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■■ Japan On the Globe(332)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

          The Globe Now: 奥克彦氏の「イラク便り」

         犠牲になった尊い命から私たちが汲み取るべきは、テロ
        との戦いに屈しないと言う強い決意ではないでしょうか。
■■■■ H16.02.22 ■■ 34,809 Copies ■■ 1,092,924 Views■

■1.戦争終了後、始めてイラク入りした日本人■

     2003(平成15)年4月23日、午前5時半。クウェート市南
    部のペルシャ湾沿いのリゾート、ヒルトンホテルを17台の4
    輪駆動車がバグダッドに向けて出発した。米国国務省が統轄す
    るORHA(イラク復興人道支援局)の一行である。快適な高
    速道路を150キロ走ると、いよいよイラク領内に入る。一面、
    砂漠の荒野である。

     米軍のバグダッド陥落からまだ2週間。クウェート方面に
    向かう米軍のタンクローリーの一群や、米英軍の装甲車とすれ
    違う。途中、2カ所の油井が燃え、もうもうたる黒煙を吹き上
    げていた。

     そのうちの一台、小型の三菱パジェロを外務省の奥克彦参事
    官(当時)が運転していた。同乗しているのは、オーストラリ
    アの外務貿易省からORHAの事務局長として出向してきてい
    るアンドリュー・ゴレジノフスキー氏。

         ここからは再度、アンドリューの運転です。米国、英国
        のORHA関係者に次いで、豪州と日本から始めてイラク
        入りをしますので、二人とも一寸緊張しています。道中、
        次第に増えてきたイラク軍戦車等の残骸にアンドリューも
        「あそこを見ろ、ここにもイラク軍の残骸がある」と言っ
        て、多少興奮気味です。[1,p15]

      奥氏は7ヶ月後の11月29日、イラク・ティクリート南
     方でテロリストによると思われる襲撃により、井ノ上正盛書
     記官、ジョルジース・スライマーン・ズーラ運転手とともに、
     命を落とした。その死の前々日まで書き続けた「イラク便り」
     には、現地の生々しい状況が綴られている。

■2.「是非、日本にイラク再建に協力して欲しい」■

     奥氏らORHAの一行は、フセインの住んでいた宮殿の一角
    に寝泊まりして、復興支援の業務を始める。電気も水もない、
    窓ガラスも割れていて砂埃にまみれ、米軍の携行食を食べなが
    らの業務開始だった。26日にはイラク大使館に勤務していた
    井ノ上書記官が到着。アラビア語にも堪能で、現地の事情にも
    詳しい、心強い援軍である。

     奥氏が最初に取り組んだ仕事の一つにイラクの電力委員会の
    メンバー約20名と毎日会合を開いて、イラク全土の発電
    ・送電・配電のどこに問題があって、どこが改善されたかを協
    議することだった。

         私がまず驚いたのは、この会議に出てきているイラクの
        人々の国家再建に向けた熱意の高さです。電力の安定供給
        の確保は、単に夜の治安維持に貢献するだけではなく、浄
        水施設や病院といった市民生活の衛生・保健維持に不可欠
        な部門と直結しているのです。・・・

         私がとても嬉しかったのは、バグダッド配電所の次長で
        引退した(といっても、まだ47歳で、2年間投獄された
        ために、解雇されてしまったようです。)Makiさんが
        「是非、日本にイラク再建に協力して欲しい。」と言って
        きてくれたことです。彼はかつてイラク第二の都市バスラ
        で日本の企業と一緒に発電所の仕事をやり、日本にも研修
        に来たことがあるとのことで、私を見るなり直ぐに近寄っ
        てきて、そういってくれました。

         私と殆ど年齢は変わらないのですが、彼の顔に深く刻ま
        れた皺は、獄中での生活の厳しさを物語っているようでし
        た。投獄された理由は語ってくれませんでしたが、今は引
        退の身で、給料など払ってくれる政府がまだ存在しません
        ので、無給で発電所の稼働維持に駆けつけてきているとの
        ことでした。[1,p39]

