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                    原爆開発とユダヤ人

                                                   伊勢雅臣
■転送歓迎■ No.1394 ■ H20.01.28 ■ 9,482 部 ■■■■■■■

  
     国際派日本人養成講座 第532号「天才・ユダヤ、達人・
    日本(下)」[a]では、

         アウシュヴィッツと広島は、成功したアウトサイダー、
        ユダヤと日本に対する人種差別の頂点をなすものであった。

     と、述べたが、実はアメリカの原爆開発にユダヤ人科学者た
    ちが、重大な貢献をしている。しかし、彼らはナチス・ドイツ
    を倒すために原爆開発に取り組んだのであって、それが日本に
    対して使われることには最後まで反対した。

     そもそもアメリカが原爆開発に着手した契機は、アインシュ
    タインが1939年8月にルーズベルト大統領に書簡を送って、原
    子力兵器の開発計画を立てるよう進言したことである。

     その前月、ナチから逃れてきた2人のハンガリー系ユダヤ人、
    レオ・シラードとユージン・ウィグナーが、すでにアメリカに
    亡命していたアインシュタインに、「最近になってドイツは原
    子力エネルギーの制御に成功した、このままではナチが原子爆
    弾を作ってしまう、ドイツより先に原子爆弾を開発するようア
    メリカ政府に訴えてくれ」と頼んだ。アインシュタインはそれ
    に応えたのである。

     ルーズベルト大統領はアインシュタインの進言を受け入れ、
    原子爆弾開発を目指すマンハッタン計画が開始された。

     マンハッタン計画には多くのユダヤ人科学者が加わった。最
    も有名なのはリーダーに選ばれたロスアラモス研究所長のジュ
    リアス・ロバート・オッペンハイマーだが、それ以外にもレオ
    ・シラード、ニールス・ボーア、オットー・フリッシュ、ユー
    ジン・ラビノヴィッチ、ジェームズ・フランク、フェリス・ブ
    ロック、エドワード・テラー(後に水爆を開発)などがいた。

     ユダヤ人にとって、ナチ・ドイツが原爆を開発して、英米に
    勝利することは、ユダヤ人弾圧・虐殺が世界中に広がることで
    あり、まさに悪夢だった。アメリカが先に原爆を開発し、ヒト
    ラーの意気の根を止めることが、ユダヤ人の生き残りの鍵と考
    えられたのだろう。

     ドイツの降伏が目の前に迫り、米政府が原爆を日本に対して
    使おうと考えられていることを知ると、ユダヤ人科学者たちは
    ショックを受けた。日本は人種差別的なイデオロギーを広める
    ことも、大量虐殺もしていなかった。それどころか、ヒトラー
    から逃れてきた多くのユダヤ人たちを助けてさえいた。

     1945年3月25日、アインシュタインはルーズベルト大統領
    に手紙を書いて、日本に対して原爆を使わないよう要請した。
    しかし、ルーズベルトはその手紙を読まないまま、4月12日
    に病没した。

     5月にドイツが降伏すると、レオ・シラードはトルーマン大
    統領宛の請願書を書いた。「日本に対する原爆使用は正当性が
    ない、日本への原爆投下は国際犯罪となり、全世界が大量破壊
    兵器の脅威にさらされる時代を招来する」、という内容だった。

     この請願書は強い言葉で書かれていて、十分な署名を集めら
    なかったため、シラードは、原爆を投下する前には日本に十分
    な警告を与えるよう求める内容に修正した。この第2の請願書
    は67人の科学者が署名し、大統領宛に送付された。

     しかし、この訴えも無駄に終わり、8月6日、人類最初の原
    爆が広島に投下されたのである。

     日本人はユダヤ人を助けたのに、ユダヤ人は原爆を開発して
    恩を仇で返したという見方もあるが、ユダヤ人科学者が原爆開
    発に協力したのは、あくまで同胞を助けるためであって、その
    志は道義的なものであった。

     責任は、すでに誰の目にも敗北が明らかになっていた日本に
    対して、それも一般市民が多数居住する都市に無警告で原爆を
    投下した米政府にある。トルーマン大統領の原爆投下の決断は、
    東ヨーロッパと極東に勢力を伸ばしつつあるソ連との「冷戦」
    の最初の作戦だった、という見方を、国際派日本人養成講座
    99号で紹介している。[b]

■リンク■
a. JOG(532) 天才・ユダヤ、達人・日本(下)
            〜 助け合うアウトサイダー
    人種差別の横行する国際情勢の中で、ユダヤ人と日本人は助
   け合って、危機を乗り越えた。
b. JOG(099) 冷戦下のヒロシマ
    トルーマンは、ソ連を威圧するために原爆の威力を実戦で見
   せつけた。
   
■参考■
1. ベン=アミー・シロニー『ユダヤ人と日本人の不思議な関係』、
  成甲書房、H16
 
 

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