[トップページ][平成14年一覧][Media Watch][070.14 朝日新聞の病理][221 北朝鮮]
________Japan On the Globe(273) 国際派日本人養成講座_______ _/_/ _/ Media Watch: 社説読み比べ 〜 対北朝鮮外交 _/_/ _/ _/_/_/ 北朝鮮の核、拉致、ミサイルに関する朝日新聞 _/ _/_/ と読売新聞の社説を読み比べてみれば。 _______H14.12.29_____39,760 Copies_____673,468 Views________ ■1.恐喝、ふたたび■ 核開発の疑惑を持たれている朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮)が、国際原子力機関(IAEA)からの即時脱 退を宣言し、あらゆる査察を受けないとの声明を発表した。 これで核疑惑はいっそう深まり、朝鮮半島の緊張は高まら ざるをえない。まことに憂慮すべき事態の悪化である。 [1] 今から8年前、平成6(1994)年6月15日の朝日新聞の社説 であるが、核施設を再稼働すると脅している現在の状況と見ま がばかりの内容である。 当時の事の発端は、北朝鮮は「燃料棒交換」という核開発に つながる行為を、IAEAの制止を聞かずに強行していた事だ った。金日成はそれを材料にして、「米国との対話により、国 交正常化を含む一括解決が実現し、軽水炉への転換の支援が得 られれば、現在の原子力開発計画を凍結する用意がある。」と 要求したのである。 教室にナイフを持ち込んだ不良生徒が、クラスの皆から小遣 いを分けてくれるなら、ナイフは持ち込まない、と恐喝してい るようなものである。 ■2.朝日: 北朝鮮の真意をよく確かめ、、、■ 「まことに憂慮すべき事態の悪化」にどう対応すべきなのか。 朝日の社説はこう主張している。 北朝鮮の真意をよく確かめ、その発するシグナルを敏感 に捕らえる必要がある。ちょうどカーター米元大統領が訪 朝する。日本も社会党に続き自民党議員が平壌へ行く。真 意を探る良い機会だ。 北朝鮮が最終的に米国との交渉による解決を切望してい る以上、米国は北朝鮮との対話のパイプを閉ざすべきでは ない。[1] 「不良生徒を皆で追いつめてはならない、何を望んでいるのか、 良く話を聞いてやれ」と言っているようなものである。まさに 人権派の主張とそっくりではないか。 朝日の期待どおり、米国クリントン政権は宥和政策を決定し、 原子炉関連施設の凍結、将来の解体と引き替えに、核兵器への 転用が難しい軽水炉建設の援助、その完成までの毎年50万ト ンの重油供与を約束した。この結果はどうだったか。 ■3.読売: 冷静に、かつ毅然と対処を■ 本年10月4日、核開発が続いているという証拠を米国が突 きつけると、北朝鮮はそれを認めたため、米国は重油供給を停 止。北朝鮮はこれを非難して、核開発の凍結解除を宣言した。 自ら約束を破ってナイフを隠して持ち込んだのを見つかって、 小遣い供給をストップされたあげく、約束違反だから今後おお ぴらにナイフを持ち歩くぞと脅かすという、まことに身勝手な 理屈である。 結局、ナイフをちらつかせて小遣いをせびろうという無法な 要求を聞いてしまったがために、不良少年がそれに味をしめて また同じ恐喝を始めたのである。 最初の恐喝の際に、読売新聞の社説はこう述べていた。 北朝鮮が望むように米朝協議が再開されれば、緊張は一 時緩和されるだろうが、北朝鮮の勝手な行動を認めること になりかねない。何よりも、米朝協議再開へまとまる話も 壊してしまったのは、燃料棒交換という北朝鮮自身の横紙 破りだった。・・・ 北朝鮮が誠意を行動で示してこそ、米朝協議への展望も 開け、米朝関係改善の話もできるだろう。順序を間違えて はならない。利害得失の計算をしなおすべきだ。十五日に はカーター元米大統領も訪朝し、金日成主席と会談する予 定だ。主席が正確な状況認識を持つよい機会である。 国際社会は冷静に、かつ毅然と対処しなければならない。 あらゆるパイプを通じて説得努力を続けるとともに、段階 的制裁によって、北朝鮮に態度変更を促す以外にないだろ う。いかなる事態にも備えるべきは言うまでもない。[2] 読売の主張するように、国際社会が毅然として、不法な恐喝 には屈しないという姿勢を貫いていたら、今日のような再度の 恐喝には至らなかっただろう。 ■4.朝日: 援助をしつつ、拉致疑惑解明を■ 「日本側が求めている人物は、わが国領土内には存在せず、 過去に入国もしくは一時滞在したこともない」 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の工作員に拉致され た疑いがある、と日本の捜査当局が認定した日本人男女十 名の行方について、北朝鮮側の調査結果が伝えられた。疑 惑の全面否定である。 行方不明者の身を思う家族はむろんのこと、この回答を そのまま受け入れることができる人はいないのではないか。 [3] 朝日の平成10(1998)年6月7日付け社説は、もっともな疑 問から始まっている。しかし、そこからまたもや急旋回して、 次のように結ぶ。 行方不明となっている人々の家族の間には、日朝間の国 交正常化交渉や北朝鮮の支援に賛成できないという声があ る。肉親の情としては当然かもしれない。 しかし、朝鮮半島の緊張をやわらげるには、構造的な食 糧、経済危機をかかえる北朝鮮に必要な援助を続けつつ、 軍事的な暴発を防ぎ、開放を促していくしか道はない。そ れがもうひとつの現実である。・・・ 拉致疑惑の解明は急がなければならない。朝鮮半島の安 定は損なってはならない。ふたつの目標は、あれかこれか ではない。あれもこれもなのだ。[3] 「あれもこれも」を実現するために、援助以外の具体策は何も 示していない。経済援助によって北朝鮮を安定させつつ、日本 側がねばり強く拉致疑惑の解明を働きかければ、相手もいつか は改心してくれると期待しているのだろうか。 ■5.読売:誠意ある取り組みなければ、、、■ 読売の主張はまたもや正反対である。 ・・・日本として重要なことは、二つの問題(拉致疑惑と 日本人妻の帰国)について、誠意ある取り組みがなければ、 正常化交渉も、食糧の追加支援も困難だという明確なメッ セージを北朝鮮に送り続けることだ。[4] 4年後の今年、ようやく北朝鮮は拉致を認め、被害者のうち 生存者5名が帰国できた。それは追いつめられた北朝鮮が、日 本からの援助欲しさに拉致を認めたからである。朝日の言うよ うに日本が気前よく経済援助をしていたら、北朝鮮は追いつめ られることもなく、国際社会に恥をさらしてまで拉致を認める ような事は決してしなかっただろう。 読売の主張が正しかったのである。そして、日本政府がもっ と早くもっと明確に、読売の主張に沿った態度をとっていれば、 北朝鮮は早期に拉致を認め、その結果、生存者はもっと多かっ た可能性がある。現実にレバノン政府が拉致された自国民を無 事取り戻した事実もある。[b] ■6.朝日: ミサイルのお返しに10億ドルと食糧支援を■ この年、平成10年の9月には、北朝鮮は日本列島越しにミ サイルの発射実験を行った。周辺空域には7機の民間機が飛行 中であり、また着弾した三陸沖は有数の漁場である。こんな事 件に対しては、朝日も強い非難で社説を始めている。 この隣国と、いったいどうやって付き合っていったらい いのであろう。・・・ 「我々の自主権に属する」「日本がせん越に口出しする性 格の問題ではない」。北朝鮮当局の声明は、実験をそう論 評した。日本政府の抗議や衆参両院の決議を無視し、あえ て日本人の感情を逆なでするかのような姿勢である。 それどころか、再びミサイルの試射を行うのではないか という観測もある。とても容認できることではない。[5] しかし、一般国民の怒りに理解を示しておいた挙げ句に、一 転して独自の主張に急旋回する朝日の得意パターンはこんな事 件でも健在である。社説はこう続く。 同時に考えなければならないのは、1994年の米朝合 意に基づく軽水炉の提供事業は、北朝鮮の核開発を押しと どめるためのものだ、という事実である。日本が10億ド ルを分担することが決まっている。その枠組みを壊すこと は許されない。北朝鮮のミサイルには、核の搭載も想定さ れているだろう。核開発に向かう口実を与えては、元も子 もない。 また、構造的な食糧危機にあえぐ北朝鮮への支援をいつ までも止めておくこともできないだろう。支援をやめ、対 話を閉ざすことが、かえって軍事的に危険な行動に誘うか もしれないからだ。[5] ミサイルのお返しに10億ドルと食糧支援を、というのが、 朝日の結論である。 ■7.読売: 北の暴挙に毅然と対応せよ■ 読売は、「北の暴挙に毅然と対応せよ」というタイトルで、 こう主張している。 政府は発射を事前に察知し、外交ルートを通じ中止を求 めていたという。にもかかわらず、これを無視してミサイ ルを発射した挑戦的な行動に改めて強い怒りを覚える。北 朝鮮に説明と謝罪を求めたい。 ・・・アジアや中東地域への輸出など拡散も懸念されて いる。核開発疑惑と合わせ、周辺地域はもちろん世界の平 和と安定にとって重大な脅威である。日本をはじめ国際社 会は、毅然とした対応をしなければならない。 政府は北朝鮮への対処方針として、国交正常化や食糧支 援を当分見合わせることなどを決めた。当然の措置である。 ・・・ もちろん、「国際的な問題児」が暴発的な行動に出るこ とは防止しなければならない。周辺各国にとって今後とも 大事なことは、「北」を反省させたうえで国際社会の一員 として軟着陸させることだ。[6] その後、日本などの強い反発で、北朝鮮はミサイル発射実験 こそ凍結したものの、読売の懸念どおり、開発は着々と進め、 今日では有数のミサイル輸出国になっている。朝日の言うよう に食糧支援までしてやっていたら、北朝鮮は思うままに開発を 進め、命中精度をさらに向上させて、日本の安全は一段と脅か されていたであろう。 ■8.