■3.子供達の輝く目■

     5月14日には、日本から状況視察にやってきた茂木外務副
    大臣一行を案内して、小学校で学用品の配布を行った。日本政
    府がユニセフ(UNICEF、国連児童基金)に拠出した資金
    で作成された文房具や三角定規、分度器などのセットである。

         最初に、生徒数855人の男子だけのスーダド小学校で
        手渡しました。皆、大喜びです。この学校は、64年以来
        一切改修がなされていないようです。学校の近くにある下
        水のポンプが略奪にあい、下水の水が逆流して門の前が水
        浸しです。このまま放置すれば、夏に向かって衛生上も最
        悪になり、病気が発生する危険が高まります。・・・

         旧サッダームシティーはサッダーム・フセインがバグダッ
        ド市の建設を進めるために、60年代に貧しい南部のシー
        ア派の人々を強制的に移住させた地区です。あまりにも多
        くの人を特定の地区に住まわせているために、一部の家庭
        では寝る場所が十分でなく、寝る時間を交代制にしている
        ようです。今回の戦争の後の略奪も多くはここの地区の住
        民が関与しているといわれますが、自分の地区の下水処理
        ポンプを売り飛ばさなければならない程の困窮振りなので
        す。自分自身を略奪してしまっているのです。

         でも救いはあります。それは子供達の輝く目です。イラ
        クの子供達は皆パッチリとした目で生き生きしています。
        教室は狭く、長椅子に6人、7人が詰めて座って授業を受
        けている有様です。これからは盛夏に向かい、教室内は
        60度近くに気温が上がることもあるそうです。勿論、扇
        風機すらありません。それでも学校にやって来て、日本の
        支援に触れてくれれば、いつか大人になってもその記憶が
        心に蘇るのではないでしょうか。・・・イラクの子供達の
        きらきらした目を見ていると、この国の将来はきっとうま
        く行く、と思えてきます。[1,p61]

     別の学校では、こんな経験もした。

         6月ごろだったでしょうか、停電が日常茶飯事になって
        人々の不満が募り始めたころです。バグダッド市内の女子
        中学校を訪問した私に、一人の女性教師が近寄ってきて、
        「私たちは今とても苦労しているけど、サッダームの政権
        がなくなったことだけは本当に嬉しく思っている。外国人
        のあなたに、そのことだけは伝えておきたかった」と流暢
        な英語で話しかけられたことが今でも忘れられません。
        [1,p203]

■4.復興支援に参加する多くの国々と国際機関■

     バグダッドでは、すでに多くの国々や国際機関が、活発な復
    興支援活動を行っている。

         UNICEFは、まだバグダッド近辺で戦闘行為が続い
        ていた頃に、ウンヌ・カスルやバスラまでタンクローリー
        車を借り上げて、1日60台規模で水の供給を実施してい
        ました・・・特に病院では医療用の水供給の強化ビニール
        製の簡易水タンクを設置して、あっという間に目の前で水
        を供給して見せたUNICEF陣の実行力に目を見張りま
        した。

     UNICEFのクリス・ビークマン次長は、「戦争中でも
    UNICEFの旗を掲げた車で移動すればイラク兵ですら攻撃
    してこないよ」と奥氏に誇らしげに語った。

    「イラク国内には、現在、何カ国の部隊が駐留しているのでしょ
    うか。いずれ日本の自衛隊もやってくることになるでしょうか
    ら、気になるところです。」と奥氏は9月3日に書いている。
    この時点で米英以外に約30カ国が派遣中か、近々派遣予定と
    して、

         ・・・医療部隊や野戦病院を送り込んだ、サウジアラビ
        ア、ヨルダン、アラブ首長国連邦といったアラブの国々、
        イタリア、スペイン、デンマーク、ノルウェーの欧州勢、
        さらに、特徴的なのは、ポーランド、チェコ、エストニア、
        ラトビア、リトアニア、ウクライナといった東欧諸国やバ
        ルト海諸国も参加しています。[1,p143]

     さらに奥氏はモンゴルの連絡将校から、同国の200名程度
    の部隊がバグダッドの南方に展開する予定だと聞いたり、医療
    ・工兵隊700名の支援体制を築いた韓国のチョイ在クウェー
    ト大使から「日本は自衛隊要員の派遣をするのですか? イラ
    クでも日本と韓国とが同じ目的のために協力し合えたら素晴ら
    しいことですね」と言われた。

