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■■ Japan On the Globe(289) ■ 国際派日本人養成講座 ■■■

        Media Watch: 「千と千尋」の世界観
                    〜 イラク戦争での朝日・産経社説読み比べ

        ついに「千と千尋」まで持ち出した朝日新聞のユニーク 
       な世界観を探る。
■■■■ H15.04.20 ■■ 38,070 Copies ■■ 787,591 Views ■

■1.「かくも割に合わぬ イラク戦争」■

     新聞を読むなら朝日新聞と産経新聞を読み比べるのが一番面
    白い、という声がある。確かに朝日と産経は様々な問題に対し
    て対照的な見解を示すことが多く、両紙を読み比べることで一
    つの問題を二つの正反対の視点から見ることができる。最近の
    イラク戦争に関しても、両紙の社説を読み比べてみると、世界
    はかくも異なって見えるのか、と改めて驚かされる。
    
     朝日は3月20日の社説で「かくも割に合わぬ イラク戦
    争」と題して「フセイン政権は確かに葬れるだろう。だが、そ
    のコストはとても高い。ブッシュ氏がまさに開始ボタンを押そ
    うとしている戦争が割に合うとは到底思えない」として、次の
    ように論じた。
    
         米国が国連を見切ってでも開戦を急ごうとしたのは、
        「幸運なシナリオ」と呼ばれる筋書きへの自信があるから
        だ。
        
         短期間の戦争でフセイン政権は崩壊する。イラク市民や
        米兵の死傷者は少ない。民主的な親米政権のめどもつく。
        油田の被害は軽く、世界経済への悪影響は少ない。かくて、
        来年秋の大統領選挙でブッシュ氏が国民的な支持を得て再
        選される。[1]

     この後で、朝日は長々と経済への悪影響、膨れあがる戦費、
    さらには死傷者増加による大統領の支持率低下まで懸念してみ
    せて、ブッシュが再選を目指すこの「幸運なシナリオ」が間違
    いであり、対イラク戦が「かくも割に合わない戦争」であると
    説く。
    
■2.「戦争をしない事によるコスト」■

     これに対して産経の3月21日付「主張 イラク戦争12年
    戦争終焉の始まり 日本は米支援で全力つくせ」では、この戦
    争を次のように位置づけている。
    
         このとき(本誌注:前回の湾岸戦争)の停戦条件が、安
        保理決議六八七による大量破壊兵器や弾道ミサイルの全廃
        受け入れとその査察であった。すでに明らかなように、イ
        ラクはこの決議を含めて過去十二年間に計十七もの決議を
        無視してきたのである。この間に、イラクが背後で糸を引
        いたブッシュ元大統領に対する暗殺計画まで発覚している。
        
         米国は二〇〇一年の米中枢同時テロにより、テロリスト
        があらゆる手法で米本土に攻め込んでくることに気づかさ
        れた。大量破壊兵器を温存するイラクが、テロ組織アルカ
        ーイダと結びつくことで「いまそこにある危機」であるこ
        とが透かし出された。

         米国はいま、三十五カ国以上の支援を得て戦端を開いた。
        「フセイン排除」にはコストと危険が伴う。しかし不作為
        によって、より多くの人々が死の危険にさらされることを
        考えればやむを得ぬ兵力投入であろう。[2]
    
     両紙の根本的な違いは「過去12年間に17の国連決議を無
    視してきたイラク」への「不作為によって、より多くの人々が
    死の危険にさらされる」という脅威が存在するのかどうか、と
    いう所にある。
    
     産経はこれを現実の脅威として「兵力投入はやむを得ぬ」と
    しているが、朝日はこの脅威は黙殺した上で、真のねらいは
    「大統領再選」や「親米政権の樹立」にあるとし、それでは
    「割に合わない」戦争だと言うのである。

■3.「米国が国連を見切って」■

     両紙の社説でもう一つ際だった対照は、朝日の「米国が国連
    を見切ってでも」という言い回しに対し、産経は「米国はいま、
    三十五カ国以上の支援を得て戦端を開いた」と述べている点だ。
    
     朝日の言い回しでは、いかにもアメリカが「国連=国際世
    論」を無視して単独行動に出たと言わんばかりである。しかし
    実態はどうだったか。産経は「イラク戦争 国連幻想から覚醒
    のとき」として、次のように主張している。
    
         国連加盟は戦後日本の悲願だったためか、日本には国連
        を現実以上に理想化し、美化し、正義の府とみる幻想がい
        まだに根強い。米英によるイラク攻撃は国連安保理の武力
        容認の新決議を得なかったから正当性がない−という議論
        も多分にこの国連幻想、国連信仰に基づいている。

         しかし、今回のイラク問題をめぐる国連での攻防は、国
        連が正義の府などではなく、国益、思惑を第一にした各国
        の激しい駆け引きの場であることを再認識させた。[3,a]

