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■■ Japan On the Globe(363)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

           The Globe Now:「大義ある国益」とは?

                    なぜ大義なきイラク戦争を支持する事が、
                  日本の国益に適うのか?
■■■■ H16.09.26 ■■ 32,907 Copies ■■ 1,316,244 Views■

■1.なぜ大義なきイラク戦争を支持するのか?■

        国際派日本人養成講座編集長 伊勢雅臣様

         はじめまして、私は現在、名古屋市内の大学から交換留
        学生としてアメリカ・ミシガン州の大学に留学しているも
        のです。1年前、このホームページを発見して以来、たび
        たび開いては愛読しております。私は以前より国際関係に
        興味があり、大学の卒論は大・東アジアの地域統合につい
        てまとめようと考えています。JOGの記事で、私は戦前の
        日本人がいかにアジアとのかかわりを重視し、また西洋社
        会との対決姿勢を見せてきたかを深く理解することができ
        ました。

         ただ、最近本講座がイラク戦争支持など、対米追従の姿
        勢を見せ、その一方で中国・韓国といった国々に対しての
        み批判的な態度をとっていることに関しては納得できない
        でいます。かつて日本を開戦へと追い詰め、無差別爆撃と
        広島、長崎における原爆で100万人近い日本人を虐殺した
        アメリカをなぜそこまで支持できるのか。大義なき戦争に
        参戦することがなぜ日本の「国益」につながるのかが理解
        できません。

         本講座では、北朝鮮のような犯罪国家と手を結ぼうとし
        ている政府に対して批判的な態度をとっています。そして
        将来日本が、国際社会から北朝鮮のような犯罪国家に協力
        した道義的責任を追求される可能性すら示唆しています。
        ならばどうして「アメリカのイラク戦争を支持する」など
        と言うのでしょうか。アメリカ国内ですらイラク戦争の大
        量破壊兵器やらフセイン政権からのイラク国民の「解放」
        という大義名分に対して懐疑的な人々が増えてきていると
        いうのに。

■2.「大義」と「国益」■

     時宗望さん

     長文の、かつ真摯なお便りをありがとうございました。おた
    よりの全文は姉妹誌 JOG Wing に掲載させていただきました[1]。
    貴兄のようにこれからの日本を背負って立つ人々には、ぜひ考
    えて貰いたい重要な問題がここに提起されていますので、今回
    は紙面を借りて考えてみたいと思います。

     時宗望さんは「大義なき戦争に参戦することがなぜ日本の
    『国益』につながるのかが理解できません。」と述べられてい
    ますが、正しくこの「大義」と「国益」という二つの言葉が国
    際政治におけるキーワードだと思います。

     国際社会における日本の進路を考えるには、「大義を忘れた
    国益」では国際社会で信を失い、また「国益を忘れた大義」で
    は、国家が立ちゆきません。「大義」と「国益」のバランスを
    どうとっていくのか、ここに国際社会に生きていく難しさがあ
    ると考えます。

■3.最も深刻なのは中国の脅威■

     そこでまず、何が日本の国益なのか、という所から考えてみ
    ましょう。国益の最低線は、国民の生命と安全を守ることです。

     現在の日本国民の安全を脅かしている存在は、何と言っても
    北朝鮮です。我が同胞を拉致し、覚醒剤を売り、挙げ句の果て
    にミサイルと核兵器の開発を進めています。このテロ国家から
    いかに国民を守るか、これが現下の日本における最重要の国益
    問題であることに議論の余地はないでしょう。

     しかし北朝鮮は中国を後ろ盾としており、その援助がなけれ
    ばやっていけない国です。だからこそアメリカも中国の影響力
    によって、北朝鮮の核開発を止めさせようとしているわけです。
    逆に言うと、北朝鮮は中国が国際的なパワーゲームを有利に進
    めるためのカードの一枚なのです。

     中国はまた核ミサイルの照準を日本の各都市に合わせていま
    す。我が国に本格的な核攻撃を与えうる国と言えば、現在の所、
    中国しかありません[a]。

     同時に、中国はむきだしの領土・領海拡張意思を見せつけて
    います。尖閣諸島を自国領土として主張し、ついにその近海で
    海底油田開発を始めました。中国が尖閣諸島の領有権を主張し
    始めたのは昭和46年12月で、これは昭和43年秋に尖閣付
    近の大陸棚に膨大な海底油田が埋蔵している可能性が判明した
    直後であり、また米国の統治下にあった沖縄が本土復帰する直
    前です。

