    れることができる。

     そこで、中国は中東産油国に着々と接近している。まずはア
    メリカに睨まれているイラン。04年10月、イラン西部にある
    確認埋蔵量300億バレルの巨大油田ヤダバランを中国のシノ
    ペックが開発するという覚え書きを交わした。

     また06年1月、チャイナ・オイルフィールドがカスピ海の海
    底油田採掘工事に関する契約を締結。駐イラン中国大使は、契
    約締結後の式典で「中国とイランは世界の主要国から偏見を受
    けている被害者で、両国の協力関係を強化すべきだ」と発言し
    た。「世界の主要国」とは、もちろんアメリカのことである。
    中国のイランからの石油輸入量は激増し、サウジからの輸入を
    抜いてトップとなった。

■6.親米産油国にも接近する中国■

     中国の触手は、親米産油国にも伸びている。クウェートの
    投資を得て、広東省広州市にクウェート産原油を精製する工場
    を建設する計画が進んでいる。

     またサウジアラビアのアブドラ国王と、胡錦涛国家主席は相
    互訪問し、石油・天然ガス・鉱物分野の協力強化に関する議定
    書に調印した。

     2004年、胡錦涛主席がカイロを訪問した際に、第一回の「中
    国・アラブ国家協力フォーラム」が開催され、翌2005年にはア
    ラブ22カ国の代表を北京に招いて、第2回を開催した。その
    場で2008年までに、初の「中国・アラブ石油協力会議」を開く
    ことに合意した。

     こうした中国の暗躍を、アメリカは苦々しい思いで見ている
    に違いない。
    
■7.カスピ海に手を伸ばすアメリカ■

     石油確保のために、中東の次に重視されているのが、カスピ
    海沿岸の地域である。米エネルギー省は2000年6月に、この地
    域の埋蔵量は2350億バレルに達する可能性がある、と発表して
    いる。これは世界の埋蔵量の20%に相当する。

     特にカスピ海西岸のアゼルバイジャンは旧ソ連時代から石油
    の一大供給地だった。ソ連が崩壊して、1991年にアゼルバイジャ
    ンが独立すると、アメリカが目をつけた。

     しかし問題は、どうやって石油を運び出すかである。すぐ北
    はロシア領土であり、そこを通るパイプラインは、ロシアの管
    轄下に入ってしまう。1996年、クリントン大統領は、アゼルバ
    イジャンのゲイダル・アリエフ大統領に電話をした。西の隣国
    グルジアを経由し、トルコから地中海に抜けるパイプラインを
    建設して、世界市場に供給する、という提案である。アリエフ
    は即座に同意した。

     グルジアも1991年に旧ソ連から独立し、親米路線をとってき
    た国である。ロシアはパイプライン建設を阻止しようと、グル
    ジアに圧力をかける。グルジア内で独立を目指して中央政府と
    対立する地方政府を支援し、紛争を煽った。またグルジアへの
    ガスや電力の供給を制限して、経済に大打撃を与えた。

     ロシアの圧力でグルジアがぐらついてきた処に、2003年11
    月、議会選挙が実施され、与党が勝った。そこにアメリカが支
    援するNPO(非営利団体)が、出口調査では野党が勝ってい
    たと発表。これを口実に親米派の野党勢力が大々的なデモを展
    開し、国会議事堂を占拠。ついには、政権を奪取した。

     アゼルバイジャンからグルジア経由でトルコに抜けるパイプ
    ラインは2006年6月から稼働を始め、ロシアに大打撃を与えて
    いる。

     この地域は、ロシアにとって裏庭のようなものである。しか
    もかつては自分の領土だった。そこの石油をアメリカに奪われ
    て、プーチン大統領は激怒した。

■8.反米同盟、上海協力機構■

     2001年6月、上海協力機構が創設された。加盟国は、中国、
    ロシア、それに中央アジア4カ国(カザフスタン、ウズベキス
    タン、キルギス、タジキスタン)。

     中国から見れば、ロシアは武器輸入の90%を占める貿易相
    手であり、なおかつ石油の供給源でもある。ロシアにとっても、
    アメリカはソ連崩壊後、IMF指導を通じた「経済改革」で大
    混乱させられた敵であり[a]、その敵の敵・中国は味方である。

     そして中央アジアには巨大な石油資源があり、しかもここは
    中ロの間に位置する、防衛上きわめて重要な地域である。

     中、ロ、中央アジア諸国の結びつきは地政学的に見ても、当
    然のシナリオなのである。

     しかし、アメリカはこの動きを座視してはいない。キルギス
    では、05年3月「チューリップ革命」が起きた。グルジアと同
    様、アメリカが暗躍して親米勢力に政権を取らせたのである。
    ウズベキスタンでも、その2カ月後に革命未遂が起きたが、も
    うアメリカの手口は明らかになっていた。ウズベキスタン政府
    は、親米勢力を武力鎮圧した。

     旧ソ連諸国の独裁者たちは、はっきりと理解したのである。
    アメリカとつきあっていると、いつ「民主革命」を起こされる
    かわからない。ロシアや中国は同じ独裁国家で話もしやすい。

     05年7月、上海協力機構の準加盟国として、イラン、インド、
    パキスタンが承認された。中東で唯一、アメリカに従わない国
    イランを準加盟国とする、ということは、中ロがイランをアメ
    リカから守る、というメッセージであろう。これまで3回戦争
    をしているインドとパキスタンが仲良く入っていることは、中
    ロ同盟の影響力の強さを示している。

     中ロを枢軸として、ユーラシア大陸の内陸部は反米同盟で固
    まりつつあるのである。

■9.石油争奪戦を超越するには■

     こうした石油を巡る覇権争いの中で、我が国はどう振る舞う
    べきか。北野氏は、いくつかのシナリオを提示しているが、そ
    れは著書を見ていただきたい。

     我が国のとるべき短期戦略について、私見を述べれば、米国
    の覇権のもとで供給される中東石油に依存している以上、米国
    の政策がいかに自国本位のものであれ、それに協力していくこ
    とは我が国の国益にも適う。

     しかし日米同盟は、米軍のアジアからインド洋への展開に不
    可欠であり、この点でアメリカは日本を同盟国として尊重せざ
    るをえない[b]。したがってアメリカの戦略に盲従する属国で
    はなく、主体的に物言う同盟国となりうるし、またそうなるべ
    きなのである。

     それでも中期的には、世界の石油供給がいずれ枯渇してしま
    う以上、石油はますます高価になり、その争奪戦はますます激
    しくなっていくであろう。その争いから身を守るためにも、早
    く代替エネルギーを開発し、石油依存から脱却すべきである。
    それが真の平和、安定、繁栄への道である。[C]
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(382) 覇権をめぐる列強の野望
   北野幸伯『ボロボロになった覇権国家(アメリカ)』を読む。
b. JOG(084) 気がつけば不沈空母
    国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の
   拠点となっている。
c. JOG(513) 石油で負けた大東亜戦争 
    日本は石油供給をストップされて敗北したが、 現在でもその
   リスクはさらに深刻化している。 
   
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 北野幸伯『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』★★★
   草思社、H19




 

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