[トップページ][平成16年一覧][国柄探訪][210.1文化史] [222.0136 中国:社会]

■■ Japan On the Globe(341)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

  国柄探訪: 農耕民族と騎馬民族 〜 日中相互理解の難しさ

               これほど外見は良く似ていながら、性格の異なる
              隣人関係も珍しい。
■■■■ H16.04.25 ■■ 33,998 Copies ■■ 1,154,153 Views■

■1.「一衣帯水」と「同文同種」■

     日本を飛び立って、3時間もしないうちに飛行機は中国の天
    津国際空港に着いてしまった。水平飛行をしている時間は2時
    間ほどだから、客室乗務員は飛び立つとすぐに飲み物と昼食を
    配り、食事が済んだらすぐに片づけに入る。ゆっくりビールを
    楽しんでいる暇もない。ヨーロッパやアメリカに行くのに10
    時間以上も乗って、映画の2、3本も見られるのとは大違いだ。
    日中は「一衣帯水(一筋の帯のような狭い海峡をへだてて近接
    している)」とよく言われるが、まさにその通りだと実感する。

     中国との間では「同文同種」という言葉もある。文字も人種
    も同じだと言うのである。確かに日系企業の事務所に行くと、
    誰が中国人で誰が日本人なのか、まったく分からない。日中両
    国語を巧みに話す人に出会うと、日本語のうまい中国人なのか、
    中国語のうまい日本人なのか、名刺を交換して姓を確認してみ
    ないと分からない。

     しかし、その一方では中国への旅行者や駐在員が激増し、国
    内でも中国人留学生と接する機会が増えて、どうも中国人とは、
    我々とはだいぶ違う人間だ、という事が多くの日本人に体験的
    に分かってきた。中国人に親切にしてやったのに、裏切られた、
    という話もよく聞く。無遠慮な中国人留学生に手を焼いている
    大学教員も少なくない。どうも「一衣帯水」や「同文同種」と
    いう言葉は、日中関係のごく表面を現しているに過ぎないので
    はないか。

■2.隣の店に転職した中国人青年■

     孔子の第75代直系子孫で、現在は日中文化交流に尽力して
    いる孔健さんは、日本で中華レストランを経営している日本人
    経営者から、こんな話を聞いた。

         うちで中国人の青年が半年前から働いていたんです。日
        本に来たばかりで、経済的に困っているというので、働い
        てもらうことにしました。日本語がぜんぜん駄目なので、
        手取り足取りウェイターの仕事を覚えさせたんです。それ
        がようやく慣れたと思ったら、なんと最近、隣の店に突然、
        転職しちゃったんです。

     この青年は隣の店の時給が100円高いと知ると、すぐに面
    接に行き、さっさと転職を決めたという。

         それが、すまないの一言もないんです。転職した次の日、
        顔を合わせたら、「先生、今日は」とケロッとした顔であ
        いさつするんです。

     慣れない日本で面倒を見てやったのだから恩義があるはずだ
    し、少しは済まないと思ってもいいんじゃないか、とこの経営
    者は怒る。相手が自分の「常識」通り行動しないと怒るのは、
    人間の当然の心理である。しかし、そもそもこの「常識」が文
    化によって全く違うことから、異文化間での摩擦が生ずる。

■3.騎馬民族と農耕民族■

     孔健さんは、中国人を理解するためのキーワードの一つとし
    て「騎馬民族」を挙げる。騎馬民族は毎日移動して、獲物を求
    める。一カ所にいてそこでの獲物を取り尽くしたら、飢え死に
    するだけだ。だから、獲物の豊富にいる所に常に移動するのは
    騎馬民族にとって当たり前のことである。

     孔健さんの義弟は、ベテランのコックだが、会うたびに店を
    変わっている。なんでそんなに変わるのか、と聞くと、「開店
    料理長」を次々とやらされている、と言う。レストランが新規
    開店をする時に、腕のいいコックを呼び、「あの店はうまい」
    という評判を3ヶ月でたてる。それが済むと、別の店のオープ
    ンに呼ばれる。こうして義弟は数ヶ月単位で店から店へと移動
    しつつ、キャリアを磨いていく。

