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■■ Japan On the Globe(412)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

        The Globe Now: 長銀売却 〜 平成の不平等条約

                   「日本を最も根元的なところから改革させる
                     ことに貢献しているのだ」
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■1.「生まれ変わった新生銀行」■

     アメリカの新興投資ファンド・リップルウッドが平成11
    (1999)年に、国有化されていた日本長期信用銀行(長銀)の買
    収に名乗りを上げた時、大蔵省にも長銀本店にも、その名を知
    る人は一人もいなかった。

         なんだ。この奇妙な名前は? 地名か人名か、はっきり
        しないが、とにかく情報を集めろ。

     そんな指示が大蔵省内や長銀行内を飛び交ったが、結局よく
    分からないまま、「どうせ泡沫候補だ。ほっとけ」となった。

     この無名の新興投資ファンドが、わずか10億円で長銀を買
    収し、新生銀行としてまさに「新生」させて、1200億円の
    増資をした後、4年後に再上場を果たした。リップルウッドの
    社長ティモシー・コリンズは語る。

         生まれ変わった新生銀行は私にとって誇りである。健全
        なバランスシート、法人・個人向けのきめ細かなサービス、
        創造性と血の通った銀行は、他にはない。ロビーにはスタ
        ーバックス・コーヒーが入り、女性社員にとっても昇進の
        チャンスが増えた。日本を最も根元的なところから改革さ
        せることに貢献しているのだ。[1,p36]

     しかし、コリンズはこの「新生」の陰に、日本政府から8兆
    円もの公的資金が投入された事には口をつぐむ。

■2.「この買収には損が発生しない仕組みが埋め込んである」■

     長銀買収に際して、コリンズは世界の投資家にこう言って、
    資金を集めた。

         長銀買収は必ず儲かります。投資していただければ、3
        年ないし4年で確実に5倍に増やしてみせます。絶対に損
        はさせません。この買収には損が発生しない仕組みが埋め
        込んであるからです。[1,p137]

     こうして集めたのが1200億円。コリンズの約束通り、4
    年後の上場時にはそれが時価7600億円、実に6倍以上に大
    化けしたのである。コリンズは、一躍ウォール街のヒーローと
    なり、長銀買収は1999年のビンテージ・ディール(その年に最
    も成功した契約)と絶賛された。

     その「絶対に損が発生しない仕組み」とは何だったか。

■3.「気持ちとしてはタダでもいい」■

    「絶対に損をしない仕組み」の第一は、3兆6千億円もの公的
    資金を投入して身ぎれいになった長銀を10億円という破格の
    値段で買い取った事である。

     平成12(2000)年2月15日、衆議院予算委員会で自民党の
    安倍基雄議員がこの点を追求すると、越智通雄・金融再生委員
    会委員長はこう説明した。

    越智: 決められました手続によりまして旧日長銀の評価をい
          たしました。・・・その評価委員会で長銀の旧株はゼロ
          となったわけであります。したがいまして、十億はいわ
          ばのれん代みたいな格好で出されたわけでありまして、
          十億と二十四億株というのは、一株幾らという計算で積
          み上がった数字ではございません。

     越智・委員長は、別の場で「破綻した長銀を買っていただけ
    るのだから、気持ちとしてはタダでもいい。それを10億円も
    出してくれるという。まあ、のれん代というわけでもありませ
    んが、そんなものです。外国の銀行から新しい経営ノウハウや
    人材を供給してもらえる、願ってもないチャンスです」と発言
    している。[1,p153]

     長銀は約23兆円の資産を持っていたが、それ以上に約3兆
    6千億の債務超過(財産より多い借金)があったので株価がゼ
    ロとなっていた。タダ同然のものなのだから、10億円で売れ
    たら「御の字」ではないか、という訳である。

■4.「おかしいですよ、はっきり言って」■

     この答弁に安倍議員はこう噛みついた。

    安倍: いいですか。株価をゼロとしたのは、それだけの債務
          超過があったからゼロになっているんですよ。債務超過
          を解消したときに果たしてゼロなんですか、それが問題
          ですよ。もともと債務超過が何兆円もあるからゼロになっ
          たんでしょう。そいつを全部解消した途端に、それがま
          たゼロがそのまま続くんですか。おかしいですよ、はっ
          きり言って。・・・こういったのを国民の前に明らかに
          した上で契約をすべきです。

     リップルウッドへの売却契約締結を踏まえて、長銀の債務超
    過分の穴埋めのために金銭贈与3兆2204億円、損失補填3
    549億円、合計約3兆6千億円という公的資金が投入された。

