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■■ Japan On the Globe(326)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

              国柄探訪: 日本人の一年(ひととせ)

                我々の祖先は四季折々おりおりに神々に祈り、 
               感謝しつつ、一年を送ってきた。
■■■■ H16.01.11 ■■ 31,612 Copies ■■ 1,048,741 Views■

■1.真冬なのになぜ「初春」?■

     正月は冬の最中なのに、年賀状では「新春」「迎春」などと
    書く。実際の春はまだまだ先のはずなのに、なぜだろう。
    
     これは明治5(1872)年に、それまで千二百年以上も使われて
    いた旧暦を、西洋で用いられていたグレゴリウス暦(新暦)に
    変更した事から起こった矛盾である。
    
     旧暦なら今年の正月は1月22日。東京では元日には5時1
    分だった日没が5時20分となって、日が伸びてきた事が実感
    できる。日射しもなんとなく明るく春めいてきて、いかにも
    「初春」と呼ぶにふさわしい時期である。
    
     1月7日は七草粥を食べるのが旧来の風習で、枕草子には1
    月6日に京都の野原で七草を採ったという一節があるが、これ
    も旧暦ならではの事で、新暦の1月7日ではハウス栽培物しか
    手に入らない。
    
■2.なぜお正月はおめでたいのか?■

     旧暦なら月の満ち欠けがそのまま分かる。1日は闇夜で、3
    日が「三日月」、15日に満月となり、それからまた欠けてい
    って30日には闇夜に戻る。したがって年末・大晦日は常に闇
    夜である。
    
     その闇夜に、歳神様とも正月様とも呼ばれる神様が戻ってく
    る。それは祖先の御霊である。わが国では、死者が子孫を見捨
    てて、自分一人、天国や西方浄土に行ってしまうとは考えなか
    った。祖先の霊は子孫をいつも見まもってくれている一家の守
    護神であり、同時に豊作をもたらす穀霊でもあった。
    
     その歳神様が戻られるための依代(よりしろ、神霊が招き寄
    せられて乗り移るもの)として門松を立て、神様を迎えた聖域
    として不浄なものの侵入を禁ずる印のしめ縄をかける。こうし
    て一家を見守り、豊穣をもたらしてくれる歳神様を揃ってお迎
    えし、新しい春を迎える。だから正月はおめでたいのである。
    
     元日には一家揃ってお雑煮を食べる。それには必ず餅を入れ
    る。新米でこしらえた餅には、豊かな稔りと幸せをもたらす歳
    神の御魂が入っているので、それを食べることにより、家族揃
    って活力に満ちた新しい年を迎えることができる、と信じられ
    てきた。この歳神の御魂が「お年玉」である。今日では子供た
    ちにお金をやるのがお年玉となってしまったが、年長者が子供
    たちの無事の成長を祈る思いには通ずるものがある。
    
■3.初詣と初日の出■

     一方、皇居では元旦の午前5時半、神嘉殿の前庭で四方拝
    (しほうはい)が行われる。白砂の上に小さな畳を敷き、屏風
    で周りを囲った御拝座に天皇が出御され、天地四方の神々、神
    武天皇陵と先帝の御陵などを遙拝される。
    
     これに続いて、宮中三殿(賢所(かしこどころ)・皇霊殿・神
    殿)で行われる「歳旦祭(さいたんさい)」では、天皇と皇太
    子が、天照大神、歴代天皇、および八百万の神々に、旧年の神
    恩を感謝され、新年にあたり国家の隆昌と国民の幸福を祈願さ
    れる。
    
      四方拝
    もろもろの民安かれの御いのりも年のはじめぞことにかしこき
    
     明治30年、大正天皇の皇太子時代、19歳の時の御歌であ
    る。明治天皇が遙拝されている御拝座の外で陪席されていたの
    であろう。四方拝は平安時代の初めから行われており、歴代天
    皇は千二百年近くの長きにわたって、こうして毎年毎年、国家
    国民の安寧を祈り続けてこられたのである。我々が初詣で、一
    家の繁栄と健康を願うのも、この四方拝、歳旦祭の民間版であ
    る。
    
     旧暦の大晦日は月のでない闇夜であるから、初日の出はいっ
    そう、まぶしく神々しいものであったろう。まさに天照大神が
    天の岩戸から出られた時を連想させる。
    
