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     _/    _/_/      _/_/_/  Common Sense: 学力崩壊
        _/  _/    _/  _/                  〜ディベート・フォーラム(2)
       _/  _/    _/  _/  _/_/                           23,649部 H12.04.23
 _/   _/   _/   _/  _/    _/  Japan On the Globe(135)  国際派日本人養成講座
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     133号の「学力崩壊〜ディベート・フォーラム」に関して、
    また多くのお便りをいただきましたので、その一部をお届けし
    ます。これらを通じて、今後の教育の目指すべき姿が、より具
    体的に、浮かび上がってきました。(伊勢雅臣)

■1.厳しい競争を通じて、各分野のエリートを育てるフランス■
                                                  ELUさん

     私はフランス圏からの帰国子女で、高校卒業まで十数年現地
    の学校で教育を受けた者です。フランスの公立校は幼稚園から
    大学院まで、基本的に学費がありません。これは、国が次世代
    の国家を担う人材を国の宝だと捉えているからです。
    
     その反面、義務教育中はもちろんのこと、高校や大学では相
    当厳しく成績が評価され、選抜されます。つまり、小学校から
    留年、飛び級制度が公平に設けられており、本人の希望と努力
    次第で真に自由な人生の選択ができるのです。

     もちろんすべての子供たちが英才教育を望むわけではありま
    せん。手に職を持ちたいものについては技術系の専門学校と資
    格がきちんと用意されており、その分野ごとにエリートが存在
    するわけです。

     私は高校の理系コースに進学しましたが、この時点で周囲の
    友人たちは世界のサイエンスの動向を踏まえ、今後発展する分
    野を討論したあげく、自分の好きな勉強分野と照らし合わせて
    最善の進学コースを日々考えていました。もちろん全員ではあ
    りませんが、その努力を行わなければトップにはいけないこと
    を十分承知しているのです。

     この点で、現在の日本の子供およびその親を比べるとどうで
    しょうか。大学で何を学びたいかも決めずにどうして勉強の情
    熱が湧いてくるでしょうか? 目的もわからずに努力ができる
    でしょうか?
    
     そのため、大学に無事入学した時点で達成感で満たされ、無
    気力な大学生が増加し、最終的にこのような人達がしだいに親
    となり悪循環を招くのです。正直に申し上げて、現在の日本人
    は「甘えすぎ」なのです。子供たちに今厳しく接しておかない
    ことが、彼らの将来においていかに残酷なことであるかを認識
    すべきです。

        編集長> 様々な分野で「国の宝」として、エリートを育て
        ようという夢のある教育制度は良いですね。その中で育つ
        青少年達も、夢や大志を抱くようになるのでしょう。

■2.夢が持てていない人が多いことのほうが問題■
                                                山本健司さん

     何のために勉強するか? それは自分の夢をかなえるためで
    す。やたら学力低下が叫ばれているが、それ自体が問題なので
    はなく、個々の夢がなくなってるのが問題だろう。夢さえあれ
    ば、たとえ授業時間が少なくとも自発的に学ぶはず。そういう
    自由な環境があれば、なおさらそういう専門家が育つだろう。

     例えて言うならエジソンやニュートンはどちらかというと自
    分の好きな事を突き詰めて行った結果があのようになっただけ
    で、”点数”や”偏差値”目的で学んでいたわけではないはず。
    もちろん他者との競争もあっただろうが、どちらかというと楽
    しんでいたのではないだろうか?

     そういう夢が持てていない人が多いことのほうが問題だと思
    う。私は2浪で1留の現在大学4年です。しかし、めちゃくち
    ゃ充実してますよ。子供のころからの夢である”ロボットを自
    分で作る”っていう事が実現しつつありますからね。

        編集長> 日本の多くの青少年に、自分の夢を追って「めち
        ゃくちゃ充実」しているような日々を過ごしてもらいたい
        と思います。そのためには、どうしたら良いのか? 前項
        のフランスの制度が参考になるでしょう。