     公的資金投入で債務超過状態が解消すれば、あとは約23兆
    円の資産を活用した銀行業務で収益が期待できる分だけ、株価
    はプラスに転ずるはずである。それを考慮せずに、そのままゼ
    ロとして、単なるのれん代10億円だけで売ってしまうのはお
    かしい、という当然の指摘である。

     さらに3兆円以上もの資産買い取りが日本政府によってなさ
    れた。コリンズの誇る「健全化されたバランスシート(貸借対
    照表)」とは、日本国民の税金によってなされたものなのであ
    る。

■5.「買い手に足元を見られている」■

    「絶対に損をしない仕組み」の第2は、長銀の事業を引き継ぐ
    新生銀行の資本構成にあった。安倍議員はこの点についても問
    題を提起している。

    安倍: もう一つ言いましょう。今度は、二千五百億の準備金、
          これは向こうが要望したからと言っている。向こうが出
          すお金は、二十四億株を十億円で買うんですよ。それに
          千二百億円出すんです。我が方は二千四百億円、別に出
          すんです。その結果、どういう株主構成になるかという
          と、いろいろ細工はあるようですけれども、向こうが三
          分の二を持って、こっちが三分の一を持つんです。・・

           株式の構成は、こちらがたくさん出せばたくさん株を
          持つのが当たり前じゃないですか。それを、優先株がど
          うの、それで最終的には三分の二になります、民間の要
          するに発言権を持たせるために三分の二渡しますと。そ
          れならそれで、もっとたくさん金を持ってくればいいで
          すよ。・・・それで何でこちらが三分の一なんですか。
          これはあくまで、買い手に足元を見られているわけです。

     新しい銀行にリップルウッド側は1/3の1200億円を出
    資し、残りを日本政府が出した。通常なら、1/3の出資をす
    れば1/3の株式を持ち、利益があがった場合は1/3を貰う、
    というのが当然の原則だ。それがなぜ、リップルウッドは1/
    3の出資で2/3の株式を保有できるのか。

■6.「先方との話し合いの結果、、、」■

     以上の二つの「仕掛け」に関する質問に対して、越智・委員
    長は次のようにしか、答えていない。

    越智: なお、最後に残りました買い取り希望のアメリカ側の
          リップルの方と、日本側に実は二つの銀行の連合体があっ
          たのでございますが、その申し出の金額は非常にかけ離
          れておりまして、したがいまして、この長銀を引き取っ
          てもらうのに、先方との話し合いの結果、今のような数
          字が決定になったわけであります。

     リップルウッドの方が良い申し出だから、こちらに売ったと
    いうだけで、政府がどのような「話し合い」をして、こんな異
    様に破格の条件で妥協したのか、まったく説明しない。

     リップルウッド以外に、日本側からは「二つの銀行の連合体」
    しか手を挙げなかった、という点に関して、安倍議員はこう反
    論する。

    安倍: これは本当に、当時は日本からいろいろな候補者がい
          なかったと言うけれども、ほかの大銀行はみんな資金注
          入でもっていっぱいで、合併問題でもってそういう暇が
          なかったのです。出てきたのは二つしかないのです。そ
          の中でどっちが要するに条件がいいかというそんな程度
          の話で、いかにも、ずっと同じ一つのレールの上で決まっ
          ちゃいましたという話じゃないのですよ。

■7.「損失はすべて日本政府がギャランティーしてくれる」■

     リップルウッドの買収には、さらに強力な第三の「損が発生
    しない仕組み」が埋め込んであった。コリンズは海外の出資者
    に対して「将来発生する損失はすべて日本政府がギャランティ
    ーしてくれる。だから絶対儲かる」と言って、資金集めをした。

     長銀の貸し出し債権の価値が3年以内に2割以上下がった場
    合、国に債権の買い戻しを請求する権利を認めた「瑕疵(かし)
    担保条項」が盛り込まれていたからだ。

     平成16(2004)年1月27日、新生銀行の上場を目前にした
    時期に、民主党の中津川博郷議員が質問に立った。

    中津川: 分かりやすく言えば、中小企業から融資を強引に引
            き上げて、その損失分をすべて国のお金を使ってカバ
            ーしたということです。吸血鬼のような銀行ですよ。
            あまりにひどいというので、平成13年10月には、
            国が新生銀行に対して業務改善命令を出したほどです。

             こんな銀行が今回の上場では最大1兆5千億円くら
            いの上場益を得ることになるという。8兆円の公的資
            金を注ぎ込んだ結果でしょう。これでは国益は台無し
            です。金融庁の責任はどうなっているのですか。

