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■■ Japan On the Globe(404)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

               Common Sense: 亡国のイージス

                 戦後の日本のありように疑問を呈した青年の
                死をきっかけに、壮絶な戦いが始まった。
■■■■ H17.07.24 ■■ 33,233 Copies ■■ 1,699,062 Views■

■1.ベストセラー『亡国のイージス』■

     福井晴敏のベストセラー小説「亡国のイージス」が映画化さ
    れ、7月30日より公開される。映画の公式ウェッブサイトに
    は、以下のような説明がある。

        「イージス」とはギリシャ神話に登場する最高神ゼウスが
        娘アテナに与えた、あらゆる邪悪を払う「無敵の盾」のこ
        と。同時に、最新鋭の防空システムを搭載し、専守防衛の
        象徴ともいえる海上自衛隊の護衛艦をも指し示す。だが、
        語るべき未来も見えず、守るべき国家の顔さえも失った
        「亡国の盾」に果たして意味などあるのか。

         この国に生きる者すべてに関わりながら、その誰もが真
        剣に考えることを避けてきたテーマを、第一級のエンター
        テイメントへ昇華させた福井晴敏の原作は、それゆえ日本
        推理作家協会賞・日本冒険小説協会大賞・大藪春彦賞の3
        賞を制覇、58万部を超えるベストセラーとなった。[1]

     今回はこの原作のさわりをご紹介しよう。

■2.「息子さんは殺されたんです」■

     息子・隆史の葬儀を終え、宮津がイージス艦の艦長職を辞退
    する旨の手紙をしたため、封をした時に、その男は訪ねてきた。
    夜の闇から染み出してきたような黒のコート姿だった。

     宮津は疲れ切っていたし、午前一時という非常識な時間なの
    で断ろうと思った。息子は時速150キロの高速で飛ばし、ス
    ピンして車道を塞いでしまった所に、直進してきたトラックが
    追突し、即死だったという。ブレーキを踏んだ形跡もないので、
    自殺らしいと言われたが、宮津には信じられなかった。防衛大
    学校で優秀な成績を修め、あと半年で卒業する息子がどうして
    自殺なんかする必要があるのか。

    「今日はもう遅い。明日にしてください」と玄関の戸を閉めか
    けた時、男の手がそれを止め、暗い、冷たい目がまっすぐに宮
    津を見た。「息子さんは殺されたんです」

■3.『亡国の楯』■

     男はコートの懐から、A4の書類を取り出して言った。「息
    子さんがお書きになった、『亡国の楯』という論文です」

     そこには、こんな一文があった。

         日米安保はあくまで国際貢献の一環であることを明示し
        て、片務ではない、両国の相互利益に基づいて運営してい
        ることを互いに自覚しあうこと。それには、何よりもまず
        日本が自らの所信を表明し、ひとつの国家として一貫した
        主張とカラーを打ち出していかねばならない。

         今までそれを怠ってきた結果が、未だに大日本帝国の復
        活を恐れるアジアの愚にもつかない誤解と誹謗を招き、誰
        からも、自分からも信用されないし、尊敬もされない体質
        を作り続けてきたのではないだろうか。

         誰も責任をとらない平和論や、理想論に基づいた合理的
        経済理論では現在の閉塞を打ち破ることはできない。・・
        現状ではイージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国
        家を失ってしまっている。亡国の盾だ。

     自分が家庭を顧みる事もなく海上自衛隊の任務に打ち込んで
    いる間に、隆史はこんな事を考える青年に育ってくれていたの
    か、と宮津は思った。宮津が休暇を終えて艦に帰ろうとすると、
    必ずすねて部屋にこもり、見送りに来なかったあいつが。その
    喜び、誇らしさが、もう二度と息子の声を聞けない現実を突き
    つけて、論文の上に涙がしたたり落ちた。

■4.北朝鮮工作員■

     男は、北朝鮮の工作員ホ・ヨンファだと自分の正体を明かし
    た。彼は宮津に語った。

         自分は、今さら祖国に忠義立てするつもりはない。長年
        いろいろな国を見ていれば、教えられてきた主義がデタラ
        メなものだったということもわかる。だからアメリカがな
        にをしようとかまわない。日本がその言いなりになってい
        ようが、ピョンヤンの亡者どもが祖国を売り払おうが、知っ
        たことではない。

         だが、彼らがそうやってシナリオを進めて、重油やコメ
        を出し惜しみしている間に、何千もの国民が凍死し、餓死
        する。それを許すことはできない。・・・

