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________Japan On the Globe(266)  国際派日本人養成講座_______
          _/_/   
          _/     The Globe Now: 日本国債
       _/_/                  〜 日本政府の信用が問われている
_/ _/_/_/         生まれたばかりの赤ちゃんも、6百万円の
_/ _/_/          借金を背負わされている。
_______H14.11.10_____40,223 Copies_____625,623 Views________

■1.国債入札のボイコット!?■

    「なんだ、これは!」 財務省理財局国債課の課長補佐・国広
    は、自分のあげた声の大きさに驚いた。日銀ネットのモニター
    画面に現れた数字を見て、国広は自分の目を疑うしかなかった。
    
     応募額の合計5082億円。今回の10年物利付国債の発行
    総額1兆4千億円の6割にあたる競争入札による募集額840
    0億円に対して、わずか6割程度しか札が入っていない。今ま
    ではどんなに低調な時でも、入札は募集額の1.6倍はあった。
    募集額に満たないことなど、考えたこともなかった。
    
     しかも、平均応募価格は92円07銭。直前は100円35
    銭だった。これじゃあ、まるで入札のボイコットじゃないか、
    と国広は叫んだ。
    
    「日本国債」という小説の一場面である。これを契機に、日本
    経済は大混乱に陥り、それはアメリカ経済にも飛び火していく。

■2.国の借金693兆円■

     国債は国の借金である。平成14年度の一般会計歳出約81
    兆円に対して、税収などの歳入が約51兆円。30兆円の不足
    は、国債の積み上げで賄われる。平成14年度末の日本の長期
    債務の残高は、国債と地方債を合わせて693兆円に達すると
    予測されている。
    
     これを家計に例えてみると、年収が510万円しかないのに、
    支出が810万円。これまでの借金総額が6930万円、実に
    年収の14年分だ。
    
     693兆円を人口1億2千万で割ると、一人あたり578万
    円。今日おぎゃあと生まれたばかりの赤ちゃんも、生まれた瞬
    間に6百万円近い借金を背負わされているのである。
    
     どうしてこれだけの巨額の借金が積み上がったかについては、
    [a]で紹介したが、今回はこの借金がどのように処理されてい
    るのか、その過程でどういうリスクが伴うのか、を見てみよう。

■3.毎月9兆円もの国債発行■

     30兆円の国債とは新規分のみで、この他に過去の国債が満
    期を迎えて償還される分が、また借り換えとして発行される。
    それを合わせると市場全体では105兆円もの国債が消化され
    なければならない。月額にして約9兆円。これが毎月10回程
    度の入札で処理される。平均で1兆円近く、多いときは2兆円
    規模という巨額の入札がほぼ3日に1回のペースで行われる。
    
     国債の入札で特徴的なのは、シンジケート団、略してシ団の
    存在である。これは都市銀行、地方銀行、信託銀行、生命保険、
    損害保険、農林中央金庫など、日本の金融機関のほぼ全部、合
    計2千社近くの金融機関からなり、国債の引き受けを行う。十
    年物の国債の場合は4割、今回の1兆4千億なら5600億円
    がシ団引き受けであり、各社に一定の比率で割り当てられる。
    言わば強制的に国債を買わされるわけである。
    
     残りの6割、8400億円が競争入札される。小説「日本国
    債」では、国債課課長補佐・国広が、部下6名を動員してシ団
    の大手30社ほどに電話で直前に応札予定額をヒアリングをし、
    どの業者がどれくらいの価格帯で、どれだけの額を応札するか
    を把握する。それをもとに表面利率(クーポン)を決める。
    
     今回も市場の動向を踏まえて1.8%に設定した。それぞれ
    の業者が掴んでいる顧客の注文量も決して少なくない。これな
    らいつもどうり、募集額8400億円の2倍は応募があるだろ
    う。手抜かりはない。国広は自信に満ちていた。
    
     朝8時半に発行額や利率の発表が財務省から発表される。入
    札の受け入れは10時半から行う。各業者は日銀ネットに応札
    価格と額を入力する。12時に締め切られ、12時15分には
    応札状態が集計結果が表示される。国広が「なんだ、これは」
    と叫んだのはこの時だった。

■4.「日本が倒産するかもしれない」■

     いつもは2時半に入札結果が公表されるのに、それが45分
    も遅れ、しかも「今回は決定額なし」と詳しい理由の説明もな
    く発表されたので、市場は「入札額未達では」との憶測からパ
    ニック状態に陥った。
    
