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________Japan On the Globe(241)  国際派日本人養成講座_______
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          _/     The Globe Now: 龍の仮面で綱渡り
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_/ _/_/_/         強面(こわもて)の中国外交の仮面の裏は?
_/ _/_/          佐々木敏の「龍の仮面(ペルソナ)」から。
_______H14.05.19_____37,313 Copies_____453,519 Views________

■1.龍の仮面■

     幼女を含む北朝鮮からの亡命希望家族を、中国の武装警察が
    日本領事館の中にまで入り込んで拉致した瀋陽事件は、劇的な
    映像によって世界に報道された。誰の目にも中共政府の無法ぶ
    りが明らかになったと思われたのに、その後の中国側の強面
    (こわもて)ぶりに日本側はたじたじだ。日本側から感謝の電
    話まであった、などと反論され、さらに「日本側は冷静に対処
    を」などと忠告までされて、手玉にとられている。
    
     外務省のチャイナ・スクールと呼ばれる中国べったりの一派
    が、自らの失態を隠そうと情報を隠している点も日本が強く出
    られない原因となっているようだ。このまま中国が謝罪もせず
    に事をうやむやに済ませてしまったら、わが国は世界の笑い物
    になるだろう。しかし今までこんなチャイナ・スクールを放置
    してきた事に対して国民全体として反省すべき良い機会である。
    
     中国の強面外交に対し、わが国の平和友好外交(という名の
    事なかれ主義外交)は位負けを続けている。歴史教科書問題し
    かり、靖国問題しかり。位負けから脱出するには、その強面が
    実は自らの弱みを隠すための「仮面」であることに気がつくこ
    とが第一歩だ。
    
     いまや中国は核ミサイルを含む世界有数の軍事力を持ち、国
    連常任理事国として強大な発言権を持ち、さらには驚異的な経
    済成長を続ける、まさに天に昇る龍のように見える。しかし、
    その龍の仮面の裏はどうなっているのか。その点をついたのが、
    佐々木敏の最新小説「龍の仮面(ペルソナ)」である。
    
■2.国際政治シミュレーション■

    「龍の仮面」は、国際政治分野での鋭い予測シナリオを骨格に、
    CIAの美人工作員が中国を舞台に暗躍するストーリーを肉付
    けした本格的な近未来シミュレーション小説だ。著者から発売
    前の見本本をいただいたのだが、読み始めたらとまらず、最後
    まで読み切ってしまった。読者をぐいぐい引っ張っていくエン
    ターテイメント作家としての力量も一流だ。
    
     中でも迫力あるのが、著者の独壇場である国際政治の駆け引
    きの描写である。この小説では、骨のある外務省官僚や石原慎
    太郎を思わせる首相が登場して、中国に一歩も引かない腰の据
    わった外交を見せる。つい、こんな官僚や政治家が今の日本に
    いたらなあ、と嘆息してしまった。「龍の仮面」に怯えずに、
    わが国の実力を発揮すれば、位勝ちの外交もできるのである。
    そのごくさわりを紹介しよう。
    
     舞台はマサチューセッツ工科大学政治学部。世界各国から一
    流の学者、軍人、外交官を招待し、国別に別れて国際政治シミ
    ュレーションをやってもらうという、いわば「劇中劇」の設定
    だ。このシミュレーション自体が、小説の本筋の重大な伏線に
    なっているのだが、それは本編の方でお楽しみいただきたい。
    
     中国チームには、小説の主人公の孔義済・中国海軍大佐とそ
    の上司・海軍中将の法憲、そして国際情報コンサルタント(実
    はCIAエージェント)エリカ・ブルンヒルド。日本チームに
    は外務省官僚・平沢秀明がいる。孔と平沢はかつてハーバード
    大学ケネディ行政学院の同級生だった。

■3.マラッカ海峡、波高し■

     2001年、インドネシアとマレーシアの治安が悪化、両国政府
    はそれぞれ反政府ゲリラに悩まされ、マラッカ海峡など中東か
    ら極東へ石油を運ぶ海上交通ルートは危機に瀕した。
    
     日本チームは海上自衛隊・機雷掃海部隊のマラッカ海峡派遣
    を決めた。「海外派兵を禁じた憲法9条に違反するのではない
    か」と中国国家主席を演ずる法憲は驚いて聞いたが、広東省代
    表に扮したエリカが答えた。
    
         海上自衛隊は長年、日本近海の公海上で演習してきまし
        た。公海上の活動が憲法違反でないなら、房総半島沖であ
        ろうと、マラッカ海峡であろうと同じ事です。
    
     しかも自衛隊の掃海能力は世界最高の実力を持つ。大東亜戦
    争末期、米軍が日本近海に敷設した大量の機雷を戦後、撤去し
    てきた技術と経験が、今も海上自衛隊に受け継がれているのだ。
    解放軍司令官役の孔は言った。
    