     米軍という怖い存在がいなくなれば、すぐに勢力を拡げよう
    というのは中国の一貫した姿勢です。1973年に米軍がベトナム
    から引き揚げた翌年に、中国はパラセル(西沙)諸島に駐留し
    ていたベトナム軍を武力で排除して実効支配しました。また米
    軍がフィリピンから引き揚げた途端に、スプラトリー(南沙)
    諸島の軍事占拠に拍車をかけています。[b]

     さらに中国共産党政権はかつて支配をした事もない台湾を自
    国領土として主張し、この自由選挙と先進経済を持つ独立国家
    が「独立」を宣言したら、武力攻撃すると公言してます。これ
    は北のモンゴル、西のウイグル、南のチベット、そして東の朝
    鮮族と、周辺異民族を支配して、常に分裂の危機を抱えている
    現政権の弱みの現れでもありますが、それだけに台湾の「独立
    宣言」阻止は、本気だと思われます。

     また歴史教科書や靖国参拝などでは日本の内政に干渉し、我
    が国の歴史伝統を踏みにじるという、外交的非礼を平然と行っ
    ています。これも重大な国益の侵害です。

■4.「地政学的」史観■

     地政学的に考えると、アジア大陸が一つの巨大なランド・パ
    ワーで統一されると、日本は朝鮮半島を通じて、その脅威を受
    ける、という構図が、歴史上何度も繰り返されました。元寇、
    日清・日露戦争、そして現在の共産中国と北朝鮮がその例です。
    朝鮮戦争も、米国が日本を大陸から排除した途端に、日本の肩
    代わりとして大陸からの圧力を自ら引き受けざるを得なくなっ
    た戦争です。

     またシー・パワーたる日本が、朝鮮半島を経由して大陸に乗
    り込んでいこうとすると、かならず失敗します。663年に日本
    ・百済連合軍と唐・新羅連合軍との間に行われた白村江の戦か
    ら、秀吉の朝鮮征伐、そして朝鮮併合から満洲事変、支那事変
    の流れがこれにあたります。

     314号「ランドパワーとシーパワー」で紹介した地政学研究
    家の江田島孔明氏は「朝鮮半島は日本にとってまさに鬼門」と
    言われています。[c] この地政学的見方からは、日本は大陸
    勢力と組んだり、内部に干渉することは「鬼門」であり、日米
    同盟を基軸に台湾を支援し、中国や北朝鮮と対峙するという
    「日米同盟」戦略が正しいと考えられます。

■5.「植民地主義」史観■

     もう一つの歴史的構図として、ここ5百年ほどの西欧諸国に
    よるアフリカとアジアの植民地化の動きがありました。これが
    19世紀には東アジアに及んで、中国でのアヘン戦争、日本で
    の黒船となるわけです。ここから「戦前の日本人がいかにアジ
    アとのかかわりを重視し、また西洋社会との対決姿勢を見せて
    きたか」との時宗望さんの指摘につながっていく訳です。

     大東亜戦争をきっかけとして、アジア諸国は政治体制上は独
    立国家となりましたが、国際政治や国際経済の実権は米国が握っ
    ており、いまだ「見えざる植民地主義」が残っているのではな
    いか、という見方があります。

     特に我が国は米軍基地を国内に抱え、米国の核の傘に守られ
    ている、という現状を見れば、日本は米国の属国である、とも
    言えるわけです。

     この見方からすると、イラク戦争は米国の仕掛けた新たな植
    民地拡大の動きであり、それに加担するのは「対米追従」であ
    り、「アジア独立」のために戦ってきた我が国の先人の功績に
    泥を塗るものだ、という「対米独立派」の主張になります。

     このように、現在の「日米同盟派」と「対米独立派」の二つ
    の主張は、それぞれに説得力を持つ「地政学的」史観と「植民
    地主義」史観に根ざしています。我が国の今後の国際戦略を練
    るためには、この史観の問題にまで遡って考える必要がありま
    す。

■6.自主的な同盟関係とは■

     私は「地政学」的史観と「植民地主義」史観は、一つの世界
    史を二つの異なる角度から観たもので、双方とも真実を含んで
    おり、両者を通じて複眼的に現実を見るべきだ、と考えます。

     同時に「日米同盟派」と「対米独立派」も相対立する戦略で
    はなく、日米同盟を維持しながら独立国としてやっていく道が
    あるはずです。日本の国益に関係ない戦争にまで参戦を命ぜら
    れて、それに黙従しているのでは属国ですが、損得を自ら計算
    した上で協力要請に応えるのなら、自主的な同盟関係です。