     まず国債の狼狽売りが殺到した。5百億、1千億という大口
    の売りが殺到したが、買い手がいない。一瞬にしてストップ安、
    取引停止の状態となった。
    
     パニックは株式市場、為替市場にも瞬時に波及した。株価も、
    円もわずか15分ほどで、市場最悪の大暴落を記録した。株や
    円も暴落するかもしれない、という読みから、投資家たちが自
    衛のために、一斉に売り注文を出すことによって、実際に暴落
    が起こったのである。
    
     逆に金利は暴騰した。資金の貸し手が用心して引っ込んでし
    まったのである。翌日物の金利は20%を超えた。ちょうど
    10年前に大量に社債を発行して、運悪く今日3千億円もの資
    金の返済を迫られていた大手商社・極東物産は、メインバンク
    の極東邦和銀行が約束していたつなぎ融資を突然キャンセルさ
    れて、倒産の危機に陥った。
    
     極東物産の危機は、関連企業、取引先、関連金融機関を巻き
    込んだ大規模な連鎖倒産へと発展する気配を見せ始めた。しか
    し、以前のように公的資金で助けるわけにもいかない。政府自
    身が国債入札の失敗で、資金調達不能の状態に陥っているのだ。
    「日本が倒産するかもしれない」という不安が市場を駆けめぐ
    った。

■5.アメリカ大統領からの直通電話■

    「総理、お電話です。」 ここ30時間あまり執務室から一歩
    も出ずに対応に追われて、ついウトウトしていた総理を秘書官
    が起こした。「アメリカ大統領からの直通電話です。」
    
     総理は飛び起きた。今頃、ワシントンは日曜日の深夜だ。向
    こうも相当慌てているようだ。急いで通訳を呼び、「大統領、
    お待たせして申し訳ありませんでした」と答えた。その言葉が
    終わる前に、大統領の大声がスピーカーから響いた。
    
         今回の失態、いや失礼、あなたの国のデット・クライシ
        ス(借金の危機)は、早急に原因を把握し、その対策をた
        てないと、全世界が迷惑を蒙る性質のものです。そのこと
        を、どこまで認識しておられるのか・・・
        
     総理は、原因はいまだ調査中だが、おそらく国債発行の事務
    処理における何らかの偶発的な事故が原因であって、日本経済
    の基礎はしっかりしている、と答えた。
    
         それなら、なおさら我々としても、貴国の金融システム
        全体に強い懸念と、不安を抱かざるを得なくなります。経
        済の基礎的条件はしっかりしていても、市場のクラッシュ
        が引き金になって、突然の恐慌を招くことはあり得ますの
        でね。先進国経済の担い手として、大いなる責任と自覚を
        持って、早急に対処願いたい。まず今回、倒産を余儀なく
        された企業や銀行の早急な後処理を、、、
        
     大統領は引き継いで、米国財務省証券の保有について問い始
    めた。日本が大量に保有しているアメリカの国債が処分売りに
    出されると、そちらも暴落し、米国金利が暴騰する。パニック
    はアメリカに飛び火する恐れがあるのだ。この心配が大統領の
    本音だった。

■6.日本人は我慢ばかり強いられている■

     国債発行での「偶発的な事故」とは何だったのか? それは
    事故ではなく、数人の国債トレーダーが意図的に仕掛けたもの
    だった。その思いつきは彼らの間のこんな会話から始まった。
    
         日本国債は、市場のサイズだけなら、世界第2の債券市
        場です。でもほかの国の国債と日本国債を見較べて見たら
        どうですか。いまだにシンジケート団なんていう強制引き
        受けグループが存在するなんて、石器時代みたいじゃない
        ですか。シ団となると、どんな無理難題を押しつけられて
        も、文句を言うどころか、財務省のやつらの顔を見て、言
        われるとおりにせっせと入札しなければならない。
        
         為替のマーケットなんかにくらべると、派手さがないど
        ころか、われわれには自由という最低限の武器もない。政
        府が垂れ流しで借用証書を乱発するもんだから、われわれ
        にはその無茶な借金の工面をするために、滅私奉公で奔走
        させられているただの肉体労働者だ。・・・
        
         そもそも日本の投資家こそ、10年債でたかだか1.7
        %だか、1.8%にしかならないような国債を、毎回懲り
        ずにせっせと買わされている。無邪気に落札して、財務省
        の国債の大量発行に協力しているだけなのが分からないの
        かな。ほかに食べ物はないからと言われて、まずいもので
        も我慢し、黙って食べさせられている家畜みたいなもんだ。
        
         たしかに日本人は我慢ばかり強いられている。なけなし
        の百万円を1年の定期預金に預けていても、電車賃ほどの
        金利しかつかない国なんて、ほかにありますやろか?
        
