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■■ Japan On the Globe(456)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ The Globe Now: 日本の技術が地球を救う 地球を救う技術が続々と日本で生まれている のは何故か? ■転送歓迎■ H18.07.30 ■ 34,218 Copies ■ 2,154,366 Views■ ■1.日本のハイブリッド車の快走■ 日本のハイブリッド車が快走している。エンジンとモーター を備えており、低速走行時はモーター走行、中速走行時はエン ジン、さらにパワーの要る時には、両方で駆動する。エンジン 走行時に余ったエネルギーが出れば、バッテリー充電に廻され る。 筆者はトヨタの最初のハイブリッド車であるプリウスを愛用 している。特に信号待ちの時などは、エンジンもモーターも停 止しているので、まったく音も振動もしない。信号が青になっ て、アクセルを踏むと、モーターが回って、静かに動き出す。 「そういえば、前の車は止まっている時も、エンジンがムダに 回っていたな」と思い出しては、「私は地球環境保全に貢献し ているのだ」と自己満足に浸る。 こういうハイブリッド車が2005(平成17)年には全世界で3 3万3千台生産されたが、その9割以上はトヨタやホンダの国 内工場で生産された。 2010(平成22)年には、全世界でのハイブリッド車の生産台 数が100万台を超えると予想されている。おそらくその大半 が、日系メーカーか、日系から技術供与を受けた欧米メーカー の生産となるだろう。 プリウスが出たとき、欧米メーカーは本格的な燃料電池車へ のつなぎに過ぎないと考えて、ハイブリッド車そのものを軽視 してきた。しかし、日系メーカーは着実に信頼性向上とコスト ・ダウンを進め、燃料効率が良く、環境に優しい本格的次世代 車として育て上げてきたのである。ハイブリッド車こそ、地球 を救う日本の技術の旗艦、いや「旗車」というべきか。 ■2.家庭用燃料電池■ 一方、本格的な燃料電池の実用化でも、日本の技術は世界を リードしている。車用では重量や容積などの制限が厳しいが、 家庭用ならハードルはそれほどでもない。東京ガスでは、平成 17年から、家庭用燃料電池コージェネレーション・システム を、一部地域で販売しはじめた。 この装置は都市ガスから水素を取り出し、それを空気中の酸 素と反応させて水を作る過程で、電気と熱を生み出す。電気は 家庭内の電源として使い、熱はお湯を沸かして、お風呂などへ の給湯に用いられる。 一般の火力発電所では廃熱利用はしにくいが、家庭なら電気 もお湯も使うので、32%も省エネになる。さらに「燃料を燃 やさない」ので、地球温暖化の原因になっている二酸化炭素の 排出量が45%も削減される。これは4人家族なら約1300 平米の森林が吸収する二酸化炭素量に匹敵する。[1] 燃料電池は1960年代の米国の宇宙船の電源として初めて実用 化されたが、その後、民生用では長らく研究開発が続いていた。 今回の東京電力のシステムが、商用販売では世界初となった。 ■3.石炭灰を使った「海底山脈」で漁獲6倍■ 石炭を使う火力発電所からは、廃棄物として石炭灰が出る。 現在は、これを発電所近くの浅海域で埋め立てで処理している。 100万キロワットの石炭火力発電所が30年稼働すると、そ の灰捨て場として100ヘクタール、すなわち東京ドーム20 個分以上の浅海域とその生態系が失われる。 この石炭灰を活用して「人工海底山脈」を作り、漁獲高を何 倍にも高めようという技術が生まれつつある。まず、石炭灰か らアッシュクリートと呼ばれる1.6メートル角のブロックを 作る。普通のコンクリートは、砂利や砂を大量に使うので、そ の採掘自体が生態系を破壊するが、アッシュクリートではその 代わりに、火力発電所の石炭灰を使う。 長崎県平戸島の近くの生月(いきつき)島沖で行われた実証 実験では、石炭灰約2万トンからこの1.6メートル角6トン のアッシュクリート・ブロックを約5千個作り、水深80mの 海底に高さ12m、幅60m、長さ120mの海底山脈を構築 した。構築と言っても、船底が開くタイプの運搬船から、ブロッ クを自由沈下させるだけだ。