[トップページ][平成9年下期一覧][070.15 事実と報道][260 南アメリカ][319 国際親善]
_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ Japan On the Globe (16) _/ _/ _/ _/ _/_/ 国際派日本人養成講座 _/ _/ _/ _/ _/ _/ 平成9年12月20日 1,594部発行 _/_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ _/_/ Media Watch: 国際親善をそこなうマスコミ報道 _/_/ _/_/ ■ 目 次 ■ _/_/ _/_/ 1.ブラジルの日系紙を怒らせた日本の報道陣 _/_/ 2.まごころのメッセージ _/_/ 3.日系人の思い _/_/ 4.幸福な島国 _/_/ 5.国際親善を損なうマスコミ報道 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■1.ブラジルの日系紙を怒らせた日本の報道陣■ 本年5月30日から、6月13日まで、天皇皇后両陛下は、ブラ ジル・アルゼンチンを御訪問された。日本のマスコミはほとんど報 道しなかったが、その間には現地の人々との多くの感動的な場面が あった。これは後に紹介するとして、問題なのは、この時の日本の マスコミの取材態度である。ある日系人記者は、こう書いている。 政府専用機で相乗り五十人の報道陣が、後部タラップからま るで嵐のように降りてきて、我々の規制された枠中の位置とは 関係なく、声高の日本語を交しながらタラップの下に陣どる。我々取材陣は殆ど追いやられる始末。ネクタイをつけての礼を つくした現地取材陣は、外務省の発行した許可証も、現地の大 使館、総領事館の規制の前には殆ど効力なし。ヤクザが飛び込 んでくるような勢いには参りました。 なんであんな大ぜいで取材合戦をするのだろう。専用機取材 だから交通費もいらないということであろう。我々は現地民間 機で追いかけるか、早く中止して次の時点で待ち受ける。とこ ろが、その場でもケチラカサレル。いやな思いにかられても我 慢しての取材だった。 ここまでして、日本のマスコミは御訪問をどう報道したか。 NHKの衛星放送のニュースをみると、両陛下のブラジル訪問 など、ほんの十数秒の扱いでしかない。べレンではアマゾン河 を周遊されたことだけで、日系人との感激の引見といったこと は全く触れられていない。NHKは民放と比べてニュース時間が 豊富なのにこの程度の扱いなのだから民放の長さも想像できる。
やはり、日本のマスコミにとって、ブラジル日系人の存在とい うものは、この程度なのが現実なのだ。(日系「サンパウロ新 聞) ブラジルの日系報道陣は、日本のマスコミの心ない態度に、侮辱 されたと感じたのである。さて日本のマスコミがこんな騒ぎまで起 こして、なおかつ報道しなかった御訪問の実態を御紹介しよう。 ■2.まごころのメッセージ■ サンパウロ市イブラブエラ体育館で開かれた日系人歓迎式典では、 天皇陛下は次のような挨拶をされている。 一九〇八年、日本から最初の移住者が笠戸丸でサントス港に 到着して以来、移住者の長年にわたる並々ならぬ努力により、 現在、日系の人々がブラジルの社会で信頼され高い評価を得て いることを喜ばしく思っております。また、新しい世代がたく ましく成長し、サンパウロを始め、各地で様々な分野において 活躍するに至っていることも、うれしく、心強いことに思いま す。このような今日の日系社会の発展をもたらした各世代の人 々の、それぞれの時代における努力に対し、深く敬意を表しま す。 同時に、日本人移住者を迎え入れ、その活躍を可能ならしめ たブラジル国民の寛容さを、私共はこれからも長く心にとどめ ていきたいものと思います。 一昨年、日本が戦後五十年を迎えた折には、復興の苦難の日 々、はるかなブラジルに住む日系人からよせられた支援に対し、 深く思いを致したことでした。 皆さんには、今後ともどうか体を大切にし、元気でブラジル の発展に貢献されるよう、また日本とブラジルの友好のため引 き続き尽くしていかれるよう希望しています。 