     この自主的な同盟関係を築くには、日本側にアメリカから頼
    りにされるだけの武力や経済力が必要であり、同時にそれをバ
    ーゲニング・パワーとして同盟関係を日本の国益に役立てよう
    とする主体性がなければなりません。

     この点で、日英同盟は理想的な同盟だったと言えます。ロシ
    アの南進からアジアにおける権益を守ろうとしていたイギリス
    から見れば、日本の軍事力は局地勢力とは言え、十分、利用価
    値のあるものでした。明治政府はそれをバーゲニング・パワー
    として、日露戦争でイギリスの支援を得たわけです。

■7.同盟を成り立たせる力と主体性■

     この点で日米同盟ではどうでしょうか? 日本の軍事力、経
    済力は十二分に米国にとっても価値のあるものです。海上自衛
    隊は有事の際に資源輸入のシーレーンを守るために世界第2位
    の対潜水艦戦能力と世界トップの機雷掃海能力を持っています
    が、これは同時に米軍の補給ルート防衛にも貢献できます。ま
    た日本国内の米軍基地は、米軍のアジア太平洋地域における補
    給・補修の要であり、これを失えば、米軍の展開能力は大幅に
    縮小してしまいます。[d]

     経済力については多くを言う必要はないでしょう。米国が貿
    易赤字を続けていられるのは、日本が米国債を買い支えている
    からです。バブル経済もそのために国内をあまりにも低い金利
    に抑えたから発生した、という見方を弊誌でも紹介しました[e]。

     軍事面、経済面ともに、日英同盟時の明治日本よりも、日米
    同盟における現在の日本の方がはるかに力があります。いま欠
    けているのは、その力を我が国が自覚し、それを戦略的に使っ
    て、日米同盟を真に「大義ある国益」に役立つ方向に活用して
    いこう、という主体性でしょう。

■8.日本の国益から見たイラク戦争■

     だいぶ回り道をしましたが、このような日米同盟のあり方を
    前提とした上で、イラク戦争を考えてみましょう。我が国の国
    益から見れば、イラクへの自衛隊派遣は大義もあり、国益にも
    かなうものでした。

     まず言うまでもなく、自衛隊派遣の目的は人道支援であり、
    「参戦」ではありません。自衛隊は国連が現地で展開している
    のと同様の人道支援をしているのであり、それ自体は十分に大
    義のあることです。弊誌でもご紹介した通り、過酷で危険な環
    境の中での自衛隊の見事な支援活動ぶりは多くのサマワ市民か
    ら感謝されており、同じ日本人として誇りに思います。[f]
    アメリカのイラク戦争そのものに大義があるのか、という問題
    に関しては、289号を御覧下さい[g]。

     自衛隊派遣は国益の面でも、大きな効果をもたらしました。
    それは日米同盟での我が国の地位を大幅に向上させたことです。
    自衛隊がイラクに到着した時は、アメリカのTVニュースでそ
    の様子が報じられました。「ついに強力な友邦が手助けに来て
    くれた」といういかにも歓迎ムードの報道でした。日頃から日
    本の経済力・技術力をよく知っている米国国民も、頼もしい同
    盟国として日本を認識したのは、初めてだったでしょう。

     北朝鮮の拉致問題でも、米国政府は今年の国際テロ年次報告
    書で日本人拉致問題を初めて明記した上で、北朝鮮を「テロ支
    援国家」にあらためて指定しました。北朝鮮は様々な禁輸措置
    を伴う「テロ支援国家」指定の解除を求めていましたが、米国
    は日本の拉致問題が解決しない限り、解除はしないと全面的に
    支援してくれているのです。

     日米両国は長い間、安全保障条約を結んで同盟関係にありま
    したが、現在ほど、日本の存在感が増し、アメリカに頼りにさ
    れている時期はありません。

■9.「大義ある国益」とは■

    「アメリカに頼りにされることが、どう日本の国益につながる
    のか?」そんな時宗望さんの反論がここで聞こえてきそうです。
    それは二つの面で、重要な国益につながります。

     第一に、アメリカに頼りにされるほど、日本のアメリカに対
    する発言権が増します。拉致被害者を救いたいという日本国民
    の念願を、米政府が親身になって支援してくれるのも、そのた
    めです。日本の発言権が増すほど、こちらの言い分を通しやす
    くなるのです。その結果、こちらの国益に沿わない要求を断る
    こともできるようになります。それは追従から対等な同盟への
    道です。

