[トップページ] [平成10年上期一覧][The Globe Now][332.1 日本経済][509 モノづくり大国日本][600 産業]
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        _/  _/    _/  _/           Japan On the Globe (33)
       _/  _/    _/  _/  _/_/      国際派日本人養成講座
 _/   _/   _/   _/  _/    _/    平成10年4月18日 2,398部発行
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_/_/      The Globe Now: 世界を支える匠の技術		
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_/_/           ■ 目 次 ■
_/_/    1.フォードから破格の申し入れ
_/_/    2.世界企業と互角に渡り合う日本の中小企業
_/_/    3.世界のハイテク産業を支える匠の技術
_/_/    4.匠の技術から先端プロセス技術へ
_/_/    5.人材と企業を生かす事業の本道
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■1.フォードから破格の申し入れ■

 埼玉県の中堅メーカー、津田工業に米国フォード社から「どうして
も貴社の製品が欲しい」と思いがけない申し入れがあったのは、93
年秋のことだった。それから再三再四、フォード社幹部の訪問を受
け、看板車種トーラスのセンターコンソール部のスイッチ類を全量
供給することが決まった。[1]

 フォード社がそれほどまでに欲しがったのは、同社が「世界でウ
チしかやっていない製法」と胸を張る紫外線コートの特殊技術だ。
これによって傷や汚れがつきにくい高品質のスイッチを生み出せる。

 取引条件も破格である。全量を国内生産し、価格は円建てとして為替
リスクはフォード持ち、99年までの4年間の取引を保証し、この間
値引き交渉は行わないという条件となった。納期確保のため、航空
輸送もフォード負担である。

 当初フォード社は、アメリカで生産しないかという申し出をした
が、現地生産では品質確保に不安があり、また大規模な海外投資は
リスクが大きいと断った。上述の取引条件は、まさにフォード社の
全面譲歩と言える。

■2.世界企業と互角に渡り合う日本の中小企業■

 独自の技術で、国際的な大企業と対等に取引をしている中小企業
は少なくない。

 横浜にあるチューブフォーミングは、売り上げ33億円(96年) 
の中企業だが、パイプを自由自在に加工する技術を持つ。自動車な
どによく使われる金属の丸棒から作られる部品をパイプに置き換え
れば、重量を30%、材料費を20%程度削減できる。[2]

 同社はハンドルとタイヤを結ぶステアリング・ラックバーを、パ
イプから作るというアイデアを日本の自動車メーカーに持ちかけた
が、話がまとまらなかった。興味を示したのは、フランスのシトロエン。
共同開発に成功し、月産15万本供給することとなった。この話を
聞いて、日本のカーメーカーからも注文が殺到した。

 「うちの営業は事実上、休止中。それでも忙しくててんてこ舞い
だ」と社長は語る。次々と舞い込むパイプ化の相談を、本社社員の
3分の一を占める研究開発部員がこなしている。

 売り上げ13億のシコー技研は、まさに典型的な小企業だ。しか
し厚さ10mm以下の超小型ファンモーターは同社の独壇場である。イ
ンテルのCPU(中央演算装置)の冷却用に20万個の注文を受け
たのをきっかけに国内の大手パソコンメーカーからの受注が次々と
舞い込む。皆さんが使われているパソコンに、"Intel Inside"とい
う商標のが貼ってあったら、その裏にはシコー技研のプレハブの町
工場で作られたファンモーターが潜んでいる。[2]

■3.世界のハイテク産業を支える匠の技術■

 このようにグローバル競争の中で活躍する中小企業の強さの秘密
は、我が国の匠の技術の伝統である。たとえば、誰でもが持ってい
るCDプレーヤー。これに使われるピックアップ用レンズは、溶か
したプラスチックを金型に流し込んで作られるが、その金型を作る
のに使われるのが、直径2mmのダイヤモンド球を先端につけた超精 
密切削工具である。