■3.自分で解決しなさい■
                                                  たけちゃん

     今、子供のために中古のMACを手に入れ、エデュテイメン
    ト・ソフトで勉強をしています。わからないと、すぐ「パパ、
    どうすんの?」と聞かれますが、「自分で解決しなさい。」 
    と子供は、スルスルとやがて解決していきます。実は、これを
    狙っているんですが、こうして、脳力をアップさせようと(?)
    しています。社会に入れば、羅針盤を自分で探して自分で行か
    ないといけません。今から訓練しておけば、あたふたしなくて
    もいいんです。
    
        編集長> こうしたお子さんは、前項の山本さんのように自
        分の夢を追っていける人に育つのでしょう。自分で夢を描
        き、それに向かって問題を解決していくという主体性を養
        ってもらいたいものです。

■4.大学を出なくても社会に貢献できるという選択肢も■
                                                松田 明さん

     私学、公立という話題がありますが、いずれも大学を出ない
    といけないという価値観があると思います。大学を出なくても
    社会に貢献できるという選択肢もあると思います。

     父はよく「大学を出ていないから出世できなかった」と言っ
    ていましたが、その度に「小学校しかでていないのに大学卒の
    社員を使っている社長が大勢いる」と言っていました。今の価
    値観は大学がゴールになってしまっているようですが、社会に
    出てからが勝負です。そのための準備として勉強をするのです。

        編集長> 1項のフランスの例でもあったように、エリート
        とは、高級官僚や、大企業のお偉いさんだけではないでし
        ょう。腕のいい大工、料理の達人、芸事のお師匠さん等々、
        各分野で社会を支え、リードしている人々が尊敬され、子
        どもたちがあこがれる、日本も江戸時代から戦前まではそ
        ういう社会でした。戦後、学校制度が単一化、序列化され
        て、子どもたちが多様な夢を持てなくなったのでしょうか。

■5.駄目でも何とかするだけのたくましさを■
                                                田中博美さん

     読者からの感想を読ませてもらいましたが、どうも、それぞ
    れの子供が「努力すれば必ず出来る」という前提で話されてい
    るとしか考えられないお便りばかりです。

     私の実体験から言うなら、いくら努力しても駄目なものは駄
    目なんです。所詮、テストで満点を取り,成績を上げるぐらい
    のことしか出来ません。私は歴史が好きで、高校時分の成績が
    よかったのですが、逆にそれで自分の才能のなさを思い知らさ
    れました。詰め込まれたものを理解するぐらいのことしか出来
    なかったのですから。

     大事なのは詰め込んだものをどのように生かすかということ
    だと思います。努力しても駄目なものは駄目ですが、それなら
    それで何とかするだけのたくましさを子供には身につけて欲し
    いと思ってます。

        編集長> いくら歴史が好きで、テストで満点をとれても、
        誰でもが専門の歴史学者になれるわけではありません。私
        の高校の時の歴史の先生も本当は専門の歴史家になりたか
        ったのでしょう。しかしそれでも毎月1万円も専門書を買
        って研究を続ける姿に、畏敬の念を覚えたものでした。
        そういう主体的に「たくましく」生きる姿勢を子どもたち
        に身につけさせたいものです。

■6.自分なりの社会観、生活信条を持つドイツ人■
                                  清瀬敏則(ドイツ在住)さん

     私は現在ドイツ在住20年。日本企業の駐在員としてドイツに
    1979年に27歳にて赴任し、その後独立し現在に至っています。

     ドイツでは、教養や学力=社会的な成功という数式は成り立
    ちません。たとえば工場の労働者からスタートし出世したダイ
    ムラークライスラーの社長をみれば一目瞭然です。彼などは三
    菱自動車との資本提携のプレスミーティングを見てもわかる様
    に、日本の一流大学を出た三菱自動車社長の合同会見の際のた
    どたどしさ、前もって部下が作った声明を、勿論日本語で、下
    を見ながら読み上げるだけに比べ、そのように前もって作られ
    たテキストに余り頼らず、自分の考えで発表していたのが印象
    的です。質疑応答でも同様でした。

