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■■ Japan On the Globe(419)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

            国柄探訪: 未来を開く「島国根性」

                          日本人の島国根性が、世界一豊かで
                         平和な社会を築き上げた。
■■■■ H17.11.06 ■■ 34,019 Copies ■■ 1,832,606 Views■

■1.「島国根性」と「大陸的」■

    「島国根性」というと何となく良くない語感がある。広辞苑で
    は「他国との交渉が少ないため視野がせまく、閉鎖的でこせこ
    せした性質」とある。

     一方、「大陸的」というと反対に「小事にこだわらず、度量
    ・気魄の雄大なさま。また、感情・感覚などののんびりしてい
    るさま」となる。

     こういう語感から、「島国根性」の日本人は、「大陸的」な
    中国人に対して、なんとなく劣等感を持ってしまう。しかし、
    事実を見てみよう。世界には48の島国があるが、その中には
    近隣の大陸国に対して、はるかに安定した高度な生活水準を実
    現している例が少なくない。

■2.健闘する島国国家■

     たとえばスリランカとインド。一人あたり国民所得(2001年)
    を比べると、インドの460ドルに対してスリランカは880
    ドルと2倍近い。識字率(2000年)はインドの57.2%に対し
    て、スリランカは91.6%。平均寿命はインドの61〜62
    歳に対して、スリランカの男性70歳、女性76歳。インドに
    は核兵器もあれば、世界を席巻するソフト産業もあるが、スリ
    ランカの豊かさ、教育水準、長寿にははるかに及ばない。

     キプロスとトルコ。キプロスは300年以上もオスマン・ト
    ルコの支配下にあり、その後、イギリスの植民地を経て、よう
    やく1960年に独立を果たした。一人あたりの国民所得(2001年)
    は12,320ドルと先進国並みだが、対岸のトルコは2,540ドルと
    5分の1程度。識字率、平均寿命、自動車や電話の普及率と、
    どれをとってもキプロスの方が高い。

     もう一つ、極端な例として、キューバとアメリカを比べてみ
    よう。カストロ政権の共産主義でボロボロになったキューバが、
    世界一の超大国アメリカに敵うはずもないのだが、実は意外に
    健闘している。平均寿命は、男性でアメリカ73.9歳に対し
    てキューバ72.9歳、女性はアメリカの79.5歳、キューバ
    76.9歳と良い勝負だ。

     識字率はキューバ96.7%で、アメリカの方は公式統計は
    ないが80%程度という説がある。一人あたり国民所得はキュ
    ーバの1,478ドルに対して、アメリカは約23倍の34,280ドル
    (2000年)だが、ハリケーンに襲われたニュー・オリンズの貧困
    者層を見れば、下流階級だけの比較ではそれほどの違いがある
    とは思えない。

     いずれにしろ、世界の島国は対岸の大陸国と比べて、豊かな
    安定した社会を築いているケースが少なくないのである。その
    極端な例が日本・台湾と中国の対比であろう。

■3.島国根性の協調性■

     多くの島国が結構、頑張っている理由は何なのだろう。島国
    が、それこそ島国根性まるだしで、「他国との交渉が少ないた
    め視野がせまく、閉鎖的でこせこせした性質」を発揮しており、
    大陸国が「小事にこだわらず、度量・気魄の雄大なさま」を備
    えているという見方だけでは、多くの島国の健闘ぶりは説明で
    きない。

     総合商社に28年勤務し、そのうちの約15年をアフリカ、
    ヨーロッパ、アメリカ、アジア各地で過ごしてきた経験を持つ
    ノンフィクション作家の布施克彦氏は、その著書『島国根性を
    捨ててはいけない』[1]で、自身の豊富な体験から、その理由
    の一つを、島国の持つ協調精神にあると指摘する。

         海に囲まれた限定空間の住人たちは、そこに住むしかな
        いという思いが強い。そこでうまくやらなくてはいけない。
        そこで失敗したらオシマイという緊張感や切実感がある。
        ・・・

         限定空間社会の中でうまくやる。うまくやらねば村八分。
        逃げようと思っても逃げられない。なにしろ周囲は海に囲
        まれている。島国根性の根底の部分に、こういった追いつ
        められた緊張感がある。それがよきにつけ悪しきにつけ、
        農耕的島国根性に繋がっている。限定空間社会でうまくや
        るには、個人より組織の理屈を優先させる。協調性を重ん
        じる。他人への気配りを大切にする。どれもが日本人のこ
        とを指しているような言葉だ。農耕的島国根性を、限定空
        間に住む世界の島国民族が共有していると思う。[1,p116]

     スリランカの例でも、この国の人々の特徴は、スマイルの国、
    神経細やか、感じやすい、穏やかさ、率直さと形容される。さ
    らに「スリランカの女性は一般に奥ゆかしい。恥ずかしがり、
    男性は声を掛けると逃げる」と『スリランカ紀行』(中島秀憲)
    は書いている。インドではどこでも、呼びもしないのに男たち
    がゾロゾロ寄ってくるのとは大違いである。

