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---------------Japan On the Globe(155)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/         Common Sense: We are on the same boat.
        _/          
  _/   _/     国家とは国民が力を合わせて運行する船だ。国籍
   _/_/      は、その船の一員となるという意思表示である。
-----------------------------------------H12.09.10  27,489部

■1.税金を払っているのだから、投票権をあげるべき?■

    娘 お父さん、ちょっと教えてくれない。難しい宿題が出たの。
        在日外国人の地方参政権について、小論文を書きなさい、
        というんだけど。
        
    父 高校生ともなると、宿題も難しくなるね。先生は何か解説
        してくれたのかい。
    
    娘 ええ、日本に住んでいる外国人に対して、市長選や市議会
        選挙などの投票権をあげようという事だって、教えてくれ
        たわ。日本に住んでいて、日本人と同様に税金を払ってい
        るのだから、投票権はあげるべきだって。
        
    父 ほう。なかなか面白いことを言うね。税金を払っていれば、
        投票権を持てる、というなら、裏返せば、税金を払ってい
        なければ、投票をする資格はない、という事になる。とな
        ると、うちの田舎のおばあさんは年金暮らしで税金を払っ
        ていないから、投票権はとりあげるってことになるのか
        な?
        
    娘 そう考えれば、ちょっと変ねえ。確かに学生や収入の少な
        い世帯で税金を払ってない人も、投票権はちゃんとあるわ
        ね。
        
■2.税金を納めているなら、それなりのことはしてあげるべき■

    父 税金を納めていない人にも、選挙権が認められたのは、イ
        ギリスが1918年、日本では7年遅れの1925(大正14)年。ち
        なみにアメリカでは、黒人の政治参加を合法的に排除する
        ために南部諸州は選挙人資格として人頭税を導入していて、
        これが完全に撤廃されたのは、なんと1960年だった。
    
         財産や収入と関係なく、すべての国民は、政治に参加す
        べきだ、というのが、ここ1世紀ほどの民主主義の発達で
        確立された普通選挙の大原則の一つなんだ。税金と選挙権
        が関係あるように言うのは、この民主主義の大原則を知ら
        ない人間の言うことだよ。
        
    娘 でも、税金を納めているなら、それなりのことはしてあげ
        るべきじゃないの?
        
    父 してあげているさ。たとえば道路や公園を使い、消防署や
        警察や裁判所にも守ってもらい、子供がいれば公立学校に
        も入れてもらえる。これらはすべて税金によってまかなわ
        れているんだ。だから、日本で生活したり、商売ができる、
        というだけで、税金に見合ったサービスは受けているわけ
    だ。

■3.日本に生まれても投票権がないのは差別では?■

    娘 税金と参政権とを関係づけるべきでない、ということは分
        かったけど、私たちみたいにたまたま日本人の家に生まれ
        た人だけが投票権を持てて、在日の人のようにこの日本で
        生まれても投票権がないのは、差別じゃないのかしら。
    
    父 いや、それもちょっと違うな。約53万人いる在日韓国
        人・朝鮮人でも、毎年1万人位が帰化して日本の国籍をと
        っている。国籍さえとれば、地方参政権どころか、国政で
        の選挙権も持てるし、国会議員にだって立候補できる。
        
         国籍をとっているのは在日韓国人や朝鮮人ばかりではな
        い。アメリカから来たお相撲さんの小錦や武蔵丸も帰化し
        ている。ブラジルから来たサッカーのラモス・瑠偉や、中
        国出身の卓球の小山ちれは、日本代表として活躍している。
        みんな私たちと同じ立派な日本国民だ。お父さんの会社に
        も、中国出身の技術者がいるが、彼も奥さんともども帰化
        して、我々の仲間として立派に働いている。
        
         日本国民というのは、生まれや人種、民族とは関係ない。
        日本の国籍をとり、日本国民として生きていこう、という
        意思表示をした人のことだ。もちろん、帰化を許されるに
        はそれなりの面倒な手続きや要件がいるが、それは技術的
        な問題で、必要に応じて改善すればよいことだ。