     大学時代21歳にて初めてドイツを旅行し、同年代の青年の行
    動を見たそのときのショックは今でも忘れません。私はドイツ
    を一方的に美化するつもりは毛頭ありませんが、日本の同年代
    に比べて、大体にして、大人で考え方もその人のレベルなりに
    しっかりしていました。これは頭の良し悪し、学歴があるか無
    いかではなく、社会での自分の位置に沿った自分なりの社会観、
    生活信条があるかないかです。学力から言えば一般的に日本の
    高校生などの方が圧倒的に勝っていたと思います。

        編集長> 自分自身で考え、行動するという主体性をどう育
        てるのか。皆が一元的に"一流校"を目指すというのは、逆
        に主体性のない証拠かもしれません。

■7.5才児に自分の意見を人前で発表させる■
                                           Kakaneさん

     もう10年ほど前になりますが、ニュージーランドの小・中
    学校にインターンシップで行った時に非常に驚いたのは、5才
    児(ニュージーランドの小学校は5才で入学だったので)のク
    ラスで、毎朝30分ほど時間を割いて、子供達に全員の前で最近
    の出来事、それについて自分がどう思うかを発表させていたこ
    とでした。自分の意見を人前で表現し、発表する。これこそが
    今の日本人に一番欠けているところだと思いますし、例えば数
    学の方程式が解けることよりも社会に出てよっぽど必要な能力
    だと思います。ですから、’ゆとり’がこの方面を伸ばす教育
    に使われるのであれば、それも悪くないのではないでしょうか。
    
        編集長> 5才から発表をさせるとは、驚かされました。前
        項のドイツで自分の考えをしっかり持たせる、という方針
        と共通していますね。

■8.親の力が無ければ学校はこれから動かないのだろうか?■
                                                  mayさん

     私の子供は今度小学2年生です。一年生の終わりに学校から
    親が学校に何がボランティアとして提供できるかとアンケート
    をとりました。そこには多岐多様な項目がありました。あと数
    年すると学校は週休二日になり授業の内容が減ります。いま、
    すすもうとするゆとりの教育、生きる力のある子を育てるのに
    は親が参加して補助しないといけないということ? そして、
    内容が減った授業のワンランク上とか質の高いものは一体どう
    補えば良いのでしょうか? いろいろ学校へお手伝いに通い、
    学校の中を見ているとなんだか不安です。中学は私学の方がい
    いのでしょうか?と、思っております。親の参加できる度合い
    と親の力が無ければ学校はこれから動かないのだろうか?と、
    思います。

        編集長> 知人がアメリカに転勤になり、近くの学校へ行っ
        て、そこの教育方針を聞こうとしたら、逆に「親としての
        教育方針は?」と聞かれてしまった、という話を聞きまし
        た。子供の主体性を伸ばそうとしたら、まず親が主体的な
        方針を持って我が子の教育に取り組まないといけないので
        しょう。

■9.国民として持つべき常識、最低限の理解力を■
                                        村上 彰夫(60歳)さん

     機会の平等は大賛成。結果は各人のする努力と持っている運
    とで決まる納得できる世界です。

     しかし議論の中に国民として持つべき常識(国・歴史・義
    務・倫理観等)、国語・算数・社会・理科等の最低限の理解力
    についての議論が抜け落ちているように感じました。義務教育
    は自分の将来について自分自身で考える力をつけるためにも、
    また、とにかく自力で生き延びる力をつけるためにも、まずも
    って必要不可欠の基礎教育として認知されるべきです。

     将来自分がなにになりたいか考えるにもいろいろなことに広
    く接するのは大事なことです。妻は音楽への興味を持ちその道
    に進みました。私は中学時代の美術教師の影響で生涯の趣味と
    して絵画・彫刻・焼物等と親しみ精神的安定を確保しています。
    
     ただし受ける側が白紙の状態の教育は、施す側に科目・内容
    への興味と愛着、受け手への愛情と共感がなければ成り立ちま
    せん。そこのところも十分認識しなければなりません。

        編集長> 自分の夢を追うにも、また自分自身の考えを持つ
        にも、村上さんのおっしゃるような「国民として持つべき
        常識、理解力」を基礎として与える必要があります。
        
■10.ご意見をふりかえって−伊勢雅臣■

     今回の寄せられた多くのご意見を通して現れてきたキーワー
    ドは、「主体性」でした。自分の夢を描き、追求していく「主
    体性」、自分なりの考えを持ち、人に伝えていく「主体性」、
    そういう主体性をいかに引き出すかが、教育の大きな目的では
    ないか、という所に、議論が収束していきました。
    