■4.なぜ春分の日に「自然をたたえ、生物をいつくしむ」?■

     春分の日(3月21日)と秋分の日(9月23日)は昼夜の
    長さが等しい。同時に7日間のお彼岸の中日とされており、
    「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように季節の区切り目とな
    っている。この春分の日、秋分の日を、祝日法では、それぞれ
    「自然をたたえ、生物をいつくしむ」、「祖先をうやまい、な
    くなった人々をしのぶ」としている。なぜか。
    
     朝廷では平安時代初期からこの両日の前後7日間に彼岸会
    (ひがんえ)という仏事を執り行ってきた。彼岸会は、迷いの
    此岸(しがん、この世)から悟りの彼岸(あの世)へ至るため
    の法要であり、江戸時代には庶民の間にまで年中行事として広
    がった。
    
     お彼岸はインドにも中国にもない、日本独特の行事である。
    一説には「彼岸」とはもともと「日の願(ひのがん)」という
    言葉から出ており、丹後や播磨などでは、お彼岸の7日間「日
    迎え」「日送り」などと呼ばれる行事を行うという。
    
     春分の頃に豊作を祈り、秋分の頃に豊作を予祝するという仏
    教渡来以前から存在した農民たちの太陽信仰が起源となってい
    るようだ。太陽は天照大神であり、万物を生み育てる有り難い
    「お天道様」である。そのお天道様に豊年を祈るからこそ、春
    分の日が「自然をたたえ、生物をいつくしむ」とされているの
    である。
    
     秋分の日はお天道様に感謝する日だったのが、その上に仏教
    の彼岸会が重ね合わされたので、先祖供養の色彩が濃くなり、
    「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」とされたようだ。

■5.桃の節句と端午の節句■

     3月3日は桃の節句で、女の子のいる家庭では、お雛人形を
    飾り、桃の花を添える。しかし、その頃はまだ梅が満開で、桃
    の花は4月にならないと咲かない。これも旧暦の3月3日をそ
    のまま新暦に移した事による矛盾で、旧暦の3月3日は今年な
    ら4月21日である。枕草子には「三月三日は、うらうらとの
    どかに照りたる。桃の花の、いま咲きはじむる」という一節が
    ある。
    
     雛祭は,江戸中期ころまでは「雛遊び」と呼ばれていた。こ
    れは神を迎えてまつり、男女の健やかな成長を願い災厄をはら
    う祭りであった。雛人形は日本に古くからある人形(ひとが
    た)の考えに基づく。これは紙や藁(わら)で作った人形で身
    体を撫でることによって、身の穢(けがれ)や禍を移し、それを
    川や海に流したり、焼いたりすることで、子どもが健やかに育
    つように祈るという愛情の籠もった儀式であった。
    
     5月5日は鯉幟。五月晴れの空に勢いよく鯉が泳いでいると
    いうイメージを抱くが、それもやはり新暦になってからの誤解
    で、旧暦の5月5日は今年なら6月22日。梅雨入りした頃で
    ある。
    
     五月晴れとは、梅雨の合間にたまたま晴れた日の事を言った。
    芭蕉が詠んだ「五月雨(さみだれ)を集めて速し最上川」の五
    月雨とは梅雨のことである。
    
     縦長の布に鯉を描いて竿に立てた幟(のぼり)を、梅雨空に
    立てたのが鯉幟である。五月雨の中を勢いよく鯉が上っていく
    様に、男の子の元気な成長と出世を願ったのである。

■6.祖霊・氏神との交歓■

     旧暦の7月15日がお盆である。新暦なら今年は8月30日
    に当たる。新暦でもそのまま7月15日に行う地方もあるが、
    それではまだ梅雨の時期なので、一ヶ月遅らせて8月15日に
    行う地方が多い。
    
     13日の夕方に迎え火を焚いて、ご先祖の霊をお迎えし、お
    坊さんにお経をあげて貰ったり、お墓参りをして、16日に送
    り火を焚いてお送りする。
    
     日本では仏教渡来以前から,正月と7月に魂祭が行われてお
    り、後者に仏教行事が重なったようである。盆踊りは祖霊を供
    養するための行事で、暑い夏を無事乗り切って、初秋の澄んだ
    満月の夜に、村中の人々が打ち揃って楽しく踊る姿に、祖霊た
    ちも心を慰めたであろう。
    
     11月15日は七五三。3歳の男女児、5歳の男児、7歳の
    女児を盛装させて、神社にお参りする。旧暦11月15日は、
    今年では新暦12月26日。冬の最中の寒い日に子どもを連れ
    て神社に行けるということは、その子が丈夫に育っているとい
    う証拠であり、氏神様に感謝するお礼参りだった。
    
