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■■ Japan On the Globe(394)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

                  国柄探訪: 国を支える心

                     国運の発展する本はすぐ手近な所にある。

■■■■ H17.05.08 ■■ 33,567 Copies ■■ 1,594,448 Views■

■1.憲法改正なしの最長世界記録■

     58回目の憲法記念日を迎えた。この「新憲法」は世界の約
    180カ国の憲法の中で、すでに15番目に古いものである。
    ただし日本国憲法を除いて、21位まではすべて何らかの改正
    を経ている。すなわち、わが国は憲法改正なしの世界記録を更
    新中なのである。[a]

     よほど出来のよい憲法ならこういう「不磨の大典」でも良い
    だろうが、何しろ現憲法は昭和21年2月4日からわずか10
    日ほどの間に、占領軍総司令部民政局の25人の米人スタッフ
    が草案を作り上げたものである。その中には弁護士は4人いた
    が、憲法の専門家は一人もいなかった。

     このうちの何人が昭和59年から60年にかけてインタビュ
    ーを受けたが、彼らの大半は、自分たちが短時間で十分な資料
    もないまま作り上げた日本国憲法が、その後一度も改正されて
    いないのを聞いて、驚いたという。[b]

■2.「暫定憲法」■

     日本国憲法は、あくまで「暫定憲法」として作られたものな
    のである。この事は前文を見れば、よく分かる。

         日本国民は、・・・われらとわれらの子孫のために、諸
        国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由の
        もたらす恵沢を確保し、・・・

     これを以下のアメリカ合衆国憲法の前文と比べてみよう。

         われら合衆国の人民は、・・・われらとわれらの子孫の
        うえに自由のもたらす恵沢を確保する目的をもって、アメ
        リカ合衆国のために、この憲法を制定する。

     25人の占領軍スタッフたちは、このように合衆国憲法、独
    立宣言などを切り貼りして、日本国憲法の草案を作り上げたの
    である。こうして作られた日本国憲法が発表されたとき、米国
    のクリスチャン・サイエンス・モニター紙はこう評した。

         これは日本の憲法ではない−日本に対するアメリカの憲
        法である。・・・この憲法の重要事項に日本の現実から生
        まれた思想はひとつもない。

     こうして我々は、自分たちが何を大切にして生きていくのか、
    という根本の価値観さえ、外国製のもので済ませてしまい、ひ
    たすら経済成長を追求してきたのである。

■3.「長すぎた暫定期間」で忘れ去ったもの■

     借り物の憲法に代表される現在の状態を、京都大学・中西輝
    政教授は、「暫定期間としての戦後」と呼ぶ。

         これまでの日本は、すべてが「暫定期間としての戦後」
        であった。戦後日本は焼け跡・闇市のなかで、すべてを
        「棚上げ」にしたまま、経済という唯一の目標にすべてを
        懸け、たしかに大きな繁栄を実現した。[1,p11]

     高度成長を達成した昭和50年代には世界でも有数の富める
    国になっていたのだが、そこで立ち止まって考え直すことをせ
    ずに、そのまま30年ほども「長すぎた暫定期間」を続けてし
    まった。その結果、

         現実の日本の社会に目を移しても、そこには大きな価値
        観や人生観を見失い、流動化している日本人の姿がある。
        若者ははっきりとした職業観や人生観をもてず、日々流さ
        れるように生活を送っている。社会のリーダーたるべき人
        間も、目の前の「日常」に埋没し、新しい大きなビジョン
        を何一つ打ち出せない。家族のつながりもどんどん希薄に
        なり、次の時代を担う日本人が劣化していく兆しが高まっ
        ている。日本中で大きな「精神的劣化」が始まっているの
        である。[1,p11]