     スリランカ内には民族対立がある。人口の74%を占める仏
    教徒シンハラ族と、18%のヒンドゥー教徒タミル族が20年
    間も内戦を続け、6万人もの犠牲者が出た。2002年に無期限停
    戦合意が成立したが、抗争はいまだに燻っている。

     抗争が長期化したのは、タミル族が狭い海峡を隔てた南イン
    ドに住む6千万人とも言われるタミル人の本家の後ろ盾を得て
    いるからである。外部からの干渉が無くなれば、また昔のよう
    に両民族が、仲良く平和に共存できる時代に戻るだろう。

■4.島国根性の勤勉さ、誠実さ■

     限定空間社会では、こうした協調精神とともに、勤勉さ、誠
    実さが尊ばれる。見知らぬ土地へ行って一山当てよう、とか、
    人を騙して一攫千金の儲けをあげて、他国に高飛びしよう、な
    どということはできない。

     狭い島の中で肩寄せ合って暮らしていくためには、自分の仕
    事に精を出して頑張っていくしかない。商売をするにも、一度
    でも人を騙したら、すぐに悪い噂が島中に流れて、商売はあがっ
    たりになってしまう。勤勉さ、誠実さが、限定空間社会で成功
    する要因なのである。

     こうして、島国では協調精神、勤勉さ、誠実さを基調とする
    社会が成立しやすい。大陸国のように、お互いに騙しあったり、
    争ったりする事が少ないので、自ずから豊かな、平和な社会と
    なりやすい。

     世界で島国が健闘しているのも、こうした島国根性がよく発
    揮されているからだろう。

■5.大陸国の遠心力■

     空間限定の島国では、協調精神という求心力が働くが、移動
    の自由な大陸国では遠心力が働く。中国では貧しい内陸部から
    豊かな沿岸部へと大量の人口が移動している。経済停滞気味の
    旧満洲地域から、高成長の広東省あたりまで、職をもとめて大
    陸を縦断する人々も多い。また、東南アジアから遠くサンフラ
    ンシスコ、バンクーバーなどにも大量移住して、巨大な華僑社
    会を形成している。逆に大陸内では様々な少数民族を抱え、軋
    轢が絶えない。

         流動性の高い国民を抱える大陸国の運営は大変だ。国民
        を繋ぎとめ、国の結束力を高め、愛国心を発揚しなくては
        いけない。複数民族の利害は対立する。こちらを立てれば、
        あちらが立たず。自由にやらせれば内乱が生じ国家が分裂
        する。[1,p105]

         大陸国は、国民を繋ぎとめる単純明快な国家理念を常に
        持ち続けなければならない。マルクス主義に基づく社会主
        義国家建設という理念の破綻と共に、あの巨大なソヴィエ
        ト連邦は空中分解した。市場経済導入は、中国にとって大
        きな賭だ。中国の指導者は共産党一党独裁を絶対捨てない
        だろう。それは、過去の歴代王朝の超権力に替わり、人口
        13億の大国を統べる中華思想自力維持の砦だからだ。
        [1,p107]

     マルクス主義とか中華愛国主義などというイデオロギーで国
    民を縛らなくとも、自然な協調精神で統合を維持できる島国の
    方が、国民の個人的自由と、共同体の統合とを両立させやすい。
    それは社会の安定と発展のために不可欠の基盤である。

■6.イギリスの「海洋民的島国根性」■

     島国を囲む海を「外界を隔てる壁」と捉えれば、そこに、悪
    く言えば、広辞苑の「他国との交渉が少ないため視野がせまく、
    閉鎖的でこせこせした性質」、よく言えば「共同体の中での協
    調精神、勤勉、誠実」という島国根性が生ずる。これらは「農
    耕民的島国根性」と言える。

     もう一つ「海洋民的島国根性」と言うべきものがある。周囲
    の海を「海外とつながる道」だと捉えれば、その海を通じて外
    国と交易をしたり、移住したり、時には侵略して植民地とした
    りする進取の精神が生ずる。

     海洋的島国根性の代表がイギリスである。ヨーロッパの東端
    の小さな貧しい島から、世界の7つの海を支配する大帝国を築
    き上げた。

     島国イギリスと大陸国フランスは、植民地化競争のライバル
    だったが、そのアプローチは対照的だった。フランスは大陸国
    としての中央集権的な政治システムや独自の文化を植民地に持
    ち込む同化政策をとり、現地住民との混血もイギリスよりは積
    極的だった。だから、アフリカのコートジボワールや南インド
    のマドラスには、今日も小綺麗なフランス風の街が残り、フラ
    ンス系の白人や混血児が行き交っている。

     それに対して、イギリスは大陸の奥深くには入り込まず、現
    地の有力者による支配をそのまま活用して、自らは沿岸部にお
    ける交易で収益を確保することを主眼とした。

     面にこだわる大陸国と、点と線で要所を押さえる島国では、
    そのスピードにおいて圧倒的な差があった。イギリスが植民地
    化競争でフランスを圧倒したのも、「海洋的島国根性」を積極
    的に発揮したからである。