         祖国の消滅、結構なことだ。あんなみじめったらしい、
        見栄っぱりの国はさっさとなくなってしまえばいい。でも
        そこに星条旗が立つのだけはご免だ。あそこは我々の土地
        だ。日本のように妾に身を落とすつもりはない。新しい国
        を創るのは我々人民の役目だ。

     ヨンファはホームページで隆史の『亡国の楯』を読み、接近
    した。世界の一員として、恥じることなく生きていける日本人。
    そう志した隆史に応えてくれたのは、異国のテロリストだけだっ
    た。隆史も、祖国の真の解放を願うヨンファに理解を示した。
    そしてヨンファのただ一人の友人となった。

■5.化学兵器グソー■

     ヨンファは在日米軍最大の火薬庫、辺野古(へのこ)弾薬基
    地で起こった未曾有の爆発事故の秘密を隆史にもらした。そこ
    では米軍がわずかな量で東京都も全滅させることのできる強力
    な化学兵器グソーが開発されていた。沖縄の民話に出てくる死
    者の国「後生(ぐそう)」から命名されたものだという。

     このグソーが漏れて、秘密が発覚しそうになったため、米軍
    は基地全体を強力な爆薬で吹き飛ばしてしまった。しかし、そ
    の試料の一部がまだ沖縄に残っており、それを本国に持ち帰ろ
    うとした所を、ヨンファのグループが奪い取ったのである。

     これを使って、アメリカの傲慢を暴き、追従する各国政府の
    醜さを白日の下にさらして、祖国に残る同志と国民全員の決起
    を促す。それがヨンファの計画だった。

■6.隆史の死■

     防衛庁情報局は、隆史とヨンファの接触に気づき、ヨンファ
    捕捉の好機と考えた。二人の会談場所に、百人体制で待ちかま
    え、現れたヨンファに殺到した。ヨンファは撃ち返しながら逃
    亡したが、足を撃たれて動けなくなると、自分の頭を打ち抜い
    て自決した。

     ショックで満足に口も利けない隆史が、要求されて遺体の確
    認をすると、それは別の人物だった。ヨンファは罠に気づいて、
    部下を身代わりに差し向けたのだった。以後、隆史と連絡をと
    ることもなかった。

     防衛庁情報局は隆史に、こんな事件の後では、自衛隊に入っ
    ても良い将来はないので、卒業したら任官を拒否して民間企業
    にでも入るよう勧めた。しかし、潔癖な若者の最後の意地を見
    せたのか、隆史はあと半年で卒業という時に、防衛大学校を中
    退してしまった。

     ロシアや中国など各国の情報機関が、事件を嗅ぎつけて動き
    出していた。隆史がやけになって、彼らの誘いにのったら、化
    学兵器グソーの機密が漏れてしまうかもしれない。あるいは、
    拉致されて、本人の意思にかかわらず喋らされてしまう恐れも
    ある。

     防衛庁情報局はこれを重大な危機と認識した。家に戻った隆
    史は数日ぶりに車で外出した。行く先は告げなかったが、夕飯
    までには帰ると言っていた。その3時間後に、トラックに追突
    されて、隆史は死んだ。

■7.「隆史、仇をとってやるぞ」■

     ヨンファが宮津を訪ねてきたのは、この後だった。「息子さ
    んは殺されたんです」と、切り出して、これらのすべてを語っ
    た。

     ヨンファは最初は隆史を利用するだけのつもりだったが、隆
    史のまっすぐな性分に、ヨンファも同志として捉えるようになっ
    ていった。憂える祖国こそ違え、二人の思いは同じだったのだ
    ろう。生まれた国に、責任ある自由と誇りを取り戻したい、と。

     その結果、隆史は殺された。再生を夢見た国家の手にかかっ
    て。隆史はこうも書いていた。

         その職人気質に裏付けられた技術力と、長年培ってきた
        奉公という美徳の発露によって、日本は戦後、驚くべき速
        度で復興を成し遂げた。が、奉公という美徳の裏側には、
        組織の中に埋没する人間性、その結果として生ずる無思考、
        無責任、無節操という影があることを、我々は無視しすぎ
        てきたのではないか。・・・

         重要なのは、国民一人一人が自分で考え、行動し、その
        結果については責任を持つこと。・・・

         保身にばかり長けた政治家でなく、一人の人間として自
        らを誇れる人物にこの国の舵を取ってもらいたいと願うの
        は、過分な望みなのだろうか。