         この国の国債市場は化け物だ。発行量から言えば、これ
        だけの供給過多ですからね。もうとっくに暴落して、8%
        くらいになっていてもおかしくはないんだ。

     ここから、各人が一斉に入札をボイコットしたらどうか、と
    いう話に発展した。
    
         そうだ。日本の国の将来のために、ここいらで一発目を
        覚まさせてやることが必要ですよ。

■7.「国民一人ひとりのお金」■

     以上は、一種のシミュレーションだが、著者の幸田真音(ま
    いん)氏は、別の著書において、次のように警告している。
    
        (国債の)主な所有者は、郵貯、生命保険会社、年金、銀
        行などだ。だが忘れてははならないのは、そうした日本の
        機関投資家たちが日本国債を買っている原資は、われわれ
        が預けている郵便貯金であり、毎月支払っている保険の掛
        け金であり、給料から天引きされている年金の掛け金や、
        銀行預金つまりは国民一人ひとりのお金だということであ
        る。[2,p15]
        
     その「国民一人ひとりのお金」が、株もダメ、土地もダメ、
    と行き場を失い、「安全な」国債を買うしかない、というのが、
    国債が買い続けられる理由なのである。
    
     日本には1400兆円にのぼる個人の金融資産があるから、
    国債は大丈夫と公言していた政治家がいたが、国民の財産で国
    家の借金の穴埋めしようとしたら、増税などで強制的に財産を
    差し出させなければならない。これほど国民の財産権を無視し
    た話はないのである。
    
■8.不思議な町■

     膨大な政府の借金の一方で、日本の一人当たりの所得税は、
    欧米諸国と比べると、きわめて低い。親子4人で年収7百万円
    の家庭の所得税、住民税は、日本の31.9万円に対し、アメ
    リカは78.8万円、イギリスは150.7万円、ドイツは10
    1.4万円、フランスが43.6万円というデータがある。[3]
    
     これらのデータを合わせて考えると、国債の情況は、次のよ
    うな例えがふさわしいだろう。比較的裕福な家庭が多い町があ
    るとする。町民は一人当たり12百万近くもの郵便貯金を貯め
    こんでいる。しかし町民税は41万円ほどしか払わない。
    
     しかし、その一方で、町長は立派な道路や公民館、町役場な
    どを作り続けており、町役場の支出は一人当たり67万円。不
    足の26万円は町内の郵便貯金から借りている。毎年毎年の借
    金が積み重なって578万円。実は町民の貯金の半分ほどは町
    役場に貸し出されているのである。
    
     町民のほとんどが、この町に生まれ育ち、町を信頼している
    からこそ、この不思議な情況が続いている。しかし、早晩、危
    険に気がついた町民の一部が、自分の貯金を引き出して、別の
    町に逃げ始めるかもしれない。その瞬間にクラッシュが起きる
    可能性がある。

■9.問われる日本政府の信用■
        
     アメリカの格付け機関ムーディーズが、日本国債の評価をか
    つての最高クラスから5段階も下げ、2002年5月にはA2とし
    た。これは中級の上で、イスラエルやポーランドと同じクラス
    である。一つ上にはチェコ、チリ、ボツワナがある。「ボツワ
    ナより下はないだろう!」と多くの日本人を怒らせた。
    
     こうした格付け機関はアメリカ政府の政策的意図に影響され
    ているという声もあり、また評価の妥当性にも疑問が寄せられ
    ている。財務省は格下げの根拠を問いただし、「(格下げで)
    政府や企業が不当にダメージを受けたときは損害賠償の対象に
    なる」とまで脅した。しかし民間会社へのこのような過敏な対
    応には、財務省が痛いところをつかれてムキになっているよう
    に感じられる。
    
     国債の格付けは、一国の経済力の評価ではない。それは国債
    の信用を裏付ける政府の財政能力の評価である。とすれば、危
    機から目をそむけ、抜本的な改革に取り組めない日本政府の姿
    勢が問われているわけである。
    
     小説「日本国債」の中で、入札ボイコットを起こしたトレー
    ダーのリーダー格は、財務省国債課の国広課長補佐にインター
    ネット上で次のように語りかけた。

         国債は国の借金です。その借金をわれわれ国民が担わな
        くて、誰に担わすんです。この国を一番心配しているのは、
        この国に住んでいて、これからもずっと住み続けていかな
        ければならない国民でしょう。その国民が、この国の借金
        に協力できないとしたら、そこにこそ問題があるとはお考
        えになりませんか。そして、その現状こそ打開すべきだと
        思われませんか。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(129) 一家の借金2千万
    目先の景気対策など、対処療法にあけくれている間に、つい 
   に借金漬けとなってしまった

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 幸田真音、「日本国債 上下」★★、講談社、H12
2. 幸田真音他、「幸田真音 緊急対論 日本国債」、角川書店、H14
3. 財務省、「所得税の国際比較」
   
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

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