■4.フランスが露呈させた国連の正体■

     米国が当初目指した国連安保理決議を諦めさせたのは、フラ
    ンスの強硬な反対があったからだが、その後フランス政府は戦
    況に従って態度を豹変した。まずブッシュ大統領がイラクに最
    後通告した翌日、ドビルパン外相名で「イラク軍が生物・化学
    兵器を使用した場合は米国の側に立つ」と声明を出して、アメ
    リカ寄りに舵を切り替え始めた。
    
     戦争終結が見え始めた4月10日には、シラク大統領が「フ
    ランスはすべての民主国家同様、フセイン独裁体制の崩壊を喜
    んでいる。戦闘が早急に効果的に終わることを望む」と述べ、
    アメリカの勝利を祝福した。
    
     こうした変わり身の早さを見れば「国連が正義の府などでは
    なく、国益、思惑を第一にした各国の激しい駆け引きの場」
    とした産経の見方の方が説得力を持つ。産経はさらに次のよう
    に指摘している。
    
         むしろ、フランスの反対行動が「米欧分裂」の誤ったメ
        ッセージをイラクに送り、独裁者を利する効果を生んでし
        まった罪は極めて重いといえる。[2]

■5.「国連幻想、国連信仰」から「国連活用主義」へ■

     フランスは今また、国連が復興で中心的な役割を果たすべき
    だと主張しているが、これまた国連をだしにして自国の発言権
    を確保しようというさもしい魂胆が透けて見える。
    
     産経はこうした現実を踏まえて、「国連幻想、国連信仰」か
    ら脱却する事を説き、「国連活用主義」を主張する。
    
         国連での安保理改革論議はことし十年目を迎える。だが、
        日本の常任理事国入りはおろか、日独伊などの敗戦国に対
        し安保理の許可がなくても武力行使を認める(国連憲章五
        十三条)などのいわゆる「旧敵国条項」の削除もいまだに
        できないでいる。

         イラク戦争を機に、国連改革論議が再び高まることを期
        待するが、日本としては国連への重視の姿勢を維持しつつ、
        幻想は抱かずに、国連の利用できる機能は活用していくと
        いう現実的な「国連活用主義」の視点を持つことが重要だ。
        [3]

■6.米国支持の「大きな矛盾と深刻な問題」■

     小泉首相は明確に米国支持を打ち出したが、この点でも両紙
    の見解は対照的だ。朝日はこう首相を批判する。
    
         首相は日米安保の重要性を前面に出し、「米国は日本に
        とって最も信頼できる同盟国だ。日本も米国にとって信頼
        に足る同盟国でありたい」と繰り返す。

         北朝鮮問題を意識してのことだろう。わからないでもな
        いが、ここには大きな矛盾と深刻な問題が潜んでいる。

         米国は、フセイン大統領がいる間は大量破壊兵器問題は
        解決できないとして、イラクの政権転覆を正当化した。こ
        れは、米国が問題ありと判断した国は、強大な軍事力で政
        権を倒しても構わないという論理だ。

         首相はそれも支持した。

         では、米国がこの理屈を、核兵器開発の疑いが強い北朝
        鮮にも使ったらどうなるのか。そうなった場合、日本や韓
        国は深刻な影響を受ける。今回の米国の軍事行動を支える
        論理を容認することがはらむ深刻さを、首相は考えたのだ
        ろうか。[4]
        
     朝日は、米国が北朝鮮に言いがかりをつけて攻撃した場合の
    「深刻な影響」は論ずるが、それ以前に北朝鮮がそもそも国際
    的な条約を破って核兵器やミサイルの開発を行い、我が国に脅
    威を与えているという「大きな矛盾と深刻な問題」には言及し
    ない。
    
     どうも朝日の目には、北朝鮮は善良な弱小国であり、アメリ
    カの方が「強大な軍事力」で弱い者いじめをしているように見
    えているようだ。北朝鮮が今までに仕掛けてきた日本人拉致、
    武装工作船侵入、ミサイル発射などの数々の「前科」を考えれ
    ば、こうした見方はいかにもアンバランスである。
    
■7.「米国を支持するのが日本の国益にかなう」■

     産経の方は、北朝鮮の「脅威の深刻さ」を正面からとりあげ、
    この点から首相の米国支持を評価する。

         首相は、「危険な破壊兵器を危険な独裁者が持った場合
        の脅威にどう対処するかを考えると、米国を支持するのが
        日本の国益にかなう」と述べた。

         抑止力が効かない独裁国家の生物・化学兵器とそれを運
        搬するミサイルの存在は、人類がこれまで経験したことの
        ない脅威であり、その脅威の深刻さは日本国民も二十人以
        上が犠牲となった米中枢同時テロで予見させられた。その
        脅威に対し、何もしないことは国として重大な不作為責任
        を問われることになる。
        