     日本では古来から「7つ前は神のうち」と言われ、7つ前ま
    では魂がふらふらして安定しないので、いつあの世に戻るとも
    限らない、と考えられていた。乳幼児の死亡率が高かった事が
    背景にあったのだろう。
    
     それだけに子どもが、3歳、5歳、7歳と無事に育っていく
    様は、今の親心の何倍もの喜びであったろう。氏神様のご加護
    のお陰で、こんなに丈夫に育った子どもを見て下さい、という
    気持ちで、親は子供たちを連れて、わざわざ寒さの中を神社に
    お礼お参りにいったのである。

■7.「国民がたがいに感謝しあう」■

     11月23日は勤労感謝の日で、祝日法では「勤労を尊び、
    生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」とされている。この
    祝日の起源は天武天皇朝(7世紀後半)に形式の整った新嘗祭
    (にいなめさい、しんじょうさい)である。
    
     新嘗祭では、身を清められた天皇が神嘉殿において、お一人
    で夕べの儀(午後6時から8時まで)と暁の儀(午後11時か
    ら翌朝午前1時まで)を行われる。この時に天皇は、新米の蒸
    しご飯とお粥、栗のご飯とお粥、白酒(しろき)と黒酒(くろ
    き)、魚の鮮物(なまもの)と干物などからなる御饌(みけ)
    を竹のお箸で柏の葉に盛りつけて神座に供される。そのあと、
    それらを天照大神から新しく頂いたものとして、自ら召し上が
    る。
    
     この新嘗祭の一月ほど前、新暦10月16日、17日に神嘗
    祭(かんなめさい、かんにえのまつり)が伊勢神宮で執り行わ
    れる。神嘗とは神を饗(あえ)する、すなわち、もてなすこと
    である。伊勢神宮の御神田からとれた新米に加えて、天皇が自
    ら皇居内で田植え・刈り取りをされた新米が捧げられる。豊か
    な稔りをもたらしてくれた天照大神の恵みを感謝して、その初
    穂を捧げる感謝の儀式である。
    
     神嘗祭の新米によって神威を盛り返された天照大神の霊力を、
    新嘗祭の御饌を通じて天皇の体内にいただき、生命力を盛り返
    される、というのが、新嘗祭の意義だという。こういう儀式を
    通じて、国家国民の安寧を祈るという天皇の聖なる使命が千三
    百年以上にも渡って、代々受け継がれてきたのである。

     古代にはこの行事は民間でも広く行われていたようだ。石川
    県の奥能登地方には、「アヘノコト」と呼ばれる民俗行事が残
    っており、秋の収穫を終え冬ごもりする頃、田の神様を迎えて、
    ご飯や海の幸山の幸を供え、そのお下がりを家族でいただく。
    このアヘノコト(饗事)によって、種籾に穀霊を宿して、来年
    の豊作を祈ると共に、家族みなが祖霊の霊力をいただいて、生
    命力を盛り返す。まさしく民間のニイナエである。
    
     このようなニイナエの原義を神や天皇という言葉を伏せて述
    べると、「勤労を尊び、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあ
    う」となるのである。

■8.新嘗祭とクリスマス■

     新嘗祭は、古来は11月の下卯の日(今年は旧暦11月20
    日、新暦12月31日)に行われていた。新暦12月22日の
    冬至の日に近い。冬至を過ぎると、徐々に太陽が光を増し、昼
    も長くなっていく。この時期に太陽神・天照大神の霊力を呼び
    戻そうというのは、太陽信仰としてごく自然である。
    
     冬至に太陽の復活を祝う風習は世界各地にあった。キリスト
    教でもキリストの降誕日が不明であったが、3世紀後半頃から
    12月25日として祝うようになった。これは古代のローマ人
    やゲルマン人が、冬至の日を太陽の誕生日として盛大に祝う習
    俗があり、キリスト教徒もイエスを太陽になぞらえて、冬至こ
    そ救世主の誕生日にふさわしいと考えたからであろう、と言わ
    れている。
    