     これに比べれば、日本では店も料理人も農耕民族的である。
    一カ所で長期間、店を続けて、贔屓客、なじみ客を作る。料理
    人も一カ所で長年努めて腕を磨いていく。創業何十年、いや何
    百年というのが店の看板であり、そうした老舗で何十年も勤め
    上げることが、料理人の腕の証しである。

■4.農耕民族の「常識」■

     こうした農耕民族の世界では、新入りにその働き以上の給料
    を出し、長年かけて  一流の料理人に育てていく、という「年
    季奉公」のシステムをとる。一人前になるまでは店の持ち出し
    であり、一人前になってから「お礼奉公」をしてもらう。それ
    が済んだら「暖簾分け」をして、助け合いの関係に入る。数年、
    数十年をかけた長期的なギブ・アンド・テイクの仕組みになっ
    ているのである。

     上述の日本人経営者は、こうした年季奉公システムを意識し
    ないまま、それを「常識」だと思いこんでいる。そしてその
    「常識」を踏みにじった「非常識」な中国人青年に怒りをぶつ
    けているのである。

     一方、騎馬民族ではギブ・アンド・テイクは交易の瞬間瞬間
    に成立しなければならない。次にいつ出会うか分からないから
    だ。したがって中国人青年から見れば、自分が受け取っている
    給料は、自分の皿洗いなどの現在の労働に見合ったものである
    はずだし、100円でも時給の高い所に移るのは騎馬民族とし
    て当然の「常識」なのである。だから、日本人経営者に会って
    も、何の引け目を感ずることなく、挨拶ができる。

     日本人経営者も中国人青年も、それぞれの「常識」に従って
    いるだけだ。ただ農耕民族の常識と騎馬民族の常識が違うので、
    そこに摩擦が生ずるのである。こうした摩擦を避けるためには、
    相手の常識がいかに自分の常識と違っているかを、知らなけれ
    ばならない。

■5.中国商法も騎馬民族的■

     中国人はユダヤ人、インド人と並んで、世界三大商人と言わ
    れるほど商売の天才であるが、その商法も実に騎馬民族的であ
    る。孔健さん自身こんな経験をしている。

     孔健さんが福建省のある用品店に入った時のことである。ひ
    やかし半分に香港製のしゃれたスーツを見ていると、店主が
    「いらっしゃいませ」とニコニコ顔で迎えた。何年も日本に住
    んでいる孔健さんは、つい日本流が出て、商品を触りながら物
    色した。気に入ったものがないので、店を出ようとすると、店
    主が血相を変えて、「お客さん、買わないんですか?」「ああ、
    気に入ったものがないんでね」と答えると、ニコニコ顔だった
    店主が急に怖い顔に変わって、「それ、困る。触ったから、汚
    れて売れない。触り代をもらいます。」

         騎馬民族は常に移動し獲物を求める。移動して、会うの
        は新しい獲物であり、新しいお客である。移動するがゆえ
        に、今日のお客が明日のお客であることはほとんどない。
        一見のお客である。だからこそ、今、このお客に買っても
        らわねばならない。そうしなければ、自分が飢えてしまう。

         中国商人は、愛想のいい顔と、脅迫をしてでも売り込む
        ふたつの顔を持って、必死で売り込みをはかる。・・・場
        合によっては、だましてでも売りつける。[1,p63]

         中国には固定客という考え方が基本的にない。極端にい
        えば、お客はそのたびに違い、品物はよかろうが悪かろう
        が、売れればよい。お客のほうも、店の信用で買うのでは
        なく、品物をしつこく吟味して買う。傷でもあれば徹底的
        に値切って買う。店を信用していないのである。[1,p65]

     こうして騙したり騙されたりの修羅場をくぐり抜けて、中国
    人は商売の天才になったのである。しかし、この騙したり、脅
    したりという商法を日本でやったらどうだろう。そんな悪評は
    あっという間に村中に広がり、翌日からは誰も客が来なくなる。

     農耕民族の中では、商売も信頼と誠実を旨として、お客との
    長い付き合いの中で利益をあげていかなければならないのであ
    る。[a]