     中西教授は「長すぎた暫定期間」を続けているうちに、「自
    分自身に対する自画像」が曖昧になってしまったという。たと
    えて言えば、ピアニストを志していた青年が、とりあえずの生
    活費稼ぎのために酒場でのピアノ弾きを続けているうちに、自
    分自身の初志を忘れて、「日々流されるように生活を送ってい
    る」という所であろう。

■4.失われた三つのバランス■

     この結果、現在の日本人は次の3つの面でバランスを失って
    いる、と中西教授は看破する。

     第一に「モノと心のバランス」。戦後の日本は経済成長で
    「モノ」ばかりを追求し、特に昭和50年代後半に日本経済が
    完全にバブル化していく中で、日本人の内面と国の営みの双方
    において、「心」の存在が完全に置き去りにされてしまった。

     第二に「進歩と伝統のバランス」。「進歩」は重要だが、伝
    統という価値観がそのベースになければ健全な創造性も生まれ
    ない。ところが「古いもの」はすべて「意味のないもの」「悪
    いもの」とされた。

     第三は「個人と共同体のバランス」である。個人は大切にさ
    れたが、人と人との絆である「共同体」は蔑ろにされてきた。
    特に国家という共同体については「戦前への逆行」というタブ
    ー意識によって思考を停止させたままである。そのために日本
    人の心の中で日々の安心感やモラルの基礎をも失われていった。

         これらの三つのバランスを回復させることこそ、いまの
        日本に求められる最も重要な課題であろう。

        「心」すなわち目に見えないものを大切にし、いまや「伝
        統」にこそ価値を見出し、あまりにも蔑ろにしてきた「国
        家」の重要性にあらためて目を向けることである。

         この三つのバランスの回復とは何を意味しているのだろ
        うか。「心」「伝統」「国家」という価値へのバランスの
        再移動ということは具体的にどういうことなのか。

         そのように考えを進めていくならば、思い至るはずであ
        る。この三つを貫いて継ぎ合わせているもの、いうまでも
        なくそれは「天皇」という存在である。[1,p15]

■5.「明(あか)き直き心」■

    「天皇」が「伝統」と「国家」を象徴している点については、
    説明は不要だろう。ここでは「天皇」と「心」の関係について、
    もう少し具体的に見てみよう。

     明治期に来日し半世紀にわたって日本と日本人を研究したサ
    ー・ジョージ・サンソムというイギリス人外交官は『日本文化
    史』という本の中で、「日本人ほど、道徳を、心のありようと
    しての美醜で判断する民族はいない」ということを書いている。

     これは現代の日本語を見ても、すぐに分かることだ。「美し
    い心根」「まっすぐな人」「明るい性格」「腹黒い」「性根の
    曲がった、腐った」などと、心の有り様を美醜で形容する言葉
    が多い。日本人は古来から「明(あか)き直き心」と呼んで、
    ことのほか「心の清潔さ」を大切にしてきた民族である。

         そしてこうした「日本のこころ」のあり方を目で見える
        かたちでもっともはっきりと示すもの、それが「天皇」な
        のである。[1,p19]

■6.被災者を激励される両陛下■

     この点は、もう少し説明が必要だろう。たとえば、あるブロ
    グに次のような文章があった。

         最近、暗いニュースが続いている中、感動的な場面がテ
        レビから流されていた。

         天皇・皇后両陛下の新潟県中越地震の被災地のお見舞い
        の報道である。新潟中越地震の発生から丸2週間、天皇・
        皇后両陛下が被災地を訪れて、山古志村を上空から視察さ
        れたあと小千谷市や川口町の避難所や山古志村の村民が避
        難している長岡大手高校で励ましの声をかけられていた。

         テレビ画面には、被災者の前にひざまずき、1人1人の
        被災者に「健康の方は大丈夫ですか」「おうちは大丈夫で
        したか」、また「大変ですね」「体に気をつけて」などと
        天皇・皇后両陛下の励ましの言葉とともに、それに受け応
        えしている被災者の声までが、テレビから聞かれた。そし
        て、被災者たちが一様に、頑張らねばという意欲がわいて
        きた、といった感想を語っていた、ことも強く印象に残っ
        た。[2]