     とすれば、新嘗祭もクリスマスも文化的には同じ根っこを持
    つ祭日であるといえる。お天道様への感謝は、古来、どの民族
    も持っていたのである。

■9.山川草木も、祖先もすべて血のつながった神々■

     こうして年中行事や祝祭日を通じて、日本人の一年を見てい
    くと、その生活がいかに神々と一体になっていたかが、よく分
    かる。
    
     その神々とは、キリスト教の神のように唯一絶対、万能の超
    越神ではない。草場の陰で子孫を見守ってくれる爺っちゃん・
    婆っちゃんたちであり、豊かな稔りをもたらしてくれる田の神
    であり、万物を温かく照らしてくれるお天道様である。それぞ
    れにやさしい温かい神様たちである。
    
     一年の四季の移ろいに従って、そうした神々に平和と豊穣と
    健康を祈りつつ、毎日、一生懸命働いては、豊作や子供たちの
    健やかな成長を神の恵みとして感謝する。そういう敬虔な生活
    を我々の祖先はこの日本列島で数千年もの間、毎年毎年、繰り
    返してきたのである。
    
     こういう文化的遺伝子は、我々の心の奥深くに継承されてい
    る。昭和56年にNHK世論調査部が実施した「日本人の宗教
    意識」調査では、次のような回答が得られている。
    
    ・ 「昔の人は、山や川、井戸やかまどにいたるまで、多くの
       ものに神(神々)の存在を感じたり、神をまつってきまし
       たが、あなたはこうした気持ちがよくわかるような気がし
       ますか?・・・わかる:74.9%

    ・ 「祖先の人たちと深い心のつながりを感じることがありま
       すか?・・・感じる:59.9% [1,p83]

     わが国では山川草木も、祖先もすべて神である。しかもこの
    自然も祖先も、皇室も民草も、そして現在生きている我々も、
    すべてはイザナギ・イザナミの両神から生まれた血のつながっ
    た同族なのだ。日本人はそうした血のつながった神々に祈った
    り、感謝したり、食事や踊りを共に楽しみながら、四季折々を
    過ごしてきた。「神国日本」とはまさにこのことである。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(029) 深い泉の国
    新旧の不思議な共存、外国人が日本へきて驚くのは、それで 
   すよ。近代技術の粋を集めた丸の内のビル街を、古風な祭の行 
   列がしずしずと進むのを見て、たまげてしまう。
b. JOG(171) 「まがたま」の象徴するもの
    ヒスイやメノウなどに穴をあけて糸でつなげた「まがたま」に
   秘められた宗教的・政治的理想とは 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 所功、「『国民の祝日』の由来がわかる小事典」★★★、PHP新
   書、H15
   
2. 小林弦彦、「旧暦はくらしの羅針盤」★★、NHK出版、H14
   
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「日本人の一年(ひととせ)」について 

                                               健一さんより
     旧暦に基づく一年の行事は自然と共に生きてきた先祖の尊い 
    知恵と思います。日本の自然から遊離した私達の生活が人を心
    身ともに退化させているように思います。

     たとえば旧暦の7月26日に旧暦採用の明治頃まで二十六夜
    尊の行事が江戸など全国各地で行われたのをご存知でしょうか?
    二十六日の深夜月の出とともに弥陀三尊が現れるのを老若男女
    を含めて眺め遊び楽しんだ行事です。

     今年は太陽暦9月10日に当り、暑い夏が無事過ぎて涼しい
    秋を迎える絶好の夜に、下弦をとおに過ぎた細い月の昇ってく
    るのを東の開けた高台から眺め、感謝を込めて来し方行く末を
    思うわけです。現在の7月26日ではうっとうしい梅雨が明け
    ぎらぎらした夏を前に、月待ちの心境にはなれません。

     旧暦による行事の復活は、人間と人生に潤いをもたらす素晴
    らしい先人達の知恵の復元と思いませんか!
    
■ 編集長・伊勢雅臣より

     旧暦では、今年は閏2月があって、春が4ヶ月と長いので、
    春物が売れる時期が長い、など、現代でも旧暦カレンダーは衣
    料業界ではかなり使われているそうです。(参考文献[2])
    それだけ日本の四季にマッチしているのですね。
    
     新年早々、小泉首相が靖国神社を参拝されました。相変わら
    ず中国・韓国が抗議をして来ましたが、これも年中行事化して
    きました。今までの行きがかり上、口先だけでも抗議をしてお
    かないと収まりがつかないのでしょう。どうせ年中行事化した
    のなら、初詣だけでなく、春季皇霊祭(春分の日)、終戦記念
    日、秋季皇霊祭(秋分の日)と、四季折々に参拝されてはいか
    がかと思います。中韓の抗議も四季のお便りとなりましょう。

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