     帝国データバンクの調査では、旧長銀が融資していた関連企
    業のうち、新生銀行になってから、あこぎな取り立てで152
    社が倒産を余儀なくされたという。大手デパートの「そごう」
    をはじめ、第一ホテル、マイカル、ライフなど321社の不良
    資産を次々と国の預金保険機構に買い取らせた。[1,p126]

     321件の債権額は1兆1702億円。預金保険機構の支払
    額は8530億円。新生銀行が貸し出しを取りやめて、相手先
    を倒産に追い込んでも、その損害のほとんどは国が補償してく
    れる。瑕疵担保条項が積極的に「活用」されたのだった。

■8.上場益にも課税できない■

     2月19日、新生銀行は何事もなかったように、上場を果た
    した。初日の終値は827円。リップルウッドは2200億円
    の上場益を確保した。

     そして、ここにも4つ目の「損を発生させない仕組み」が仕
    掛けてあった。リップルウッドが長銀買収のために作った投資
    組合「ニューLTCBパートナーズ」は登記地がオランダとさ
    れており、日本では上場益に関して一切、課税されないのだ。

     こういう問題に関して、平成11年の買収時に、民主党の生
    方幸夫議員が「新生長銀が上場した際に、その上場益に対して、
    日本が課税できるのか」と問われて、越智大臣は「当然でしょ
    う。できないわけがない」と答えていた。

     また民主党の上田清司議員は、長銀の売却時に越智大臣に次
    のような質問を投げかけている。

    上田: 新生長銀は損失を出すとは限りません。損失が出れば、
          さまざまな形で国民の税金が投入されるわけですから、
          最終的には大化けして、大変な利益を生み出す可能性も
          あります。

           損したときにどう面倒を見るかという議論が多いので
          すが、逆に、大儲けした時に、どういう形で日本国民へ
          お返しをしていただけるのか。そういう特約事項も設け
          ておくべきではないでしょうか。自民党の安倍(晋三)
          先生がおっしゃるように、上場益の30%は日本政府に
          返却していただく。そんな特約事項も入れておくべきで
          はありませんか。

     この質問に関して、越智大臣は「昨年9月から交渉を積み上
    げてきたわけですから、新たに特約事項を入れろというご提案
    は到底受け入れることはできません」と突っぱねた。

■9.「日本を最も根元的なところから改革させる」■

     これまでの国会での審議をたどれば、リップルウッドの仕掛
    けた「仕組み」は、すべて日本側に見破られていた事が分かる。
    それなのになぜ越智・金融再生委員会委員長をはじめとする日
    本政府は、これらの声を無視して、異様に破格の条件で長銀を
    リップルウッドに売ったのか。
    
     これに関してはアメリカ政府の圧力があったと噂されている。
    小渕恵三首相が平成10年5月に訪米した際に、コリンズは首
    相と同じテーブルに座っていて、クリントン大統領やヒラリー
    夫人との親密さを印象づけながら、「長銀の再生にはアメリカ
    の経験が欠かせない」と吹き込んだ。無名の投資ファンドの社
    長を日本の首相と同じテーブルに座らせるなどという見え透い
    た芸当に、小渕首相もアメリカ政府の魂胆を感じとっただろう。

     9月に訪米した柳沢・金融再生委員長がサマーズ財務長官と
    会談した時にも、長銀問題が大きな話題になった。11月末に
    は国会開会中にもかかわらず、後任の越智・委員長が突然、訪
    米し、サマーズ財務長官と会っている。当然、「長銀の譲渡先
    はリップルウッドにしろ」との圧力がかかったと噂された。さ
    らにリップルウッドが長銀の受け皿として作ったニューLTC
    Bパートナーズの上席顧問にはボルカー元連邦準備制度理事会
    議長(日本で言えば日銀総裁)が就任している。

     リップルウッドは日本の金融開国を迫るためにアメリカの送
    り込んだ「黒船」だったようだ。江戸幕府は黒船の砲艦外交に
    屈して、アメリカとの貿易を始めたが、その時に結んだのが関
    税すら自主的に決められない不平等条約だった。リップルウッ
    ドとの契約も、それに相当する「平成の不平等条約」と言える。

     コリンズの「日本を最も根元的なところから改革させること
    に貢献しているのだ」というセリフは、ある意味で真実をつい
    ている。国際社会には、8兆円もの国富をついばんでしまうハ
    ゲタカがうようよしている事を我々に教えてくれたという点で。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(149) 黒船と白旗
    ペリーの黒船から手渡された白旗は、弱肉強食の近代世界シ
   ステムへの屈服を要求していた。
b. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
    日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
   た。 
   