     また米軍の活動については、「イラクの一般の人には米軍は
    受け入れられてない、といったイメージが出来上がっているよ
    うですが、実態はかなり違います」と述べて、米軍が地域コミュ
    ニティーの代表者によるタウン・ミーティングのような評議会
    を各地で組織して、「下からの民主主義」がバグダッドのあち
    こちで芽生えつつあることを報じている。[1,p113]

■5.国連を標的としたテロ■

     8月19日、爆薬を積んだミキサー車が、バグダッド市内の
    カナル・ホテル前で爆発した。同ホテルは国連が借り上げて、
    約300人が勤務していた。20人が死亡、100人以上が負
    傷する大惨事となった。国連を標的としたテロである。

     死者の中には、国連のイラク復興における責任者、デ・メロ
    国連事務総長特別代表も含まれていた。デ・メロ氏はブラジル
    出身で、今年5月に特別代表に指名され、国連人権高等弁務官
    との兼務の形でバグダッドに赴任し、国連など多方面の人道支
    援活動の調整を行っていた。

         私も、少し遅れて現場に到着したのですが、TVの映像
        で想像していた以上の被害です。爆発力の大きさに改めて
        愕然としました。

         建物の中に入って、2階のデ・メロ特別代表の執務室を
        見ましたが、何度かデ・メロ特別代表と会談した場所は天
        井が崩れていて、また、日本の代表団が特別代表と会談す
        る際に良く使われた会議室は床ごと吹き飛ばされていまし
        た。ここで、デ・メロ特別代表は崩れた天井と壁に押しつ
        ぶされて息を引き取ったかと思うと、胸がつぶれるばかり
        です。[1,p132]

     デ・メロ特別代表は、瓦礫の下で、「自分が負傷しても任務
    を解かないでくれ」と叫びながら、息を引き取ったという。

■6.クリスの最後の名刺■

     このテロで、前述のUNICEFのクリス・ビークマン次長
    も命を落とした。

         正面玄関に出てみて、「この辺で、クリス・ビークマン
        が亡くなってしまったのか。」と思いながら敷地を出よう
        とした時、信じられないことに1枚の名刺が目に留まりま
        した。クリスの名刺です。拾い上げてみると、"My
        Japanese friend, go straight ahead! (我が日本の友人
        よ、まっすぐ前に向かって行け!)と語りかけてくるよう
        です。

        「何を躊躇っているんだ。やることがあるじゃないか。」
        と語りかけてくるのです。

         こんなことがあるのでしょうか。私は、本当に偶然にも
        おそらくクリスが残したであろう、最後の名刺を拾い上げ
        ることが出来たのです。必ずやクリスの遺志を継いで、今
        まで以上にイラクの復興に貢献できるように、心から誓わ
        ずにいられませんでした。

         爆心地には、昨日やってきたという200名ほどのイラ
        クの人がおいていった垂れ幕と花輪が捧げられています。
        そこには、「私たちイラク人は国連の活動を高く評価し、
        感謝する。国連ビルを攻撃した罪人とテロリストを絶対に
        受け入れない。」と書かれてあります。 [p134]

■7.テロとの戦いに屈しない■

     8日後の8月27日、今度はイラク中部にあるイスラム教シ
    ーア派の聖地ナジャフにあるマーム・アリ・モスクで、金曜礼
    拝が行われていた最中に爆弾テロが行われた。シーア派の最大
    組織「イラク・イスラム革命最高評議会」(SCIRI)の最
    高指導者、ムハマド・バクル・ハキム師(64)ら少なくとも
    82人が死亡、229人が負傷した。米軍統治に協力的な同師
    の暗殺を狙った爆弾テロとみられている。