     第二に、日米同盟が緊密さを増せば、それはそのまま北朝鮮
    や中国への抑止力として働きます。すでに述べたように、中国
    と北朝鮮は日本の安全を脅かす最大の脅威ですが、それには日
    米同盟が最も効果的な安全保障策なのです。

     日米が一体となって軍事的・経済的圧力を加え続ければ、金
    正日政権も次第に追いつめられ、圧政にあえぐ北朝鮮人民が解
    放される日も来る可能性があります。これは日本にとって「大
    義ある国益」です。

     また日米ががっちりスクラムを組んでいれば、中国も容易に
    は台湾に手を出せなくなります。明治の日本人は、満洲族王朝
    である清国を打倒して漢民族の独立を勝ち取ろうとした孫文を
    支援しました。彼らが現代に蘇ったら、今度は中国共産党の独
    裁政権に圧迫されつつも、自主独立を守ろうとしている台湾の
    ために立ち上がるでしょう。

     その志を現代の日本人が米国と力を合わせて実現しようとし
    たら、「それこそ大義ある国益」と、大東亜戦争の英霊たちも
    草場の陰で喜んでくれるのではないでしょうか。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(186) 貧者の一燈、核兵器〜中国軍拡小史
    9回の対外戦争と数次の国内動乱を乗り越えて、核大国を目
   指してきた中国の国家的執念。
b. JOG(152) 今日の南沙は明日の尖閣
    米軍がフィリッピンから引き揚げた途端に、中国は南沙諸島
   の軍事基地化を加速した。
c. JOG(314) ランドパワーとシーパワー
    日本の生きる道は、シーパワー(海洋国家)諸国との「環太
   平洋連合」にある。
d. JOG(084) 気がつけば不沈空母
    国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の
   拠点となっている。
e. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
    日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
   た。
f. JOG(348) 手足を縛られた自衛隊
    様々な手かせ足かせにも関わらず、イラクに派遣された自衛
   隊は、黙々と復興支援に取り組んでいる。
g. JOG(289) 「千と千尋」の世界観
    〜 イラク戦争での朝日・産経社説読み比べ
    ついに「千と千尋」まで持ち出した朝日新聞のユニークな世
   界観を探る。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 時宗望、「なぜイラク戦争を支持するのか?」、
   JOG Wing 国際派日本人の情報ファイル、H16.09.24

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「『大義ある国益』とは?」について 

                                               Hiroさんより
     私は、現在東京で大学に通っていますが、今の大学に来るま
    では、米国にて教育を受けておりました。日本に帰国してから
    気が付いた事は、我々若者の政治に対する関心がとても低く、
    それらを語り合おうという雰囲気が感じられない事でした。私
    の勝手な思い込みかもしれませんが、そんな事を考えるよりも、
    学生生活を楽しもうといった雰囲気が大学構内を支配している
    ように感じていました。

     そんな中、時宗望さんの投稿を読み、彼の意見には賛同でき
    なかったものの、彼のようにしっかりとした意見を持った同年
    代の方がいらっしゃる事が分かり、とても嬉しく感じました。

        (伊勢雅臣: こういう一人ひとりの姿勢が、国を興す基
         となるのだと思います。)

                                             ユッケさんより
     日本の国益が「生命と安全」とありますがこれについて僕は
    否定的な意見です。日本の国益は「独立」です。「生命と安全」
    が国益なら大東亜戦争は戦う必要がありません。「ハルノート」
    を呑めばよかったわけですから。では、なぜ戦ったのか? そ
    れは「大東亜共栄圏」という揺るがない「大義」があったから
    であり、アジアとの関わりを重視して、有色人種の代表として
    の「責任」を果たすためです。そして独立を守るためです。だ
    からこそあれだけの犠牲を払って戦ったのであり、僕はその
    「大義」を信じることができるんです。

     北朝鮮や中国を牽制するためにアメリカ支持というのは情け
    ないです。日本一国で「独立」を守れるように国民は覚悟する
    べきでありリスクを背負うべきです。たとえ消費税を20%に
    引き上げてでも防衛力を高めるべきであり政治家はその説明を
    するべきです。選挙に負けるのが怖くてできないのでしょうけ
    ど、そういうことでは責任を引き受ける大人が減っていくのも
    あたりまえです。

        (伊勢雅臣: 「独立」なき、「生命と安全」は国益には
         ならない、というのは、本当ですね。そしていざという
        時には一国でも独立を守れるように、という気概は必要で
        す。ただ日米同盟は戦術として、価値があると思います。

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