ブラジルには、「ジャポネーズ・ガランチード(日系人なら大丈 夫)」という言葉があるそうだ。日系人だというだけでビジネスで も信頼される、という大変な信用を日系人社会は築き上げてきた。 後述するマリオ・コーバス・サンパウロ州知事は、「日系ブラジル 市民は日本が与えてださった最大の贈り物です」とまで述べている。 そうした日系移民の努力と活躍に敬意を表し、それを受入れたブ ラジル国民の寛容さに触れられる。(米国で日系移民が激しい排斥 にあった事に思いをいたされたのかもしれない)。さらに敗戦後の 日系人からの復興支援に感謝し、今後もブラジル発展のために活躍 を希望される。短いながらも、日系人とブラジル国民に対するまご ころのあふれるメッセージである。 ■3.日系人の思い■ 式典の参列者で七歳の時に岩手県からブラジルに渡ったという小 向あえさん(72)は、「昨日は興奮して眠れませんでした。両陛下は ブラジルの日系人に心をかけてくれていると聞き、大変ありがたい ことです」と涙を浮かべた。 また会社を休んで式典に出席したという日系二世のイノウエ・シ ョウイチさん(56)は、「私は自分をブラジル人だと思って暮らして きたが、四年前、日本に墓参りして日本人の血が流れていると実感 した。両陛下を歓迎することが亡くなった父への供養になると思 う」と語った。 また天皇陛下は、養鷄農場を経営する田邊稔さん(61)を御引 見された。19年前の御訪問時に田邊さんの父親が経営する農場を 御視察される予定になっていたのだが、日程変更でキャンセルとな った。今回、陛下が「あの方はどうしているいるか」と御下問があ り、日本総領事館が調査した所、本人は故人となっていたが、息子 が家業を継いでいると判り、稔さんをお招したものである。 「そこまで陛下がお気をお遣いになられている事に、ただ驚くばか りです」と稔さんは恐縮した、との事。 ■4.幸福な島国■ こうした陛下と日系人との交流を目の当たりにして、サンパウロ 州のマリオ・コーバス州知事は、その日の午餐会で次のような挨拶 をされた。 両陛下は、ブラジル人が長年にわたって敬愛している崇高な 存在です。と申しますのも、両陛下は二千年に及ぶ伝統の継承 者であらせられ、すでに二度にわたってわが国を訪問されてお り、そのたびに、飾り気のない親しみあふれるお人柄の模範を 示していただいており、それはすべての者を魅了してやみませ ん。 しかも、これらの特徴は皇室全体に共通のものであると思わ れます。私たちは、州政府を担って一年目の一昨年、公式御訪 問の名誉にあずかった紀宮清子内親王殿下においてもそれを目 の当りにしたからです。 それらすべてのことは、私たちをして、土壌が肥沃で、国民 が勤勉で、人格が高潔な皇族の皆様が国民の象徴となっている 幸福な島国が存在することに思いを馳せざるを得ません。 ■5.国際親善を損なうマスコミ報道■ 両陛下と日系人を含めたブラジル国民とのまごころのこもった交 流を、日本のマスコミがきちんと報道していれば、その経験を日本 国民も共有し、両国のお互の理解と友好を格段に深めたに違いない。
このせっかくのチャンスに、日本のマスコミはかえって現地の反感 を買ったのである。 「陛下の御訪問は日本国がある国に対して行う最上の敬意の表し 方とされる」と号外まで出して報道したブラジルの現地紙があった そうだが、これが国際常識であり、国際親善の基本である。皇室に 敬意を払わない日本のマスコミは、自国の「最上の敬意」を台無し にしてしまったのである。 過密なスケジュールを、皇后陛下は体調を崩されながらも、なん とかこなされたのである。政府は皇室外交を切り札として利用しな がら、国内向けにはマスコミはほとんどその真実を伝えない。政府 とマスコミの不見識をこぼされもせず、両陛下はおつとめを果たさ れ続けている。 この12月23日、今上陛下ははや64歳のご誕生日を迎えられる。
[参考] 1.「日本人だけが知らない公式御訪問の重み」、 祖国と青年、平成9年8月号
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