■4.なんで国籍にそんなにこだわるの?■

    娘 なんで国籍にそんなにこだわるのかしら。お父さんの本籍
        は九州なのに、東京都民として選挙権を持っているじゃな
        いの。外国人だって、本籍は外国でも日本に住んでいるな
        ら、選挙に立候補したり、投票したりしてはなぜいけない
        のかしら。

    父 (苦笑して)本籍とはうまい理屈を持ち出したね。それで
        はこう言ったら、ピンとくるかな。国とは我々国民が力を
        合わせて、運行している自家用船のようなものだ。その目
        的地や航海ルートを決めるのは、我々オーナーの責任であ
        り、権利でもある。間違った航路をとって、暗礁に乗り上
        げたら、船底に穴が開いて、皆一緒におぼれてしまう。
        その大事な舵取りを選ぶというのが、選挙なんだ。
        
         在日外国人とは、この船にたまたま乗せて貰っているお
        客さんのようなものだ。当然、サービスを受けるのだから、
        税金という代価を払って貰わねばならない。しかし、これ
        は旅客船ではないから、行き先について、注文をつける権
        利はない。違う目的地を目指したいなら、他の船に乗り換
        えるか、自分自身の船で行って貰うしかない。
        
         国民とは船のオーナーなのだから、燃料代や修繕のため
        のお金を出すことはもちろん、嵐の時や、海賊が襲ってき
        た時には、みんなで船を守らなければならない。お客さん
        は別に自分の船があるのだから、危なくなったら自分の船
        に戻ればいいが、我々はそうはいかないんだ。
        
         英語で、"We are on the same boat."という言い回しは
        習ったかい? 「我々は同じ船に乗っている」ということ
        は、無事に目的地に着くのも一緒、沈むのも一緒、という
        ことだ。日本語にも「一蓮托生」、つまり同じの蓮の葉に
        乗って身を託している、という言葉がある。国家とはそう
        いう運命共同体なんだ。国籍をとる、ということは同じ船
        の一員として一緒にやっていきます、という宣言なんだ。
        
■5.ヨーロッパではお互いに地方参政権を認め合っているのに■

    娘 でも、先生が言っていたけど、ヨーロッパ連合の国々では、
        お互いに地方参政権を認め合っているそうよ。このグロー
        バル化の時代にいつまでも国にこだわるのは、古いんじゃ
        ない?
        
    父 EU、ヨーロッパ連合というのは、国をなくそうといこと
        じゃなくて、ヨーロッパの国々が一つのもっと大きな国に
        まとまろう、ということだ。アメリカの各州がまとまって、
        アメリカ合衆国になるようなものだ。船で言えば、お互い
        をロープで結び合って、一つの船団として運命共同体にな
        ろう、ということなんだ。
        
         だから、EU諸国どうしでは地方市民権を認めても、た
        とえばドイツにいる200万人ものトルコ人労働者には、
        地方参政権は与えられていない。

■6.韓国と日本でお互いに地方選挙権を与え合えば■

    娘 韓国の金大中大統領が、韓国と日本でお互いに地方選挙権
        を与えあおうと言ってたそうなんだけど、それならEUと
        同様、お互い様でいいんじゃないかしら。

    父 韓国と日本とが、EU諸国のように通貨や経済も一緒にし
        て運命共同体としてやっていこうという意思があるなら、
        それも結構だが、それが何もない現状で参政権だけ与えあ
        うというのは、いたずらに摩擦を増やすだけだと思うよ。
    
         だいたい在日韓国人・朝鮮人は約53万人もいるが、在
        韓日本人はわずか300人だ。これではとても「お互い
        様」などとは言えない。たとえば、在日の人が多く住んで
        いる町では、その票だけで市会議員になれる可能性がある。
        普通の議員でも、固まった票を持つ在日の団体が強硬に反
        対することは、主張できなくなるだろう。その影響力は全
        然違う。
        
