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■■ Japan On the Globe(334)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

            Media Watch: オウム裁判と床屋の怒り

         「人権派」の新聞や弁護士によって、国民の人権は、
         危機にさらされている。
■■■■ H16.03.07 ■■ 34,738 Copies ■■ 1,107,361 Views■

■1.7年10カ月、弁護士費用4億円の裁判■

    「法治国家とはこんなにまだるっこしいものですかね。」と、
    私の髪を刈っていた床屋の主人が言った。普段は無口で、ろく
    に世間話もしない人なのに、いかにも怒りを抑えきれないとい
    う突然の口調に、私の方が驚かされた。テレビはオウム真理教
    の麻原彰晃こと松本智津夫被告の死刑判決のニュースを流し続
    けている。

     なにしろ地下鉄サリンなど13事件で27人もの人々を死亡
    させた大事件の張本人と目される人物の裁判で初公判から7年
    10カ月もかかり、弁護士費用だけで4億円以上の国費が投入
    されているという。我々の払った税金がそんな所にムダ使いさ
    れている、そんな金があるなら被害者や遺族を助ける方に使う
    べきではないか、そういう床屋さんの怒りには、私も同感だっ
    た。

     読売新聞の社説は「弁護団は証人尋問では、重箱の隅をつつ
    くような枝葉末節の尋問を繰り返し、検察側の五倍の約千時間
    をかけて、引き延ばしを図った」と弁護側を批判している。こ
    ういう牛歩戦術をとって、国から4億円もの巻き上げる凄腕弁
    護士が跋扈していては、我々庶民が怒るのも当然である。

■2.「惨劇の教訓は生かされていない」■

     しかし、麻原一人が死刑になったとしても、オウム事件が国
    家につきつけている問題は片づかない。読売社説は「惨劇の教
    訓は生かされていない」として、さらに重大な問題を提起して
    いる。

         悲惨なオウム事件の教訓は、現在の社会に十分生かされ
        ているとは、とても言えない。約千六百五十人の信者の活
        動が、十七都道府県、二十六施設の拠点で続いている。住
        民とのトラブルも絶えない。

         公安調査庁によると、一連の事件で逮捕・起訴され、服
        役を終了した信者など約四百人のうち、すでに百人以上が
        教団に戻っている。インターネットの出会い系サイトを活
        用し、教団の名前を隠しながら、新たな信者の取り込みも
        図っている。・・・

         こうした教団の存在や活動は結局一九九七年に、破壊活
        動防止法に基づいて、教団の解散ができなかったことから
        生じている。公安審査委員会は、公安調査庁からの破防法
        による教団の解散請求について、一年の審議の末、「将来
        の危険は薄い」として棄却した。

         信教や集会・結社の自由は憲法上の重要な権利である。
        だが、これだけ明白な組織犯罪集団について、一般市民を
        守るという社会防衛の視点が、まったく欠けていた。国際
        テロが頻発する時代を迎えながら新たな組織的な反社会集
        団に対する法の整備は進んでいない。[1]

■3.「なぜ教団がなくならないのか」■

     朝日新聞も同日の社説で、「オウム事件は過去のことではな
    い。事件後も教団はつぶれないで残っている。」と述べ、読売
    と同様の問題提起をしている。しかし、結びはまるで違う。

         教団が社会との共存を求めるのならば、教祖の死刑判決
        を機に、教祖や仲間が犯した事件をきちんと総括すべきだ。
        なぜ事件は起きたのか。なぜ教団がなくならないのか。私
        たちも考え続けなければなるまい。教祖への判決はその一
        歩に過ぎない。[2]

    と、結んだ。「なぜ教団がなくならないのか」。その答えは読
    売が簡潔に答えているように「一九九七年に、破壊活動防止法
    に基づいて、教団の解散ができなかった」からである。そして
    破壊活動防止法の適用反対の中心となったのが当の朝日新聞が
    あった。当時の朝日の社説のタイトルだけ並べてみても、その
    異様な反対ぶりが窺える。

        ・破防法論議は上すべりだ    1995.09.28
        ・破防法への慎重姿勢は当然だ  1995.10.04
        ・破防法の適用は疑問だ     1995.12.15
        ・破防法適用の矛盾が見えた   1996.01.19
        ・明らかになった破防法の無理  1996.06.29
        ・歴史に耐える破防法審理を   1996.07.13
        ・強引な破防法適用はやめよ   1996.12.13
        ・やはり破防法適用に反対だ   1997.01.09
        ・常識に沿った破防法の棄却   1997.02.01

     こうした反対勢力のために、大都市で化学兵器を使った無差
    別テロを行い、12人の死者と5500人を超す重軽症者を出
    した団体ですら解散できないという非常識がまかり通ってしまっ
    たのである。

■4.「これは国家転覆を狙った戦争なんだ。」■

     朝日新聞が執拗に破防法適用に反対して、その存続に貢献し
    たオウムとはどんな団体だったのか、もう一度見てみよう。警
    視庁警備局が地下鉄サリン事件の4ヶ月前、94年11月に作成
    した「オウム教団に関する基礎捜査報告書」には、こう書かれ
    ている。