アッシュクリートは普通のコンク リートよりも比重が軽く、強度が強いので、海底に埋没せず、 積み重なって「海底山脈」ができる。 10ヶ月後には、ブロックの表面にフジツボ類やゴカイ類が びっしり生息した。その後、この海底山脈を中心とする20キ ロ四方の海域で、植物プランクトンの濃度が1.5倍となり、 マアジやカタクチイワシなどの漁獲が6倍に増加した。 ■4.海底山脈が「お魚天国」を作り出す■ なぜ、海底山脈で漁獲高が激増するのか。漁獲は植物プラン クトンを動物プランクトンが食べ、その動物プランクトンを魚 介類が餌にする、という食物連鎖によって生み出される。 食物プランクトンは海の表層にある太陽光や二酸化炭素によ る光合成で増殖するが、それ以外に窒素、リン、珪素などの栄 養塩類を必要とする。しかし、これらの栄養塩類は、太陽光が 届かない海底付近に大量に蓄積されている。 海底から海面に向かって上昇する海流、これを「湧昇流」と いうが、これがあると、海底の栄養塩類が海面近くに持ち上げ られて、食物プランクトンが発生する条件が整う。この湧昇流 が発生している海域は、海洋面積の0.5%しかないが、そこ で全魚類の50%が生産されている、という。 ならば、この湧昇流を人工的に作り出せば、豊かな漁場をい くらでも増やせる。海底にアッシュクリートを積んだ人工山脈 を作り、干潮・満潮で発生する海底での流れを上向きに変えて やれば良い。海底山脈が「お魚天国」を作り出すのである。 食物プランクトンは二酸化炭素を吸収して光合成を行うので、 地球温暖化を防止する効果も期待できる。100万キロワット の火力発電所から出る石炭灰を全量、海底山脈作りに利用すれ ば、それによって増加する植物プランクトンで、この発電所が 発生させる二酸化炭素の5分の1は吸収できると試算されてい る。 江戸時代の日本は、糞尿や煮炊きをした後の灰など、都市の 廃棄物を農村の肥料にリサイクルするシステムを作り上げてい た。また川の上流の林を豊かに保つことで、栄養分が河口から 海に流れ出し、近海の漁獲を維持する「魚付き林」という工夫 も用いていた。[a] 人間の工夫により、自然の生態系を豊かに発展させる、とい うのが、日本人の伝統的な発想であった。発電所の石炭灰を活 用して、お魚天国を作るという技術は、まさに日本人ならでは の発想である。 ■5.自然に戻る生分解性プラスチック■ 砂浜に打ち上げられたビニール袋やプラスチック容器などは、 現代文明がいかに自然の生態系を破壊しているかを良く象徴し ている。自然の動植物はいずれは土に戻っていくが、これらの プラスチック類は、いつまでも分解せずにゴミのまま存在し続 ける。燃やせば、高熱を発し、ダイオキシンや炭酸ガスを発生 させる。しかも原料は石油で、今後の枯渇が心配されている。 永久に土に戻らないというプラスチックの反自然的な性格を 修正したのが、生分解性プラスチックだ。土中に埋めておくと、 微生物によって水と二酸化炭素に分解され、自然に戻ってしま う。 生分解性プラスチックは、原料によりいろいろな種類がある が、主要なものがトウモロコシやサツマイモなどから作られる ポリ乳酸系である。トウモロコシやサツマイモは炭酸ガスと水 を原料に、光合成ででんぷんを作り、それから乳酸菌が乳酸を 作る。乳酸を加工してポリ乳酸が作られ、これを成形してポリ 乳酸系生分解プラスチックを作る。 ポリ乳酸系生分解プラスチックが分解されて、もとの炭酸ガ スと水に戻る事により、完全な資源リサイクルが実現される。 ■6.ユニチカの「テラマック」■ 生分解性プラスチックは、ゴミ袋、生鮮食品のトレー、イン スタント食品の容器などに応用されている。その用途をぐっと 広げたのが、ユニチカが開発した「テラマック」である。ユニ チカは分子レベルの加工技術を応用して、従来のポリ乳酸系よ りも高耐熱性を持つ加工品を作ることに成功した。 たとえば、インスタント食品を入れるトレーに使えば、その まま電子レンジに入れても変形することはない。また強度も強 いために、パソコンの筐体(箱)やエンジンカバーなどの自動 車部品にも使うことができる。 さらにテラマックは人間の肌と同じ弱酸性なので、肌に優し い。抗菌性も持っているので、肌着に最適だ。ポロシャツやス ポーツウェアなどにも利用されている。 さらに難燃性も備え、たとえ燃えても有毒ガスを出さない ので、カーテンや絨毯にも適している。 