     宮津は思った。

         そう、夢なんだよ、隆史。誇り高い優れた政治家、自立
        心と責任感に溢れた国民。そんなものは存在しないんだ。
        存在するのは利害となれ合いだけで、おまえは正義感が強
        すぎたばかりに、彼らには不利益と判断されてしまったん
        だ。

         あるいは父さんも、その中のひとりだったのかもしれな
        い。すまなかったな、隆史。さぞ苦しかったろう。恐ろし
        かったろう。でももう辛い思いはしなくてもいいんだ。

         こんど恐怖を味わうのは、おまえを苦しめた連中だ。こ
        の世に残すべきたったひとつのものを奪われて、父さんは
        もう何もなくなった。だからやる。命に替えても必ずやっ
        てみせる。

         隆史、仇をとってやるぞ。

■8.ある計画■

     こう決心した宮津に、ヨンファはある計画を持ちかけた。

     宮津が艦長を務めるイージス艦「いそかぜ」に、ヨンファが
    グソーを携えて、部下とともに乗り込み、艦を占拠する。そし
    て東京湾に入り、グソーを装填したミサイルを都心に撃ち込む
    と恫喝して、日本政府にすべての真実を公表させる。

     そうなれば日本政府は転覆し、アメリカは収拾のつかないス
    キャンダルにまみれる。その隙に北朝鮮内部の同志たちに決起
    を促す。ヨンファの宿願と、宮津の復讐が同時に叶うという計
    画である。

     宮津は、一度はやる気になり、「いそかぜ」の図面をヨンファ
    に渡したが、結局、踏み切れなかった。自分の子供の復讐のた
    めに、他の両親から「いそかぜ」に預かっている若者を殺すこ
    とができるのか。それは隆史も望むまいと気づいたからである。

     ヨンファは潔くあきらめ、隆史への友情の証として、今後、
    宮津を巻き込むことはしない、と約束した。

■9.グソー奪回作戦■

    「いそかぜ」が訓練航海に出発する直前、今度は防衛庁情報局
    の一員が、宮津の家を訪ねてきた。ヨンファが「いそかぜ」に
    工作員を送り込んでいる可能性があるという。ヨンファは「い
    そかぜ」の占拠をあきらめていないようだった。

     宮津の家は隆史が生きていた頃から盗聴器が仕掛けてあり、
    宮津とヨンファの会話はすべて筒抜けになっていた。もし、宮
    津がヨンファの計画を実行しようとすれば、その場で二人とも
    拘束する作戦も練られていた。

     もし、ヨンファが「いそかぜ」を占拠して、グソーを持ち込
    み、東京を脅迫する計画を進めているのであれば、これはヨン
    ファ一味を逮捕し、グソーを奪回する絶好の機会である。

     宮津は協力を命じられた。拒めば、「いそかぜ」の図面をヨ
    ンファに渡したことで、防衛秘密漏洩の罪で刑務所にぶち込む、
    とまで言われた。そして宮津は「いそかぜ」に23名の海上訓
    練指導隊を装った防衛庁情報局のメンバーの乗り組みを許し、
    訓練航海に出航した。

■10.グソー奪回作戦■

     ヨンファの部下の女工作員は、グソーを入れた容器を持った
    まま、成田からシドニー行きの飛行機に乗り込んだ。そして沖
    ノ鳥島沖で機体を爆破した。

     訓練航海で付近を航行中であった「いそかぜ」は墜落した飛
    行機の救助に急行した。そして奇跡的に生き残っていた女性の
    生存者一名を発見して、救助した。ヨンファの一味の女工作員
    だった。飛行機を爆破させてから、パラシュートで脱出したの
    である。もちろんグソーは身につけていた。

     こうして最新鋭のイージス艦に、グソーが持ち込まれ、ヨン
    ファの立てた計画のお膳立ては整った。ヨンファはどうでるの
    か。宮津艦長は本当に復讐をあきらめたのか。イージス艦の乗
    組員たちは、どうヨンファと戦うのか。

     戦後の日本の国のあり方に疑問を投げかけた結果、生命を奪
    われた一人の青年の死がきっかけとなって、壮絶な戦いが幕を
    開ける。 続きは、ぜひスクリーンでご覧頂きたい。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(084) 気がつけば不沈空母
    国民の知らないうちに、国内の米軍基地は、米国国際戦略の
   拠点となっている。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 『亡国のイージス』Official WebSite
2. 福井晴敏『亡国のイージス 上』★★★、講談社文庫、H14

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