         先日の国連事務所への爆弾テロといい、今日のテロとい
        い、テロリスト対国際社会という構図が日に日に明らかに
        なってきたではありませんか。アル・カイーダであろうと
        誰であろうと、この種のテロを実行した連中は、自らは様
        々な理屈付けがあるのでしょうが、犠牲者の側に立てば、
        ただの偽善でしかありません。自らの主張を満足させるた
        めに、他人の犠牲を厭わないという卑劣きわまる考え方に
        基づく行動です。[p137]

     11月13日には、イラク南部のナーシリーヤに展開してい
    るイタリア国家警察部隊が使用している建物が自動車爆弾テロ
    に襲われ、18名のイタリア人と9名のイラク人が犠牲になっ
    た。イラク人の犠牲者の中には、その建物の前を偶然通りかかっ
    た学校帰りの女子中学生4名も含まれている。

         犠牲になった尊い命から私たちが汲み取るべきは、テロ
        との戦いに屈しないと言う強い決意ではないでしょうか。
        テロは世界のどこでも起こりうるものです。テロリストの
        放逐は我々全員の課題なのです。[p.180]

     こう語ってから約2週間後、今度は奥氏自身がテロリストに
    よるものと思われる銃撃で命を絶つ。

■8.専制と隷従、圧迫と偏狭、恐怖と欠乏■

     年が明けて1月21日の衆院本会議で、民主党の菅直人代表
    はイラクへの自衛隊派遣を「憲法の大原則を大きく破るものだ」
    と指摘した。第9条の「国権の発動たる戦争と,武力による威
    嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久
    にこれを放棄する 」に違反しているというのが、氏の言い分
    だろう。しかし、伝染病の危険にさらされながら授業を受ける
    子供達や、テロの犠牲になった女子中学生の遺族にも、同じ主
    張をぶつける勇気を菅氏は持っているのだろうか。憲法の前文
    にはこうも書いてある。

         われらは,平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地
        上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において,
        名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは,全世界の国民
        が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存す
        る権利を有することを確認する。

     菅氏は、日本が憲法第9条を守っている限り、イラク国民が
    かつてのフセインや現在のテロリストによる「専制と隷従,圧
    迫と偏狭」「恐怖と欠乏」に脅かされても構わない、というの
    だろうか。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(019) Neck in the sand
    日本の経済的繁栄を守るために、なぜ米国青年が血を流さね
   ばならないのか?

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 奥克彦、「イラク便り」★★★、産経新聞社、H16

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「奥克彦氏の『イラク便り』」について 

                                             Yutakaさんより
     小生は法律の素人ですが、憲法第九条の文面を素直に読む限
    り、今回の自衛隊のイラク派遣が憲法違反とはどうしても思え
    ません。自衛隊の派遣の目的はイラクの戦後復興を援助するこ
    とであり、いわゆる戦争をするためではないことは明白です。

     自衛隊が任務遂行の途上で武力を行使することがあっても、
    それはテロリストから身を護るための自衛行為であり憲法で禁
    じている国権の発動とはまったく次元が違うのではないでしょ
    うか? 本来憲法が禁じているのはかつての日本が国益擁護の
    ためと称して行ったような政治的意図をもった武力の行使であっ
    て、今回のイラク派遣は多国籍の、平和目的の復興事業を行う
    にあたって、現地の状況が一般民間企業が手を出せないような
    状態にあるため、自衛隊が出てゆくと考えるべきと思います。

     イラク派遣をことさらイラク派兵と言い換え、戦争には反対
    ですなどと言う意見を述べる文化人(例えば日本ペンクラブの
    井上会長)が見受けられますが事実を捻じ曲げての議論はやめ
    て欲しいものです。

     昨日の新聞報道では来日中のアナン国連事務総長が国会で自
    衛隊のイラク派遣を評価すると言う趣旨の演説をする予定だと
    か。国連中心主義を唱える野党としてこの演説にどう反応する
    か楽しみです。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     Yutakaさんの憲法解釈は多くの国民の納得する所でしょう。
    自衛隊のイラク派遣も、賛成が43%で反対の42%を超えました
    (日経、2月15日)。皇太子様が2月23日の記者会見で述
    べられた「くれぐれも体に気を付け、イラク国民のためになる
    お仕事を」と自衛隊員に寄せられたお言葉が、多くの国民の気
    持ちを代弁しています。

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