     被災者を励まされる両陛下、それを受けて頑張らねばと思う
    被災者たち、そしてその光景に感動する筆者、さらにその文章
    に何事かを感じる我々の心。これらすべてが古来からの日本人
    が大切にしてきた「日本の心」なのである。

■7.「思いやり」が天皇による国家統治の根幹■

     前節のブログの文章に何事かを感じ取れる「日本の心」の持
    ち主であれば、その体験から中西教授の次の言葉も理解できる
    だろう。

        「宣命(弊誌注:天皇の命令を国語で書いた文書)」には
        「風化」という言葉がよく出てきます。この「風化」とは
        「われわれの自然な感情によって、まろやかな心をつくり、
        進んで秩序を受け入れる、そして国法を守る心根をつくる」、
        そのような意味合いをもつ言葉です。そこにあるのは宗教
        的なメッセージというより、周囲の人々を思いやる心根、
        そして民草の心根を「和らげ、調える」といったもので、
        これが天皇による統治の根幹なのです。それゆえにこそ、
        やわらかな心で国を営む道を説くという点で、「統治権の
        総覧者」であると、千年以上にわたって認められてきたの
        です。[1,p129]

     両陛下が被災地を訪問されて、「大丈夫ですか」「体に気を
    つけて」と思いやりの言葉をかけられる。その思いやりを受け
    て、被災者も「いつまでも心配をおかけしては申し訳ない。頑
    張らねば」という気持ちを起こす。その光景を見て、国民全体
    も被災者への思いやりを新たにする。

    「国家」という共同体の基盤をなすのは、このような人々の
    「思いやり」なのだろう。天皇が「思いやり」の心を国民に示
    すことで、共同体の基盤を固める−それが我が国の国柄なので
    ある。

     日本国憲法第一条に、「天皇は国民統合の象徴」とある。天
    皇が示される思いやりの心が、国民の心根を「和らげ、調える」。
    それが我が国の国民統合のありかたであるとすれば、この第一
    条はとてつもなく思い意味を秘めていることになる。

■8.今上陛下の危機感■

    「思いやり」とは、相手の幸福を願う心から出てくるが、その
    根源的な形が、相手にも知られることなく、その幸福を神に祈
    ることではないか。そして国家の繁栄と国民の安寧を神に祈る
    祭祀が、天皇の日常のご公務の中心をなしていることは、あま
    り知られていない。

     皇居では宮中三殿への日々のお参りをされ、また国民体育大
    会や全国植樹祭など、どこに出かけられても、毎朝、伊勢の皇
    大神宮に向かっての遙拝をかならずなされる。さらに1月1日
    早朝の四方拝から始まって、12月31日の大祓(おおはらい)ま
    で年間20以上もの祭儀がある。今上陛下ほど、これらの祭儀
    を厳格にお努めになられている天皇は、記録が残っている限り
    では、ほとんど例を見ないそうだ。

     そのうえに、平成5年からは各県の護国神社を自ら親しく参
    拝され、最近では出雲大社、橿原神宮、石清水八幡宮にも御親
    拝されている。石清水八幡宮への御親拝は「文久3(1863)年の
    孝明天皇以来」だとのことである。

         このような今上陛下の御姿から私なりに思うのは、「陛
        下はわれわれよりもっと大きな危機感を、この国の行方に
        対しておもちになられているのではないか」ということで
        す。それが何百年、何十年ぶりの御親拝に表れているので
        は、と思います。・・・ 幕末期、孝明天皇も非常に厳格
        に宮中祭祀をお務めだったといわれますから、内外の日本
        を取り巻く諸情勢によって、同じような時代が来ているの
        かもしれません。

     国民の安寧への祈りが深ければこそ、国全体への危機感も研
    ぎ澄まされる。山古志村の住民への両陛下の思いやりに満ちた
    お見舞いの陰には、こうした祈りの心と危機感があるのである。