日本で年間生産されるプラスチックは14百万トン、世界で はその10倍の1億4千万トンに達する。日本人一人あたりで 計算すると年間100キロ以上となる。この膨大な量が石油か ら作り出され、利用後は埋め立てや焼却で処分されているわけ である。 これだけの量がテラマックなどの生分解性プラスチックに変 わっていけば、一人あたり年100キロ以上のプラスチックが 自然に戻されることになる。まさに地球に優しい技術である。 ■7.車のドア・ミラーはなぜ曇らない?■ 生分解プラスチックは微生物がポリ乳酸などを分解する自然 界のプロセスを利用しているが、光触媒の技術も紫外線で水を 酸素と水素に分解する自然のプロセスを利用しているという点 で、いかにも日本人らしい発想の技術である。 光触媒の技術が使われているのは、たとえば、自動車の左右 に突き出ているドアミラー。雨にあたっても、どういうわけか 鏡面に水滴がつかず、いつもはっきり後部の様子を映し出す。 雨に濡れた跡も残らない。お風呂の鏡と対比してみれば、この 不思議さに気づく。風呂の鏡には水滴がつくときれいに映らな くなるので、湯をかけて流したりしなければならない。水滴が 乾くと、その跡が残る。 車のドアミラーの表面は酸化チタンが塗られている。酸化チ タンに紫外線があたると、表面の水を酸素と水素に分解してし まう。その過程で汚れも分解される。また酸化チタンは高い親 水性があり、雨に濡れても水滴にならず、広い範囲に広がり、 汚れも流されてしまう。 この光触媒をビルの外壁や窓ガラスに塗っておくと、汚れが 自然に分解され、次の雨の時に流されてしまうので、いつまで も美しく保てる。ビルの外側に足場を吊りおろして、窓ふきを する必要もなくなるのである。 ■8.日本がリードしてきた光触媒■ 光触媒は太陽の紫外線を必要としていたが、これが蛍光灯な どの可視光でも使えるとなると、用途はぐっと広がる。たとえ ば、汚れの分解機能は抗菌効果もあるため、病院の食器や什器 に塗っておけば、院内感染の予防にもなる。トヨタ・グループ に属する豊田中央研究所では、可視光でも反応する光触媒を粉 末と薄膜の両方の形で実現することに成功している。この研究 はアメリカの『サイエンス』誌(01年7月13日号)に掲載さ れ、光触媒に関する技術開発のブレークスルーとして、高く評 価されている。 光触媒のそもそもの発端は、1972年、東京大学の本多健一・ 藤嶋昭両氏がイギリスの『ネイチャー』誌に発表した論文だっ た。両氏の名前をとって、光触媒の作用を「ホンダ・フジシマ 効果」と呼ばれるようになった。 また、97年には、酸化チタンに超親水性が認められたという 発見が、同じく『ネイチャー』誌に発表された。 これら、光触媒の研究において、根幹をなす研究は全て日本 人の手になり、一貫して日本が世界をリードしてきたのである。 光触媒は、太陽光を用いて、水から直接、水素を取り出すこ とができる。この水素を、上述の家庭用燃料電池に送ってやれ ば、空気中の酸素と反応して、ふたたび水を作る過程で、電気 と熱を生み出す。太陽光と水から、電気と熱を取り出せるわけ で、自然に優しいエネルギー技術としては究極のものだろう。 そのためには光触媒の効率を3桁ぐらい上げなくてはいけな いので、まだまだ夢の技術である。しかし、それが完成した暁 には、水と太陽に恵まれたわが国は、無限のエネルギー源を手 に入れることになる。そして、それは人類が石油・石炭・天然 ガスなどのエネルギーのくびきから解放されることも意味する。 とてつもない国際貢献となるだろう。 ■9.地球を救う「生かしあい」の自然観■ 以上、環境・エネルギー分野を中心にわが国が世界をリード している技術を見てきた。これらの技術開発の原動力になって いるのは、自然本来のプロセスに随順しつつ、それを人間生活 にも役立てようとする発想である。この発想は、代々法隆寺に 仕えた宮大工・西岡常一氏の次の言葉に表現されている。 木は物やありません。生きものです。人間もまた生きも のですな。木も人も自然の分身ですがな。この物いわぬ木 とよう話し合って、生命ある建物にかえてやるのが大工の 仕事ですわ。 木の命と人間の命の合作が本当の建築でっ せ。 わたしたちはお堂やお宮を建てるとき、「祝詞(のりと)」 を天地の神々に申上げます。その中で、「土に生え育った 樹々のいのちをいただいて、ここに運んでまいりました。 