         ちなみに、在日の人たちは本国での被選挙権を持ってい
        る。1988年の韓国での国会議員選挙では民団という在日韓
        国人団体の副団長が、全国区で出馬して当選している。北
        朝鮮の方は、今でも在日の国会議員が7人いる。本国で国
        会議員をやっている人たちが、日本で地方政治を左右する
        ことになる。

         一つの船の中で、別の船の乗組員達が集団で強い発言権
        を持ったら、まとまりがつかなくなる恐れがある。
        
    娘 でも、国政とは違って、地方政治なんだから、そこの住民
        の意思を尊重することは当然じゃないの?
    
    父 国会議員の選挙が、この船で舵取りをする人を選ぶという
        ことだとすれば、地方選挙は、船の一部、たとえばエンジ
        ン・ルームの責任者を選ぶということだ。エンジン・ルー
        ムの責任者が、自分の部屋のことだけ考えて、エンジンが
        うるさい、熱いから止めろ、と言われては困るんだ。
    
         地方政治とは言っても、船全体の事を無視して地域のエ
        ゴに走ったら、船は進めなくなってしまう。国政と地方政
        治とは別々だ、などとは言えないよ。
        
■7.強制連行されたんだから■

    娘 理屈はそうかもしれないけど、現実に在日の人たちは日本
        に強制連行されて、帰れなくなった人たちでしょう。その
        おわびとして、地方参政権くらいあげてもいいんじゃない
        の?

    父 おやおや、先生がそんなことを言っていたのかい? その
        意見は、論理としても、事実としてもおかしい。まず論理
        としてだが、強制連行されたのがたとえ事実だとしても、
        参政権を代償にするというのはお門違いだ。ある船にさら
        われてきた人たちが、その犯罪の補償としてエンジンルー
        ムの管理者を選ぶ投票権を与えよ、というのと同じだ。さ
        らわれたのなら、きちんと謝罪し、もとの船に返し、その
        間に発生した損害を補償せよ、というべきだろうね。
        
         事実としてもおかしい。戦争が終わったときに日本にい
        た朝鮮の人々は約200万人と言われている。在日韓国青
        年会が一世の人たちに渡日理由をアンケートで調査したら、
        経済的理由が39.8%、結婚・親族との同居が17.3%、徴兵・
        徴用が13.3%、その他が20.2%だった。
        
         この徴兵・徴用を「強制連行」などと言っているのだろ
        うが、それは昭和14年7月にまず内地の日本国民に対し
        て行われたことで、朝鮮半島に適用されたのは、終戦わず
        か1年前の昭和19年9月からだ。
        
         戦争末期を除いて、内務省は朝鮮半島からの渡航を厳し
        く制限していたので、不正渡航で摘発された朝鮮人の数は、
        戦時中の昭和17年でも4,810人にのぼっている。豊かな
        生活を夢見て潜り込んでくるのは、今の中国人の密航者と
        同じだ。徴兵・徴用以外の90%近くの人々は、自分の意志
        で日本に来たんだよ。
        
         さらに戦後、昭和20年9月から、24年にかけて、日
        本政府による朝鮮人の引き揚げ作業が行われた。この時、
        帰りたい人は、基本的にすべて帰させたんだ。200万人
        のうち、150万人ほどが帰国している。現在、日本にい
        る在日の人たちは、この時に自らの選択で日本に残った人
        か、その子供や孫達なんだ。だから、日本に強制連行され、
        帰れなくなった人々、などというのは、事実ではないし、
        これらの人々を侮辱する言い方だと思う。
        
         こういう人たちはすでに半世紀も我が国に住んでいる。
        2世、3世の9割の人々は日本人と結婚し、毎年1万人も
        の人々が日本国籍を取得している。我々はこういう人々を
        同胞として、喜んで迎え入れるべきなんだ。