         オウム教団は、麻原教祖の(ハルマゲドン、すなわち世
        界最終戦争の)予言を的中させるために、首都圏で数百万
        人規模の死傷者を出させるテロを実行するしかないところ
        まで追い詰められている。そして廃墟と化した首都に、オ
        ウムの理想共同体である独立国家を建設しようとしている。
        ・・・

         計画は5段階に分かれ、第一段階はサリンを使った無差
        別テロ。第二段階は銃器や爆発物を使用した要人テロ。第
        三段階は細菌兵器を上水道に混入する無差別テロ。第四段
        階はサリンなどの薬剤の空中散布による無差別テロ。そし
        て、第五段階は核兵器による首都壊滅である。・・・

     第一段階は95年3月20日の地下鉄サリン事件、第二段階は
    3月30日の国松孝二・警察庁長官狙撃事件として実現した。
    警察首脳の一人はこう語る。

         我々も最初はバカバカしくて、相手にしたくなかったん
        だ。でも、いろいろ調べて見ると、オウムは莫大な資金力
        を活かし、一つずつ実現している。そうなると、いくら妄
        想だろうが、頭がおかしかろうが、放置するわけにはいか
        ない。実際、地下鉄サリン事件が発生し、危惧していたこ
        とが現実になった。これはまさしく、無差別テロ、いや国
        家転覆を狙った戦争なんだ。[3,p36]

     第三段階以降も、オウムが着々と準備を進めていたという数
    々の証拠が見つかっている。

■5.ロシアへの進出■

     92年2月、ロシアのエリツィン大統領の側近で、国家安全保
    障会議書記だったオレグ・ロボフが来日し、「ロシア日本大学」
    構想への資金援助を求めた。日本政府や財界から断られたロボ
    フに500万ドルの資金提供を申し出たのが麻原だった。見返
    りにロボフはロシアでのオウム布教に最大級の便宜を図ること
    を約束したという。

     麻原は翌3月、信者約3百人を連れて、モスクワを訪問。副
    大統領のルツコイらと会見した。9月にはモスクワ支部を作り、
    さらにロシア最大のラジオ放送局の放送枠を買い取って、布教
    に利用し、瞬く間に3万5千人の信者を獲得している。

     旧ソ連の諜報機関KGBのOBらが設立したRFA(ロシア
    法務機関職員対応基金)という、実際はテロや非合法の諜報活
    動を行う暗黒組織において、オウム関係者45人が94年2月と
    4月の2回、射撃や破壊工作の訓練を受けている。

     オウム幹部の早川紀代秀は、92年からの3年余に21回もロ
    シアを訪れ、人材発掘と武器購入に奔走した。実際に大型軍用
    ヘリコプター「ミル17」の中古機を購入し、オランダのロッ
    テルダム港経由で海上輸送により、上九一色村の教団施設に運
    び込んだ。第四段階で計画したサリンの空中散布用である。

■6.戦車、戦闘機から、核兵器まで■

     米国CIAは、95年に100頁に及ぶ「オウム真理教事件報告
    書」をまとめ、上院に提出した。日本やロシアなど5カ国での
    現地調査を行い、早川がつけていたノートまでも含む詳細な資
    料である。危機管理に鋭敏な米政府は、地下鉄サリン事件で、
    大都市での化学兵器無差別テロという点と、オウムの反米思想
    に、日本政府以上に強い衝撃を受けていた。

     早川の接触していたロシアン・マフィアは、旧ソ連崩壊で失
    脚したKGBや軍の関係者が加わり、政府中枢と癒着している。
    そのマフィアによって、武器や軍事技術を提供する犯罪ビジネ
    スが罷り通っている。

     早川のノートには「戦車T72 中古20〜30万ドル」
    「F29(ミグ29戦闘機)新品2千万ドル」などという記述
    が見られる。早川は一国の軍隊並みの武器を調達しようとして
    いた。

     米上院調査小委員会顧問のエーデルマンは96年3月の上院
    公聴会で、オウムが旧ソ連領内で核兵器を購入しようとしてい
    た事を明らかにした。早川ノートの94年のメモにも「核兵器
    はいくらか?」という記載がある。ハルマゲドン第五段階の
    「核兵器による首都壊滅」も絵空事ではなく、現実に準備は進
    められていたのである。

     CIAの報告書作成に携わった関係者はこう語る。

         我々は外交や経済戦略上、日本に拠点と人脈を作りたい
        と考えていたロシア政府が、資金と人員が豊富なオウム真
        理教に目をつけ、自国の国益を満たすように操ろうとした
        可能性が高いと見ています。それで、軍部や旧KGBの関
        係者を通じ、二束三文の旧式武器を高額で売り付け、武装
        化を煽りながら、巧みに反米思想を植え付けたというのが
        真相ではないでしょうか。何しろ、オウム信者たちはマイ
        ンドコントロールされやすいですから、KGBの手にかかっ
        たら赤子の手を捻るようなものでしょう。[3,p133]