これからは、この樹々たちの新しいいのちが、この建物に 芽生え育って、これまで以上に生き続けることを祈りあげ ます」という意味のことを、神々に申し上げるのが、わた したちのならわしです。 [b] 木々も、魚も、太陽も、海山も、すべてはともに「生きとし 生けるもの」であり、人間もその一員である。その「生かしあ い」の中で、我々人間は生かされている。そういう自然観を持 つ日本人が開発する技術は、ひたすら自然の征服を進めてきた 欧米の近代技術とはまた異なったものとなろう。 日本人は、欧米の近代技術とは本質的に異なる技術を提供し て、地球を救うための独自の貢献をなす可能性を持っている。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(024) 平和と環境保全のモデル社会:江戸 鉄砲を捨てた日本人は鎖国の中で高度のリサイクル社会の建 設に乗り出した。 b. JOG(041) 地球を救う自然観 日本古来からの自然観をベースとし、自然との共生を実現す る新しい科学技術を世界に積極的に提案し、提供していくこと が、日本のこれからの世界史的使命であるかもしれない。 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。 1. 東京ガス・ホームページ「なるほど! 燃料電池」 2. 溝口敦『日本発! 世界技術』★★、小学館、H15 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「日本の技術が地球を救う」に寄せられたおたより REQ(リキュー)さんより 今回の日本初の技術の数々を拝見し、昨今の我が国の不甲斐 なさを忘れ、しばし優越感に浸れました。これを見る限り、わ が日本の将来をこのような形で世界をリードして行ければ、世 界の中で尊敬される国になると信じます。 私は「光触媒」を手掛けて2年近くになります。ようやく市 民権を得て家庭に採用されて、喜ばれています。この項を記事 にされるには、それなりの資料を読まれ上で文章にされておれ ると思いますが、実に見事に光触媒の何たるか、から効用まで を紹介されておられるのに、敬服しました。 こんなかたちで多くの人々が知って貰えることは、当事者と して嬉しい限りです。それ以外の技術も理解できて、大変為に なりました。 ■おたより 「まさのり」さんより 私は、常々疑問に思っていることがあります。 それは、マスコミでは、自分の国(日本国)を指して、「こ の国」といっていることです。 「わが国」が本当なのではないでしょうか。 「この国」と書いてあるのを読むたびに、「お前は日本人か?」 と突っ込みたくなります。 「この国」という書き方は、日本国を自分とは関係ないものと して、突き放して、外から客観的に眺めるというニュアンスが、 漂っているように感じます。 私は、海外の英文の記事を読んだことはありませんが、外国 では記事の中で、自分の国を、「this country」 と呼んでい るのでしょうか。それとも、「our country」 と呼んでいるの でしょうか。 私は、「この国」という言葉を読むたびに、苦々しく感じて おります。 ■ 編集長・伊勢雅臣より たとえば外国人のレポーターが日本に来て、記事を書くとき には、「this country」と言うでしょう。「この国」と同様、 自分とは離れたもの、という意識が籠もっていると思います。■おたより ルルさんより まさよりさんのおたよりの、「この国」というのに、 同じくわたしも共感します。もともと日本は島国で、外国人や 移民が他の国に比べると少ない為に、愛国心が少ないと思いま す。 私は5年間イタリアに住んでますが、イタリアでは、ニュー スやマスコミはnostra italia(私達のイタリア)なんて言い方 をします。 他にも、サッカーで優勝したときには選手達を nostri azzuri(私達の選手)、軍隊のイラク派遣や、海外派遣では、 nostri millitari(私達の軍人)など、など・・・。言語の違い もあるでしょうが、日本人は愛国心が極端にすくないような気 がします。 ■ 編集長・伊勢雅臣より 「この国」ではなく、「わが国」と呼ぶ人たちが、日本を支え ているように思います。© 平成18年 [伊勢雅臣]. 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