■7.「海洋的島国根性」を支える情報能力■

     イギリスの「海洋的島国根性」のもう一つの強みは、その情
    報能力にある。どこで何を買い、それをどこに売るか、という
    交易を発展させるには、各地での情報収集が成否の鍵を握る。

     たとえば、アフリカから調達した大量の奴隷を使って、アメ
    リカで綿花を栽培し、イギリスでそれを綿布にして、アフリカ
    その他の市場に売りさばくという「大西洋の三角貿易システム」
    [a]。さらにシナから茶を買うために、インドの阿片をシナに
    売りつけ、インドにはギリスの工業製品を売る。こうしたグロ
    ーバルな交易は、イギリスの情報能力によって構築されたもの
    だった。[b]

     イギリスの対岸のヨーロッパ大陸には、フランス、スペイン、
    イタリア、オランダ、ドイツ、ロシアと多くの国々がひしめい
    ている。これらの大陸諸国どうしが、絶えず合従連衡に明け暮
    れていた。イギリスは海を隔てていた分、距離を置いて、各国
    の動きを観察し、情報を集め、戦略的に介入することができた。
    この大陸に近い島国としての絶妙の位置が、イギリスの情報能
    力を磨いたと言えよう。

     司馬遼太郎は『坂の上の雲』の中で、こう述べている。

         英国というのは英国の機能そのものが一大情報組織といっ
        ていいほど、各国の情勢を精力的に収集し、それを、現実
        認識についてはもっとも適したその国民的能力をもって分
        析していた。英国の情報組織は、その外務省がいわばその
        玄人であったが、しかしその海軍省も情報室に大きな機密
        費をあたえて海外情報の収集についてはいかなる国の海軍
        よりもすぐれていた。

■8.島国の代表選手、日本■

     イギリスとともに、世界の島国の代表選手が、我が日本であ
    る。世界の48の島国の中で、日本よりも広い面積を持つ国は
    インドネシア、マダガスカル、パプアニューギニアの3つしか
    ない。

     人口はインドネシアについで世界第2位。国民総所得は総額
    でも、一人あたりでも、もちろん世界第1位。平均寿命に到っ
    ては、大陸国も含めても世界1位である。日本こそは「偉大な
    島国」と言って良い。

     島国としては広い農耕面積と農業に適した気候に恵まれて、
    日本人は「農耕的島国根性」を高度に発展させてきた。その協
    調精神、勤勉さ、誠実さは、世界でも比類のないレベルである。
    工業分野は、一人の天才よりも、大勢のチームワークを必要と
    するので、この強みが特に顕著に発揮され、車やエレクトロニ
    クスなど日本の高度の工業製品が世界市場をリードしている。

     また、瀬戸内海や多くの島嶼を持つ地形、豊かな漁業資源は、
    古来から日本人の海洋民的島国根性を磨き上げてきた。海外に
    向かう進取の精神、そして情報能力の才は、グローバルにビジ
    ネスを展開する日本の商社がいかんなく発揮している。

     これだけの広い面積と大きな人口を持つ島国が、協調精神、
    勤勉、誠実の「農耕民的島国根性」と、進取の精神と情報能力
    に長けた「海洋民的島国根性」を併せ持ったら、世界有数の豊
    かで平和な社会を実現しえたのも当然であろう。

■9.未来を開く「島国根性」■

     今後の我が国の進むべき方向を考えるには、「農耕民的島国
    根性」と「海洋民的島国根性」の視点から見てみることが一つ
    のヒントになろう。

     たとえば農業を保護し、農産物輸入の自由化を少しでも遅ら
    せよう、というのは、まさに「他国との交渉が少ないため視野
    がせまく、閉鎖的でこせこせした性質」、すなわち悪い意味の
    農耕民的島国根性である。日本企業の優れた科学技術と日本商
    社の情報能力を活用すれば、高品質の農産物を生み出して海外
    に輸出することもできるだろう。農業に「海洋民的島国根性」
    を注入して、新たな発展を目指すのである。

     教育面でも、国内でしか通用しない前世紀的な社会主義が未
    だに蔓延(はびこ)っているのは、農耕民的島国根性の悪い面
    が出ている。これも教師たるものは全員、海外での1、2年の
    研修を通じて、海洋民的島国根性を身につけさせることで、相
    当程度、良くなるだろう。

     我々自身が持つ「農耕民的島国根性」と「海洋民的島国根性」
    の素晴らしい面を自覚し、それらをいかに組み合わせて発揮し
    ていくか、そこから日本の未来を考えることが出来よう。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(090) 戦争の海の近代世界システム
    海洋アジアの物産にあこがれて、ヨーロッパと日本に近代文
   明が勃興した。
b. JOG(173) アヘン戦争〜林則徐はなぜ敗れたのか?
    世界の中心たる大清帝国が、「ケシ粒のような小国」と戦っ
   て負けるとは誰が予想したろう。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 布施克彦『島国根性を捨ててはいけない』★★★、洋泉社

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