■6.日本人と中国人の見分け方■

     騎馬民族としての習性は、普段の物腰にも現れる。だから孔
    健さんは90%以上の確率で、日本人と中国人を区別できるそ
    うだ。ある日、孔健さんは新宿の雑踏の中を、日本人の友人と
    歩いていた。30メートルほど離れた所に立っている東洋人の
    女性を見て、「あそこに立っている、赤い服を着た女性。あの
    人、中国人ですよ。」と言った。「えーっ、日本人じゃないか
    と思うけど」と友人は疑わしそうな様子。孔健氏は、その女性
    に近づいて「現在、凡点了(いま、何時ですか)?」と聞くと、
    「三点了(3時です)」と中国語の返事が返ってきた。

         中国人は騎馬民族の習性で、目がよく働き、常に周囲を
        警戒している。いつ敵が襲ってくるかわからない。だから
        目をキョロキョロさせて警戒を怠らない。なにか獲物はい
        ないか、なにか落ちていないかと、ものを探す目である。
        こうしなければ、明日も生きられない習性が身についてい
        る。

     日本人は農耕民族で、出会う人間も同じ村の人間ばかりだし、
    急に敵が襲ってくることもないから、警戒心がない。獲物を見
    つける必要もないから、あたりをキョロキョロさせる事もない。
    日本人の観察力は、農耕民族として作物の状態をこまやかに見
    たり、また季節の変わり目を敏感に捉えるという習性が中心で
    ある。

     こうした物腰からしていかにも警戒心のない日本人が海外で
    スリや強盗の恰好の獲物とされるのも当然だろう。

■7.「熱烈歓迎」の罠■

     騎馬民族は、毎日、新しい人間に出会うが、それは敵か、騙
    してでも物を売りつけるカモか、それともごく希に出会う本当
    の味方か、分からない。だから敵にしても、味方にしても、カ
    モにしても、愛想良くしておけば間違いはない。初対面の愛想
    の良さは警戒心の表れなのである。

     日本のビジネスマンが中国企業と提携しようと、初めて中国
    を訪れると、「よくいらっしゃいました。熱烈歓迎です」と、
    抱きついたり、握手したりと、オーバーに迎えてくれる。その
    晩から、連日連夜、盛大な歓迎祝宴である。席上でも偉い人が
    料理を大皿からとってくれたり、入れ替わり立ち替わり、いろ
    いろな人が近寄ってきては、「乾杯(カンペイ)、乾杯」と、
    杯を干す一気飲みを求められる。そして自分たちがいかに日本
    企業のために役に立つ存在であるかを滔々と話す。

     こうなると初めて中国に来て、不安を抱いている日本人の方
    は、たちまち警戒心を解いて、相手を無条件に信用してしまう。
    農耕民族である日本人は、新しく出会った「よそ者」に警戒心
    を抱くので、どうしても初対面の人には、ぎこちない。そこの
    所を騎馬民族流の「熱烈歓迎」で突破されてしまう。

     しかし、そのあとは中国の騎馬民族的ビジネスのペースには
    められて、「中国人が愛想のよいのは最初だけ。すぐに冷たく
    なる」という不満を持つ日本人ビジネスマンは多い。日中国交
    正常化交渉でも、中国を訪問した田中首相一行がこの「熱烈歓
    迎」戦法でとりこにされ、その後、ずっと巨額のODAをむし
    り取られるはめに陥ったのである。[b]

■8.日中相互理解の難しさ■

     中国大陸は数千年もの間、北方の騎馬民族に何度も侵略され、
    征服された。漢民族どうしでも抗争や内乱が続いた。一つの王
    朝が天下をとっては、次の王朝に打倒されるという歴史が繰り
    返された。世界に騎馬民族は多いが、これほど激烈な戦いの中
    で鍛え上げられた民族はいないであろう。