     そこから考えてみると文部省の言う「ゆとり」教育とは、単
    に過剰な負荷を子供に与えないというだけで、それではどのよ
    うな子供に育てるのか、という建設的な主張が何も込められて
    いない消極的概念であることに気づかされます。そして、何も
    前向きのものがないままに、単に教科を減らしただけの「ゆと
    り教育」が、今日の学力崩壊を招いたのでしょう。
    
     「つめこみ」か、「ゆとり」か、という単純な二者択一の問
    題ではありません。最後の村上さんの言われるように、子ども
    たちの主体性をよりよくより良く引き出すためにも、まず基礎
    的な学力、常識が必要なのです。それは好きなスポーツで上達
    するためにも、基礎的な体力が必要なのと同じ事です。
    
     さらに、村上さんが「常識」の中に、「国・歴史・義務・倫
    理観等」という内容を込められていた点に深い共感を覚えまし
    た。一人ひとりの個性が花開くためにも、その社会の文化的歴
    史的個性という豊かな土壌が必要です。決して「個人」対「国
    家」というような単純な二者択一ではありません。日本の豊か
    な文花伝統に根ざしたオリジナリティのある理想、思想を持っ
    て、国際社会で独自の貢献をしていく、そういう主体性をもっ
    た「国際派日本人」を育てることが、教育の目的ではないでし
    ょうか。

■リンク■
a. JOG(131) Common Sense: 学力崩壊が階級社会を招く 
b. JOG(133) Common Sense: 学力崩壊〜ディベート・フォーラム 
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「学力崩壊〜ディベート・フォーラム(2)」について
                                   Miekoさん(英国在住)より

     先学期、大学近くの公立小学校で“Reading Teaching Ass
    istant”をして 「イギリスの公教育」に触れる機会がありま
    した。私が担当したのは、約5−7才の小学校低学年のごく普
    通の家庭の生徒で、1クラス約20名でした。
    
     イギリスの教育のあり方がすばらしいと思ったのは、「読
    み・書き・算数」という全ての人に施されなければならない教
    育の徹底性と「一人一人の生徒の習熟度に合わせたカリキュラ
    ム」の併用がされているだけでなく、小学校に入学してから
    “Golden Rule”とよばれる「クラスで一緒に学ぶ上での生徒
    の心構え・あり方」:1.先生が話をしている時は静かにきち
    んと聞く、2.友達が発言している時はきちんと耳を傾ける、
    3.クラスではみんなで協力しあうなど5つを学ぶだけでなく、
    「人との話し方の声の大きさ」などを細かく先生が指導してい
    ます。
    
     また一クラス約20名ほどに、専任の教師が1人と子育ての
    経験が豊富そうな年輩の女性アシスタントと私達のような若手
    を“ボランティア”で数人つけ、専任が一斉に授業を行うこと
    もあれば、残りの時間は4−5名ほどの各グループに生徒をわ
    け、それぞれに別の課題を与えて作業をさせていました。
    
     私が担当した「読書指導」は、生徒のレベルにあった厳選さ
    れた本を各生徒が読むのを聞いて、内容把握を確認し、コメン
    トを“コンタクトブック”とよばれる学校と生徒の親との連絡
    帳に書き込むことでした。

    「基礎・基本」を楽しく学べるような「授業作り」、子供一人
    一人の習熟度に合わせた「個性重視」、そして「授業をうける
    心構え」をきちんと習得させることを威圧的にしないような
    「教室の環境つくり」、「学校と家庭との連絡」、どれをとっ
    ても、日本が学ぶべき点は多いと思いました。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     公立小学校に、これだけの資源と知恵を投入するとは、英国
    の教育にかける熱意には驚かされました。「ゆとり教育」と称
    して、制度いじり、教科減らしに終始している日本の教育行政
    とは大違いですね。「先生が話をしている時は静かにきちんと
    聞く」という“Golden Rule”は、我が国の大学でもぜひ教え
    るべきでしょう。

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