■9.「国運の発展する本は、すぐ手近な所にある」■

     今上陛下は我が国のどのような点に危機感を持たれているの
    だろうか。そのヒントになるのが、明治天皇が明治41(1908)
    年、戊申の年に発布された「戊申詔書」である。

     当時の日本は日露戦争が終わったばかりで、初めて手に入れ
    た「一等国」の地位に国民は慢心し、弛緩した気分の中で、華
    美に流され、富を求めて社会の事など顧みない風潮が広がって
    いた。大正期のバブルはすでにこの頃から芽生えていた。それ
    に対する戒めの言葉として発せられたのが、この詔書である。

         宜く上下心を一にし忠実業に服し勤倹産を治め、惟れ信
        惟れ義、醇厚俗を成し、華を去り実に就き、荒怠相誡め、
        自彊息(や)まざるべし・・・寔(まこと)に克く恪守し、
        淬砺(さいれい)の誠を輸(いた)さば国運発展の本近く
        斯(ここ)に在り

        (上の者も下の者も心を一つにして、真面目にその業務に
        従事し、勤勉倹約して家計を運営し、ひたすら信義を守っ
        て人情に厚い風俗をつくり、華美を去って質実を重んじ、
        荒んだ生活や怠けた暮らしに陥ることのないよう戒めあっ
        て、自らつとめ励むべきである。・・・これらをよく守っ
        て、真心を尽くして勉め励んだならば、国運の発展する本
        は、すぐ手近な所にある。)

     「国運の発展する本は、すぐ手近な所にある」という言葉に、
    救われる思いがする。不況や災害、近隣諸国との摩擦など、危
    機は外から次々と降りかかってきても、我々国民がここで述べ
    られたような「日本の心」を取り戻して、互いに心を一つにし
    て取り組めば、克服できないものはないであろう。今上陛下の
    真剣な祭事への御取り組みも、我々国民にこの事を思い出させ
    ようとされているのではないだろうか。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(105) 憲法の国際ベンチマーキング
    日本国憲法、無改正期間の世界記録更新中。
b. JOG(141) 仮設憲法、急造成功
    今週末までに、新憲法の概案を作れ、、、マッカーサーは、
   なぜそんなに急がせたのか?
c. JOG(120) 「心を寄せる」ということ
    国民が「心を寄せ」合い、相互に「助け合う」姿が、今後の
   我が国のありかた
d. JOG(112) 共感と連帯の象徴
    沖縄の地に心を寄せつづけた陛下

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 中西輝政、福田和也『皇室の本義』★★★、PHP研究所、H17
2. 八木賢治、ブログ『まつやま なんぞなもし』

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■総集編(電子ブック版)について

                                               理恵さんより
     育児の合間にバックナンバーを呼んでいます。
     
     海外での生活が長くなるにつれ、日本人としてのアイデンティ
    ティについて考えていた矢先に出会ったのが、このサイトです。
    反日の韓国や中国について調べていて、他のサイトでリンクが
    貼ってあったのが出会ったきっかけです。

     日本にいた時、日本について殆ど知らなかったと、海外に来
    て思うようになり、このサイトに出会って、一つ一つのコラム
    が身にしみます。また、日本人であることを誇りに思います。

     そもそもこのような自国に対する誇りを、日本人は海外に出
    て始めて考えるのではなく、日本国内での教育で育てて行くこ
    とが国の繁栄に繋がるのでしょうね。ちょうど、私の子供が1
    才で、アメリカでこれからの日本人としての文化や生活を伝え
    ていこうと思っていた時でしたから、しっかり私なりのメッセ
    ージを伝えていこうと思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     誰でも海外に出れば、自ずから日本人としてのアイデンティ
    ティを考えるようになりますが、ご指摘のように、日本国内の
    教育で考えるようにすべきですね。

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