 ダイヤモンド球の円弧は、2万分の一ミリの精度が要求される。
光の波長より短いので、光学顕微鏡では見えない世界だ。大阪の中
堅工具メーカー、大阪ダイヤモンド工業の堀口力さん(53)らは、微
妙な指先の感覚を頼りに球面を作っていく。これは日本でしかでき
ない匠の技術である。

 CDのピックアップレンズだけでなく、高度な宇宙衛星、医療機
器などの製造が可能になったのは、精密な工作機械や測定器ができ
たおかげである。しかしそういう精密な機械を作る機械は、どのよ
うに作っているのか。ここにも、日本の匠の技術が欠かせない。機
械で出せる精度は、せいぜい千分の一ミリが限界だ。そういう研磨
機を使って、一万分の一ミリの精度のシャフトを作る工場もある。

 こうした部品や工具を使って、精密工作機や精密測定器、精密金
型が作られ、それらがCDプレーヤから、コンピュータや、CTス
キャナー、ジャンボジェットなどハイテク商品を生み出しているの
である。

■4.匠の技術から先端プロセス技術へ■

 こうした匠の技術は個人的なものだが、それらが独自の高度な生
産設備を生みだし、また技術者や作業者の技術や工夫によって高度
な生産プロセスとなると、もはや誰にも真似のできないキーデバイ
ス、キーマテリアルが生み出される。

 その典型的な例が、京都の村田製作所だ。同社の電子部品は世界
でも圧倒的なシェアを持つ。たとえばマイクロ波フィルター、圧電
体セラミック部品でそれぞれシェア85%を誇る。これらを同社は
独自の生産プロセス、設備から開発し、量産化している。競合相手
が製品を分解してみても、その作り方は分からない。

 安い人件費を求めて無理に海外に生産を移転する必要はない。96
%の輸出は円建てだ。価格・性能の競争力があるので、1ドル40
円でも、利益が確保できるという。

 このように高度な技術を背景に、自社の製品をグローバル・スタ
ンダードとしている例は、少なくない。岡山のナカシマプロペラと
いう会社は700人足らずで、全世界のスクリューの約半分を供給
している。20万トンの大型船から、潜水艦、モーターボートまで、
含めてのシェアであるから凄い。[4]

 腕時計の中のムーブメントという精密部品では、シチズン製が、
デファクト・スタンダード(事実上の標準)とされ、世界の多くの
腕時計メーカーは、これに合わせて、完成品を設計する。[4]

■5.人材と企業を生かす事業の本道■

 以上の逞しい企業群が示しているのは、次の二つである。

 第一に独自の真似のできない技術を持っていれば、たとえ町工場
であっても、フォードやインテルなど世界の巨大企業相手に対等の
ビジネスができるということ。知識社会では、事業規模は関係ない。

 第二に、世界を相手にしていれば、政府の政策不況などどこ吹く
風だ。金融危機から、恐慌か、日本経済沈没か、と不安が広が
っているが、財政出動や、緊急融資など、すぐに「お上」に頼ると
いうのは、企業として情けない事である。

 国際社会が必要とする技術を提供し、その貢献を感謝されつつ、
高い収益を上げる、従業員の生活も安定し、国家にも税金を納めて
貢献する。これが事業の本道であり、21世紀の日本を支えるのは、
そういう人材と企業なのである。

 こういう逞しい人材と企業を生み出す社会的蓄積と文化的伝統は
我が国には十二分にある。製造業に限らず、金融やサービスなどの
分野でも、この事業の本道を徹底すれば、未来は開けるだろう。国
際派日本人を目指す青年達は、このセルフ・ヘルプ(自助)の精神
で、大志を抱いていただきたい。

[参考]
1. 日本経済新聞、H7.03.16
2. 日経ビジネス、H8.08.19
3. 日本経済新聞、H7.03.06
4. 「技術悲観論に物申す」、唐津一、Voice, H8.02

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