     一方、日本人は、自然の恵み豊かな日本列島で、数千年の間、
    平和な日々を送ってきた。国内を最初に統一した王朝がたまた
    ま民を宝と考えるという、古代世界には珍しい哲学を持ってお
    り、その王朝のもとで国全体が一つの村のように平和に豊かに
    暮らす、という希な幸福に長い間恵まれてきた。時には戦争も
    あったが、それは中国大陸の戦乱に比べれば、「内輪もめ」に
    過ぎない。世界に農耕民族は多いと言えども、日本人こそその
    典型であると言える。

     こうして「同文同種」で見た目はそっくりながら、騎馬民族
    と農耕民族の典型どうしが「一衣帯水」の隣合わせに住むとい
    う奇遇が生まれた。世界広しと言えども、これほど外見はそっ
    くりながら、性格の違う隣人関係も珍しいだろう。

     同時に中国人の方は、自分が文化的に世界の中心であるとい
    う「中華思想」を持ち、他民族の文化を理解し、尊重しようと
    いう姿勢を持たない。日本人の方も、狭い日本列島から出た経
    験が少なく、よそ者との付き合い方が下手である。この点が両
    者の相互理解を一層、難しくしている。

■9.グローバル化の流れの中で■

     こうした違いを踏まえた上で、日本人は中国人とどのように
    付き合ったら良いのか、考えてみよう。その前提として、やは
    り急速に進展しつつあるグローバル化の流れを考えなくてはな
    らない。交通と通信の発達により、世界は狭くなっていく。そ
    の行き着く先では、地球全体が一つの狭い村のようになってし
    まうだろう。

     そこではトヨタ、IBM、セブン=イレブン、マクドナルド
    と言った良質な商品やサービスを地球の隅々まで提供する企業
    が、グローバル・ブランドとして市場を支配する。ブランドと
    は顧客の信用であり、顧客との長期的な信頼関係を重視する農
    耕民族的な経営姿勢こそがグローバル企業として成功するのに
    不可欠な条件である。

     逆に騎馬民族的に「一見客を騙しても」という商法は市場の
    ごく片隅でおこぼれに預かるだけだろう。中国企業がグローバ
    ルな成功を収めようとしたら、農耕民族的なビジネスを身につ
    けて、信頼とサービスを売るようにしなければならない。

     したがって日本企業としては、誠実に顧客の信用を追求する
    日本企業らしさを磨いていくことが、グローバルな勝ち残りへ
    の近道である。とは言え、そこに至るまでには、未熟な中国市
    場のように騎馬民族的企業がうようよしている中でも、やって
    いかねばならない。また我々の日常生活でも、騎馬民族的な人
    びとと付き合っていかねばならない。

     誠実と勤勉を旨とする日本人らしさ、日本企業らしさを磨き
    つつも、騎馬民族に騙されないだけの知恵と用心を持ってグロ
    ーバル社会を生きていく−−それが国際派日本人、国際派日本
    企業のあり方であろう。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(333) 長寿企業の言い伝え
    数百年も事業を続けてきた長寿企業に学ぶ永続的繁栄の秘訣
   とは。
b. JOG(312) 「日中国交正常化」〜 幻想から幻滅へ
    そもそものボタンの掛け違えは、田中角栄の「日中国交正常
   化」での「異常」な交渉にあった。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 孔健、「日本人は永遠に中国人を理解できない」★★、
   講談社+α文庫、H11
2. 稲垣武・加地伸行、「日本と中国 永遠の誤解」★★★、
   文春文庫、H14

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「農耕民族と騎馬民族 〜 日中相互 理解の難しさ」について

                                             加奈子さんより
     いつも興味深く拝読しております。

        誠実と勤勉を旨とする日本人らしさ、日本企業らしさを磨
        きつつも、騎馬民族に騙されないだけの知恵と用心を持っ
        てグローバル社会を生きていく−−それが国際派日本人、
        国際派日本企業のあり方であろう。

     この結論に、たいへん感銘をうけました。部分部分で押され
    るようなことがあっても、この日本的やり方を、自信をもって
    グローバルスタンダードにおしあげればいいんですね。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     日本が世界第2位の経済大国にのしあがったのも、日本的経
    営の中に合理性があるからであり、その相当部分はグローバル
    な普遍性を持つものと考えられます。

© 平成16年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.