■7.北朝鮮への接近■

     早川はロシアやウクライナ経由で北朝鮮にも14回以上出入
    りしている。CIA報告書はオウムの北朝鮮接近について二つ
    の可能性を示唆する。第一は北朝鮮が開発している生物・化学
    兵器のノウハウを入手するためであり、第二は北朝鮮と組んで
    日本の暴力団経由で麻薬の密売を行うためである。

     米・国防情報局(DIA)や韓国・国家安全企画部(KCI
    A)の報告書によれば、北朝鮮には10カ所の化学兵器工場が
    あり、20種類の毒ガスを生産し、約1千トン、4千万人を殺
    害できる量を備蓄している。

     オウムは上九一色村の第七サティアンに、巨大なサリン製造
    プラントを建設した。その技術はどこから入手したのか? 
    CIAは、早川が北朝鮮を訪れていたのとほぼ同時期に、ロシ
    アの化学兵器技術者らが北朝鮮に集結していることを掴んでい
    る。オウムが資金を提供して、ロシアと北朝鮮の専門家が、北
    朝鮮でサリン製造プラントを建設し、その技術を早川が日本に
    持ち帰ったのではないか、と見ている。CIA関係者は語る。

         もし、そうだとすれば、北朝鮮は完成したプラントが手
        にはいるし、松本・地下鉄サリン事件も彼らには恰好の検
        討材料になった。独裁国家といえども、大量殺戮ガスの効
        果を調べる機会は滅多にない。サリンはいったい、どのく
        らいの量をどのように散布すれば、どれだけの被害が出る
        か、運搬方法は? 解毒剤は効果があるのか、被害地域を
        拡大するにはどうすればいいかなど、多くのデータが収集
        できたはずだ。北朝鮮がそのためにオウムの犯罪を支援し
        たとまでは言えないが、高い関心を抱いていたのは間違い
        ないだろう。[3,p182]

     日本の公安当局も「オウムが、国家転覆を狙うような団体に
    変貌した陰に、早川の存在がある」、そして「(早川ら)過激
    派の裏側に第三国の諜報機関がいて、日本国内の拠点作りや勢
    力拡大のためにオウムを利用しているに過ぎない」という見方
    をしている。

■8.民主主義社会を維持するために不可欠な「公憤」■

     早川は坂本堤弁護士一家殺害事件などの殺人罪により死刑判
    決を受け、現在控訴中である。一審の最終弁論で早川は涙を流
    しながら、こう述べた。

         (4人を殺害してしまったことに対して)いったい、何
        ということをしてしまったのか、と居たたまれない思いで
        す。こうして今なお、私が人間として存在していることに
        対し、申し訳なさと恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

     しかし、早川は肝心のロシアや北朝鮮との関係については何
    も話していない。だから、この涙もセリフも心からのものでは
    ない。もし話そうとしたら、おそらく村井秀夫のように口封じ
    のために殺されていたろう。村井は地下鉄サリン事件の3週間
    後、マスコミにもみくちゃにされる中で、刃渡り21センチの
    牛刀で刺殺された。サリンを製造した薬品類の存在を認めたり、
    「教団の総資産は一千億円」と口走るなど、口の軽さが殺され
    た原因と見られている。

     結局、早川も麻原も、何物かのあやつり人形に過ぎないので
    あって、そのあやつり人形に対して朝日新聞は破防法適用によ
    る解散命令に徹底的に反対し、「教団は真剣に反省せよ」
    (1999.05.22社説)などとピントのずれたお説教を垂れている。

     朝日新聞の破防法適用反対、そして「人権派」弁護士達によ
    る裁判引き延ばし戦術によって、オウムを操る闇の勢力につい
    ては、うやむやにされたままである。朝日や人権派弁護士の意
    図はどうあれ、「一般市民を守るという社会防衛の視点が、まっ
    たく欠けて」いる言行によって、我々国民の安全と人権が脅か
    されている。

    「これはまさしく国家転覆を狙った戦争なんだ」そして「国際
    テロが頻発する時代を迎えながら新たな組織的な反社会集団に
    対する法の整備は進んでいない。」という状況の中で、我々一
    般国民も自らの安全をどう守るか、国家任せにせずに、自ら考
    えていかなければならない。そう考えれば、床屋さんの怒りも、
    民主主義社会を維持するために不可欠な「公憤」なのである。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(310) 国家主権と人権と
   「国家主権」を蔑ろにする者は必ず「人権」を無視する。拉致
   問題はこの事を問いかけている。
b. JOG(051) 冷酷なハト派
    米国人と違って、海外にいる日本人は、いざという場合には、
   自分の国をあてにできず、自分の身は自分で守るしかないのが
   現実だ。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 読売新聞、「[社説]“教祖”死刑判決  惨劇の教訓は生かさ
   れていない」、H16.02.28
2. 朝日新聞、「何がオウムを生んだのか 教祖に死刑判決(社説)」
   H16.02.28
3. 一橋文哉、「オウム帝国の正体」★★、新潮文庫、H14

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