         無事に機雷掃海が終わったら、東南アジア諸国だけでな
        く、わが国も日本に感謝せざるを得なくなるでしょう。
        
     それはまずい、と主席。アジアでの日本の覇権を認めるよう
    なものだ。日本の左翼やハト派をけしかけて、「アジア諸国が
    反発する。日本軍国主義が復活するぞ」と言わせるのはどう
    か? 孔は反論した。
    
         それは無理です。石油がなければ、誰も生きられません。
        アジア諸国のどこも反発しませんよ。わが国も中東原油を
        輸入できない。

■4.自衛隊と中国海軍との共同作戦!?■

     議論の末、広東代表役のエリカが、逆手をとって中国海軍も
    参加する国連軍にしようと提案した。日本に手柄を独り占めさ
    せるのを、何としても防ぐための次善の策である。孔は中国政
    府特使として、日本国外務大臣役の平沢との交渉に入った。
    
    「ことわる、ですって! 本気ですか?」 孔は耳を疑った。
    平沢は平然と中国側の提案を蹴ったのである。
    
         ええ、本気ですよ。わが国(日本)の兵器体系は、アメ
        リカなどの西側に近く、貴国の兵器体系はロシアからの輸
        入が多いですから、共同作戦には不向きですね。アメリカ
        とは同盟関係にあり、日米共同の指揮・通信システムもし
        っかり構築されています。ですから、アメリカの海軍に守
        られる形で、わが海上自衛隊の機雷掃海部隊を送り込みま
        す。
        
     孔は必死に食い下がった。「わが国は国連安全保障理事会で
    拒否権を行使できますが、貴国はできません。わが国が拒否権
    を発動すれば、国連PKO、PKFをマラッカに送り込む決議
    は成立しませんよ」
    
         成立しなくてけっこう。湾岸戦争と同じ多国籍軍の形で
        いきます。アジア諸国からの支持も受けています。
        
     孔は最後の抵抗を試みた。「国連PKO、PKF以外の形で、
    アメリカと集団自衛権を行使するのは、貴国では憲法違反にあ
    たるのではありませんか。」
    
         それはわが国の国内問題ですから、どうかお気遣いなく。

     日本政府は憲法解釈を変更して、集団自衛権の行使に踏み切
    り、アメリカと日本を中心とした多国籍軍がマラッカ海峡に派
    遣された。参加を断られた中国は指をくわえて見ているしかな
    かった。

■5.日本政府、台湾を承認■

     第2ステージ、2003年。日本政府は拉致された日本人の解放
    を北朝鮮政府に要求していたが、財政の苦しい北朝鮮は経済援
    助(という名の身代金)を要求していた。日本政府は「テロ国
    家とは交渉するな」という国際世論に従って、交渉には応じな
    かった。そこに台湾政府が仲介に入り、密かに北朝鮮政府にカ
    ネを渡し、拉致されていた日本人を解放させた。この成果の代
    償として、台湾は日本に独立国家としての承認を要請し、日本
    政府はそれに応えた。
    
     中国チームは対応を迫られた。「国交断絶も辞さず」という
    抗議声明の発表を決めたが、経済制裁もほのめかさないと効果
    がない。広東省代表役のエリカが反論した。
    
         広東省としては日本の投資や援助が来なくなるのは困り
        ます。石油危機の上にジャパンマネーまでこなくなったら、
        経済は潰滅します。上海でも、内陸も、農村も、国中がす
        べてそうです。
        
     しかし、経済関係さえ続けられるなら実害がないから、歴史
    問題でとかく口うるさい中国より、台湾との国交を日本が望む
    ことは明らかだ。経済援助も出さずに済むので、財政赤字の解
    消にはかえって有り難い位である。
    
     中国にあるトヨタやソニーの工場を取るぞと脅かせば、日本
    の財界は震えあがって、日本政府に陳情にいくだろうが、その
    前に上海や香港の株式市場から外国資本が一斉に逃げ出して、
    大暴落するだろう。中国のGDPは日本の十分の一、致命傷を
    負うのは中国の方だ。
    
     やむなく「国交断絶、経済制裁も辞せず」という抗議声明を
    出したが、中国の弱みを見透かした日本政府は「一時的な方便
    で台湾の要求に応じたが、またすぐ断交では、世界中から信頼
    されなくなるので、3年ほど待って欲しい。その間、経済制裁
    も待ってくれ」としゃあしゃあと答えてきた。
    
    「なんてやつらだ。」 中国政府は、悔しがるだけで打つ手が
    ない。中国チームは、これが現実でなくてシミュレーションで
    よかった、と思った。

■6.台湾を従わせるしかない■

     日本を従わせるのが難しければ、台湾を力で押さえ込んで、
    独立を阻止するしかない。何を使うか。核か、通常兵器か? 
    広東省代表役のエリカが言った。
    
         核は使えません。核攻撃は台湾住民の大量殺戮しかもた
        らしません。わが国は国際的に孤立します。
    
    「なら、96年の時のように、ミサイル発射演習はどうだ? 福
    県省の基地から台湾島越えに撃って。」という主席役の法憲に、
    今度は孔が答えた。
    
         そんな事をすれば、国際世論の同情はますます台湾に集
        まります。かえって日本と同じことをする国が増えますよ。
        そのすべてに経済制裁を加えていては、わが国のほうが先
        に潰滅します。
        
         それなら、通常兵器か?
        