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
   (まぐまぐ版では、httpのあとに「:」を補ってください)

1. 浜田和幸『ハゲタカが嗤った日』★★、集英社、H16
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「長銀売却 〜 平成の不平等条約」に寄せられたおたより

                                           「吹放」さんより
     私は、郵政民営化の根幹は、田舎や都会の小さな郵便局の効
    率化などではなく、郵便事業の効率化でもなく、郵貯や簡保資
    金の運用の担い手を誰にするか、ということだと思います。
    「官から民に」といいますが、何兆円もの税の注入を受けた日
    本の「民間」金融業界は、担い手として明らかに失格者でしょ
    う。

     では、なぜ郵政民営化なのか。「年次改革要望書」(日米規
    制改革および競争政策イニシアティブに基く日本国政府への米
    国政府要望書)を見れば明らかです。昨年10月の要望書では、
    郵政を中心とする民営化について、サマリーで約500語、ア
    ネックスでは約950語を費やして、細かい条件をつけて要求
    をつきつけてきています。アメリカの国益のためであることは
    明白ですが、陰謀でも何でもなく、在日大使館のHPでは、日本
    語訳もつけて公開しています。

    「郵貯銀行」が何者かに操られたり、長銀の二の舞になって、
    日本の国益が侵される可能性はきわめて高いと思います。

                                           「佳里」さんより
     外資のハゲタカ云々はともかく、長銀の件に関しては担当者
    の金融リテラシーの欠如と日本的感覚の引きずりすぎが仇となっ
    たと思うのですがいかがでしょう。現状ではせっかく大いなる
    潜在能力があったとしても、適切に評価する知識と経験がない
    ばかりにめざとい外資に買いたたかれている印象を受けます。
    中央としては皆が知ってしまうと今までのやり方が通らなくな
    り、立つ瀬がなくなるのかもしれませんが、これからの日本に
    は「教育と情報」が絶対的に必要だと思います。

     国民が(何を正しいとするかは異論がありますが)正しい教養
    を身につけ、インテリジェンスに通じた思考ができるようにな
    れば今の「ネタ」第一主義のマスコミも変わり、適切な報道が
    なされるように思うのですが。

                                       「匿名希望」さんより
     新生銀行に酷い目にあった経験があります。昨年、マンショ
    ン購入のために、住宅ローンを借りようと思い、いろいろ調べ
    た結果、繰り上げ返済制度が優れているのが新生銀行だと言う
    ことがわかり、申し込みをしました。

     新生銀行の住宅ローンの書類は、郵送でしか受け取らないよ
    うで、必要書類を揃えて送ったつもりなのですが、足りないも
    のがあり、その連絡が来ました。しかし、オペレーションセン
    ターの女性が私に要求した書類は見当違いの書類で、それを折
    り返し電話をしても自動受付のため、コンタクトが取れません
    でした。

     その後、何の連絡も来なくなったので、一度、新生銀行の店
    舗で親切にしてくれた方の名刺を元に、電話をして、折り返し
    電話をしてもらうように頼み、やっと連絡が取れました。この
    間ほぼ2ヶ月かかっています。

     またその後、いろいろなやりとりがあり、4ヶ月後、結局書
    類審査で結局、住宅ローンを借りれないと言うことがわかりま
    した。しかし、なんとその後、追加書類を要求する文書が来た
    ので、まだ見込みはあるのかと思い、追加書類を税務署と区役
    所に取りに行き送ったところ、何の連絡もありませんでした。
    どうしたのかと思い、再度問い合わせると、この件は、すでに
    終了していると言うことでした。では、終了した件に、さらに
    書類が提出された場合、おかしと思わないのかと追求しても、
    誠実な答えは返ってきませんでした。銀行業務の知識のない人
    間をオペレーションセンターで使い、マニュアル通りで運営し、
    責任のとれない中間管理職が仕切っている銀行とは呼べない会
    社です。この間足かけ6ヶ月、多大な時間と経費を無駄に使い
    ました。

     すでに、契約までの日数がなくなり、どうなることかと思い
    ましたが、東京三菱では何の問題もなく、1週間程度で優遇金
    利まで適用になりました。コンビニ引き出し手数料も0になり、
    本当に良かったです。私の貴重な時間を無駄にした新生銀行は、
    絶対、許せません!

■ 編集長・伊勢雅臣より

     苛烈な国際社会で国益を守るのは、自らインテリジェンス能
    力を身につけるしかありませんね。それがあれば、外資を導入
    しても、国益に合致させる事も可能でしょう。

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