         小泉首相は、「米国は『日本への攻撃は米国への攻撃と
        みなす』とはっきり言っているただ一つの国だ」とも言っ
        た。他のどの国も、そのように言う国はない。日米同盟が
        直接的脅威に直面する日本にとって死活的重要性をもつゆ
        えんである。[4]
        
    「国益」という言葉は、ここでは「日本国民の安全」と言い換
    えれば分かりやすい。北朝鮮の核ミサイルによって日本国民の
    安全は重大な脅威にさらされている。その脅威から国民を守っ
    てくれるのは、国連でも平和市民運動でもなく、自衛隊と日米
    同盟なのである。
    
     北朝鮮は今までアメリカとの直接交渉以外には応じないとい
    う強硬な姿勢を見せていたが、イラク戦が終息すると途端に交
    渉形式にはこだわらない、と軟化してきた。米国のイラク攻撃
    は金正日を震え上がらせ、「大きな矛盾と深刻な問題」どころ
    か、逆に平和と安全への明るい兆しをもたらした。
    
■8.「千と千尋」の精神で■

     ここでも朝日と産経の違いは、つまるところ北朝鮮を「脅
    威」を与える存在と見るかどうかという点にある。イラクに対
    しても北朝鮮に対しても、朝日は脅威を与えるものとは認めず、
    そのまなざしは限りなく優しく暖かい。その理由を自ら明かし
    ているのが次の社説だ。

         こうした時期に「千と千尋」が選ばれたことは、さらに
        大きな意味合いがある。・・・

         善と悪の戦いが繰り広げられ、善が勝つのがハリウッド
        の世界だとすれば、善も悪もある複雑な社会を愛と知恵の
        力で生きていくのが千尋の世界といえるだろう。

         千尋はどこにもいそうな、ひよわでわがままな現代っ子
        だ。危機に直面しても、恐ろしげな者は悪だとの先入観に
        とらわれずに接するうちに、相手を変え、自分も成長して
        いく。そんな姿に希望を感じて映画館を後にできることが、
        米国でも共感を呼んだのではないか。

        「千と千尋」は全米での拡大公開が決まった。大統領にも
        ぜひ見てほしい。[5]

■9.「矛盾と悲哀に満ちた妖怪」■

     朝日は「千と千尋」がよほどお気に召したようで、今年の元
    日の社説にも、『「千と千尋」の精神で 年の初めに考える』
    と題して、こう述べている。
    
         この地球上にも、実は矛盾と悲哀に満ちた妖怪があちこ
        ちにはびこって、厄介者になっている。それらを力や憎悪
        だけで押さえ込むことはできない。それが「千と千尋」に
        込められた一つのメッセージだったのではないか。[6]

     フセインも金正日も「矛盾と悲哀に満ちた妖怪」で、千尋の
    ように優しく彼らと向き合う事で、「彼らの弱さや寂しさを引
    き出す」事が可能だと見ているのである。
    
     しかし、そう言うなら、朝日はなぜアメリカにはことさら冷
    たい疑り深い眼差しばかり向けるのだろう。アメリカにもアメ
    リカなりの「矛盾と悲哀」があり、それに優しく向き合ってや
    っても良いのではないか。
    
     いやそれよりも何よりも「妖怪」のために北朝鮮で今も餓死
    に直面している人々、命からがら国外に脱出していく人々、そ
    して拉致された多くの日本人や韓国人の事を朝日はどう考えて
    いるのか。その「妖怪」に優しく向き合えなどと言えるのは、
    これらの人々に心からの同情を寄せてないからではないのか。
    [b]
    
    「妖怪」にだけ優しく向き合う朝日の姿勢は、妖怪にたぶらか
    されているからかもしれない。そう言えば「千と千尋」でも妖
    怪におびき寄せられて、パクッと食べられてしまう哀れなカエ
    ルがいたっけ。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(223) 国際連合、3つの幻想
   第2次大戦の戦勝国が作った国連を徳川幕府に例えれば、わが国
   は旧敵国の外様大名。
b. JOG(273) 社説読み比べ 〜 対北朝鮮外交
    北朝鮮の核、拉致、ミサイルに関する朝日新聞と読売新聞の 
   社説を読み比べてみれば。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 朝日新聞、「かくも割に合わぬ イラク戦争(社説)」H15.03.20
   東京朝刊、2頁
2. 産経新聞、「【主張】イラク戦争 12年戦争終焉の始まり
   日本は米支援で全力つくせ」H15.03.21、東京朝刊、2頁
3. 産経新聞、「【主張】イラク戦争 国連幻想から覚醒のとき」
   H15.03.31、東京朝刊、2頁
4. 産経新聞、「【主張】イラク戦争 同盟国との連携強める時」
   H15.03.22、東京朝刊、2頁
5. 朝日新聞、「大統領にも見てほしい 千と千尋(社説)」
   H15.03.25、東京朝刊、2頁
6. 朝日新聞、「『千と千尋』の精神で 年の初めに考える(社説)」
   H15.01.01、東京朝刊、2頁
   
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