         それもだめです。この時点では、わが国の海空軍力は不
        十分です。兵器が旧式ですから、台湾海峡の制海・制空権
        を奪うことはできません。上陸作戦など夢のまた夢で、我
        が軍に甚大な被害が出るだけです。
        
    「となると、打つ手なしか」という主席役法憲に、エリカは
    「非正規戦」を提案した。テロやゲリラ活動である。スパイ工
    作員を送り込んで、空港や発電所、軍事基地を爆破したり、サ
    イバーテロで、銀行のオンライン・ネットワークを混乱に陥れ
    る。台湾経済に打撃を与え、台湾人を心理的に追いつめて完全
    独立への動きを断念させよう、というのである。
    
■7.それこそわが国の分裂の始まりです。■
    
     エリカの提案に従って、チームは台湾の証券市場のコンピュ
    ータを破壊するサイバーテロと、松山国際空港への破壊工作を
    行った。しかし、こうしたテロ活動をやればやるほど、国際世
    論は台湾に同情的になっていった。
    
    「ロシアまで台湾承認にまわるとは思わなかったぞ。どうすり
    ゃいいんだ。」 法憲がテーブルを叩き、頭を抱えた。ロシア
    は国境を越えて数百万の不法移民を送り込んでくる中国に、こ
    のままでは極東シベリアを奪われてしまうという危機感を持っ
    ていたのだ。強硬派の一人が主張した。
    
         正規戦を挑むしかありません。これは放置すれば、チベ
        ットにおいても、またウイグルにおいても、CIAの独立
        派援助が活発化して、国際世論の支持がチベット、ウイグ
        ルの亡命政府や独立運動に集まる恐れがあります。

         もし、台湾の現状を放置するならば、わが国は各地の地
        方政府に対して威信を喪失することになります。それこそ
        わが国の分裂の始まりです。
        
         勝ち負けの問題ではありません。負けがこわくて侵攻作
        戦から逃げるのなら、台湾どころか、台湾を除く大陸各地
        域の統一とておぼつきますまい。
        
     主席役は反論した。
    
         負ければ同じことだ。負ければ、北京政府の威信は失墜
        し、国家分裂の引き金になりかねない。私には台湾侵攻は
        できない。
        
■8.仮面をつけて綱渡り■

     そのあとに、小説はあっという展開を見せるのだが、それは
    本編でのお楽しみに。以上のシミュレーションでは、中国のお
    かれた立場が如実に現れている。
    
     中国の経済発展は自転車操業である。ある程度以上の成長ス
    ピードを維持しなければ、2億人とも言われる失業者の重みで
    倒れてしまう。逆にこのまま沿海部の発展が続いて、内陸の農
    村部との格差が広がれば、それがまた分裂の圧力となる。そし
    てその発展は外国資本頼みだ。経済躍進という「仮面」をかぶ
    り続けて、外国資本をたえず引き寄せなければならない。 [a]
    
     また「台湾は中国の領土」という主張も、もう一つの「仮
    面」である。中国共産党政府がかつて一度も台湾を支配した事
    がなく、それが純粋に政治的なフィクションである事は、世界
    中が知っている。そして、このシミュレーションのように、台
    湾が自ら独立国であると宣言した途端に、その「化けの皮」が
    はがされてしまう。
    
     台湾に武力侵攻したら、勝っても国際社会から孤立して、外
    国資本が逃避し経済的に潰滅する。負ければ中共政府は威信を
    失い、国内はばらばらとなる。「台湾は中国の神聖不可分の領
    土だ」と強面の仮面で国内の分裂を抑えつつ、経済成長の仮面
    で外国資本の流入を確保するという、危険な綱渡りを続けて行
    かねばならない。龍の仮面をつけたまま、いつまで綱渡りを続
    けることができるのだろうか。まことに複雑な隣人ではある。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(224) 「油上の楼閣」中国経済
b. JOG(066) 江沢民の憂鬱
c. JOG(186) 貧者の一燈、核兵器〜中国軍拡小史(1)

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 佐々木敏、「龍の仮面(ペルソナ)」★★★、徳間書店、H14
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

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