■8.なんで日本に帰化しないの?■

    娘 それなら、なんでみんな日本に帰化しないのかしら。
    
    父 自らの祖国に愛着を持ち、忠誠を誓っている人も多いだろ
        う。それはそれで立派なことだ。そういう人々は同胞では
        なく、尊敬すべき隣人としてつきあっていくべきだろうね。
        
         もう一つの理由は、在日韓国人というのは法的には日本
        人や韓国人よりも恵まれた地位にあるんだ。在日の人は就
        労ビザなしで日本でも韓国でも自由に行き来して仕事がで
        きる。日本人にも韓国人にもない特権だ。
        
         また韓国に住んでいれば兵役の義務があるが、在日なら
        それもない。これだけ恵まれた立場で、普段は日本人と同
        様の生活ができるなら、わざわざ面倒な国籍取得をしよう
        という気も起こらないのは人情だろう。
        
         逆に、そういう特権を捨ててまで、きちんと日本国籍を
        とって、日本国民として生きていこう、という人々の決意
        を高く評価したいね。日本に生まれて、日本人としての自
        覚もないままに、俺は地球市民だ、などと言っている人た
        ちより、この船で一緒に航海していく同胞としてはるかに
        頼りがいがあるよ。
        
    娘 うーん。理屈としては分かったけど、なんかもう一つピン
        とこないなあ。
        
    父 それはお前が、国家の大切さ、有り難さを体験として実感
        したことがないからだ。日本という温室の中で甘やかされ
        るだけで、小さな国を一生懸命守っている国民の苦心・苦
        労も知らなければ、国家の価値を実感することはできない。
        まずは国際派日本人養成講座でスイス国民やフィンランド
        国民の苦闘の歴史を読んでごらん[a,b]。
        
         この問題にどういう立場をとるか、それはお前自身の責
        任だが、いずれにしろ、しっかりした論理的思考力と最低
        限の知識をベースにして、自分の立場を築いて欲しい。
        「税金を払っているから参政権を」と言われて「なるほ
        ど」と納得してしまうようでは、我が国の民主主義すら守
        れないよ。お前たちの世代は、これからこの日本丸を運行
        して国際社会の荒波を渡っていくんだから、それだけの力
        量を今の内にしっかり養って貰いたいな。

■リンク■
a. JOG(095) スイス、孤高の戦い
   中立は口先だけでは守れなかった。
b. JOG(117) フィンランド、独立への苦闘
   ヒットラーのドイツとスターリンのソ連にはさまれ、フィンラ
  ンドは孤立した。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 「永住外国人の参政権問題Q&A」、百地章、「祖国と青年」、
   H12.3
  「祖国と青年」誌はお勧め度★★★★です。見本誌申し込み
2. 「外国人『地方参政権』という『虚構』」、荒木和博、
   「明日への選択」、H12.2
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
                              小宮さん(アメリカ在住)より

     カリフォルニア州シリコンバレーのアメリカ企業でアメリカ
    人だけの中で働いてつくづく感じたことは、アメリカはアメリ
    カ国民以外の外国人を様々な所で差別しているということも判
    りました。ヨーロッパやアジアの国よりよほどオープンなアメ
    リカですらこうです。たとえ税金を払っていようがアメリカに
    コミットしていない人を大切にしないのは当然では有るのです
    が、日本人にはアメリカ人に成りきらない限り、究極的な部分
    で日本以外に本当に安心できる家はないということです。

     私は、日本を盲目的に愛して他国を軽視するのは間違ってお
    り、どんどん外国に出て経済と文化のグローバル化の旗手にな
    ったつもりで頑張っていきたいとは思いますが、その反面、自
    分のルーツである日本を客観的に正確に理解をして、同時に、
    この地球で唯一の「自分を本当に受け入れてくれる温かい家」
    としての日本を改善していくべく真剣に取り組んでいきたいと
    思っています。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     私も4年間、アメリカで生活して、まったく同じ事を感じま
    した。我々が国際経験を積むにしたがって「地球市民」などと
    言う人は減ってくるでしょう。

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