北朝鮮に匹敵する朝日の「剛直・一徹」■ 核開発、拉致、ミサイル実験と、わが国の安全を脅かした北 朝鮮の3つの行動をテーマに、朝日と読売の社説を読み比べて みた。 読売の論説委員会では「30年後の批判に耐える社説を」を 合い言葉にしているそうだが、その主張は現時点から見てもそ のまま首肯しうる内容である。「30年後の批判」を意識して いれば、常に過去の主張の妥当性を事実に照らして検証しよう という謙虚さにつながる。その謙虚さがあれば、一時的な間違 いはあっても、長い間には、事実に基づいた知恵と経験が蓄積 され、その質は上がっていくだろう。 逆に朝日新聞の主張は、いずれもわずか数年で馬脚を現して いる。核開発については、朝日の望んだクリントン政権の宥和 政策が失敗したことは明白となった。拉致については、朝日の 主張するとおり食料援助を続けていたら、北朝鮮は今でも拉致 を認めず、一人も帰国できなかったろう。ミサイル開発と輸出 もさらに大規模になっていただろう。 驚くべきは、今日に至っても、朝日はその基本的な主張を変 えていない事だ。 苦境の北朝鮮が徐々に国内改革と対外開放へ向かおうと している兆しはあった。それを促すのだ。そうすれば、時 間はかかっても体制の転換へと結びついていく。 経済援助もからむ国交交渉を、そのためにこそ利用すべ きではないか。加えて北朝鮮に核開発の放棄を求めるテコ ともしなければならない。・・・ 拉致への日本国民の怒りは、北朝鮮にとっては大きな誤 算だったろう。日本政府にとっても予想を超えるものだっ た。世論が外交を突き動かす。それは必ずしも悪いことで はない。しかし、感情的な世論にあおられて冷徹な国際感 覚を失うなら、外交は失敗する。それを歴史が繰り返し証 明している。[7] 自らの主張に沿わない国民の怒りを「感情的な世論」と切り 捨てる剛直さは見上げたものである。そして、その主張が誤り であったことを「歴史が繰り返し証明している」事にも決して 目を向けない一徹ぶりは例を見ない。 その剛直さ、一徹さは、国際社会の非難を馬耳東風に聞き流 しつつ、身勝手な横紙破りを続ける北朝鮮の外交姿勢といい勝 負である。 ひょっとして両者は同じ根っこから生まれた「同志」なのだ ろうか。こう思いついた途端、「なるほど、同志だとすれば、 朝日が常に北朝鮮に優しい暖かいまなざしを向け続けている理 由が、見事に説明できる」などという妄想がふと浮かんできた。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(137) 金正日の共犯者 核武装に突っ走る北朝鮮・金正日政権を育てた責任はアメリカ と日本にある b. JOG(031) 北朝鮮に拉致された日本人少女 平和も愛さず、公正も信頼も持たないテロリスト国家から、 いかに我々は「基本的人権」や「国民主権」を守るのだろうか? c. JOG(259) どうする?日朝交渉 拉致犠牲者8人死亡。それで も国交正常化交渉を進めるべき なのか? それとも、、、 d. JOG(052) 今、そこにある危機 北朝鮮ミサイル報道の比較 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) 1. 朝日新聞、「北朝鮮は何を考えているのか」、H6.06.15 2. 読売新聞、「北朝鮮は何を考えているのか」、H6.06.15 3. 朝日新聞、「北朝鮮の姿勢を憂える」、H10.06.07 4. 読売新聞、「誠意が欠落する北朝鮮の姿勢」、H10.06.12 5. 朝日新聞、「国際協調による関与こそ」、H10.09.05 6. 読売新聞、「『北』の暴挙に毅然として対応せよ」、H10.09.03 以上は、読売新聞社論説委員会編、「読売 vs 朝日 社説対決 北朝鮮問題」★★、中公新書ラクレ、H14 より再引 7. 朝日新聞、「体制転換を望めばこそ 北朝鮮と国交交渉」、 H14.12.08 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「社説読み比べ」について なおみさんより 日本社会はその歴史的経過から本質的に村社会なのでしょう か? 政治の世界でも、選挙に際しては本音を言えば落選する とも言われ、なかなか正しい国策が打ち出されません。それが 故に戦前の朝日新聞の態度は軍部に迎合した大本営発表となり、 戦後はGHQに迎合して戦前の日本攻撃、贖罪思想の普及に加 担したのでしょう。 これは一朝日新聞だけの問題ではなく、要は、少なくともわ が国を代表するマスメディアは国益を前提にした国民の意思統 一の基本を醸成していく事が大切であると言う事です。新聞の 社説を書き、外に向かって発表する執筆者に思想的偏向があっ てはならないのです。どうか、今後のわが国の進む方向を誤ら せない為にも、その責任ある立場をよく理解されん事を願うば かりです。 ■ 編集長・伊勢雅臣より こういう意味でも、新聞が社説どうしで論争をするのは良い と思います。© 平成14年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.