さて、本日は1970年代以降のジャズ演奏家の中で特筆すべき2人のピアニストの演奏を聴いていきたいと思います。キース・ジャレットとチック・コリアです。
1. "My Back Pages" Keith Jarrett Trio "Somewhere Before"1968
まずキース・ジャレットから聴きましょう。
キースは1966年にテナー・サックスのチャールズ・ロイドのグループに参加して注目されました。僕が彼の演奏を初めて注目したのもロイドの大ヒット曲「フォレスト・フラワー」のライブ録音でセシル・マクビー(b)とジャック・ディジョネット(ds)と延々と続くゴスペル調のメロディックなアドリブに耳を奪われてからでした。
今回お聴かせするのはロイドのグループから独立した後の2枚目のアルバムの冒頭に納められている曲で、ボブ・ディランの1964年の作品ですが原曲のワルツをゴスペル調の4拍子にアレンジしてキースのオリジナルのように聞こえます。ベースはチャーリー・ヘイデン、ドラムはポール・モチアンです。
キースは1971年から72年までマイルスのバンドに加わり、チック・コリアと2キーボード編成で録音を残しています。
これは1970年8月に行われた大規模なロック・フェスティバルの録音で、マイルス(tp)ゲイリー・バーツ(ss)チック、キース(key)ホランド(elb)ディジョネット(ds)モレイラ(perc)というメンバーで、ディレクションズ〜イッツ・アバウト・タイム〜スパニッシュ・キーという曲が切れ目なく演奏されています。歪んだキーボードとベースの音が凄味を感じさせます。
マイルス・バンドから独立したキースは、自分のカルテットを結成します。
デューイ・レッドマン(ts,fl)キース(p)ヘイデン(b)モチアン(ds)というメンバーで1976年まで活躍しました。すべてキースのオリジナル曲で、好評をもって迎えられました。
カルテットの活動に平行してキースはピアノ・ソロのコンサートにも積極的に取り組んでいきました。
それまでのジャズ・ピアニストのソロと異なるのは、用意された曲を題材に演奏するのではなくすべて即興で行われたことです。
フリー・ジャズではそれまでもなかったわけではないですが、キースの文句なく美しく、リズミックであり、歌心あふれるソロは大好評でした。
1973年に初めて発表された「ソロ・コンサート」というレコードは箱入りLP3枚組という異例のものでしたが僕も当時買いました。(その後10枚組!というのも出ましたがさすがに買っていません)今回の演奏はソロ・コンサートの2作目でこれも大ヒットしました。
キースの活躍は多岐にわたり、パイプ・オルガンの即興ソロやモーツアルトを演奏したレコードを出したりもしました。
これは、1977年オスロで録音された臨時編成のグループのものです(同じメンバーで1973年の録音もあります)。
キース以外は北欧のミュージシャンで、特にサックスのヤン・ガルバレクは北欧人らしい(?)クールで美しく、パレ・ダニエルソン(b)ヨン・クリステンセン(ds)ともに素晴らしい演奏です。
このレコードは、キースのメロディー・メイカーとしての底知れぬ才能を感じさせる、なんとも素敵な旋律を持つ曲ばかり収録されていて、時々聴きたくなります。
その後、カルテットを解散したキースは1983年に「スタンダーズ」を発表し、それまでは自身の曲、または完全な即興で活動してきた彼が突如おなじみのスタンダード曲をピアノ・トリオで演奏するということで話題になりました。
これは好評で、結局現在に至るまで活動を続けています。ベースのゲイリー・ピーコック、ドラムのディジョネットという最高のメンバーで演奏されるスタンダードは貶しようがありません。
CDも山のように何種類も出ていますが、どれも非常に水準の高い演奏で買う気になったときは選ぶのが大変ですね。
ピアニストはソロを弾くときにうなり声を出す人が多いのですが、この曲ではキースの声がかなり大きく録音されています。じゃまだ!という人もいますが、演奏に熱中している様子が目に浮かぶようで面白いと思います。
さて、チック・コリアの演奏に移ることにしましょう。
チックはマイルスのバンドに入る頃リーダー・アルバムを2枚制作していますが、今回お聴かせするこの「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス」はピアノ・トリオの永遠の名作だと思います。
前回お聴かせしたヴィトウスのベースにロイ・ヘインズのドラム(ヘインズの共演歴を見ると1940年代のチャーリー・パーカー、1960年代のコルトレーン、1980年代のパット・メセニー・・と、常に最前線にいるドラマーです)というすばらしくスゥイングするリズムに乗ってチックの新鮮なピアノが輝いています。
前回の"La Festa"に共通する、チック好みのスパニッシュなメロディーが楽しいです。
マイルスの元を離れたチックは、ベースのホランド、サックス奏者(ソプラニーノからコントラバス・クラリネットまで使う)アンソニー・ブラクストン、ドラマーのバリー・アルトシュルと「サークル」というフリー・ジャズを追求するバンドを結成します。
この演奏は、71年パリでのライブ録音で、曲はウエイン・ショーターの傑作「ネフェルティティ」。1967年にマイルス・クインテットで吹き込まれた初演は、マイルスとショーターが延々とテーマ・メロディーを繰り返すバックでピアノ、ベース、ドラムがダイナミックな即興を続ける、という実験的な演奏で有名です。
チックの「サークル」はこの曲をピアノのイントロから始め、速い4ビートに乗ったブラクストンのソロになります。フリー・ジャズはどうも・・・という方も4人のミュージシャンが相互の音に反応しながら即興的に変化していく様子を追いかけていくと面白く聴けると思います。
サークルの過激な演奏からうってかわって聞きやすい「リターン・トゥ・フォーエバー」の演奏は大好評で、2作目の「ライト・アズ・ア・フェザー」に収録されたこの「スペイン」という曲は現在ではスタンダードとしてよく演奏されます。
イントロは有名な「アランフェス協奏曲」の第二楽章の引用になっています。
チックのエレクトリック・ピアノ、ジョー・ファレル(fl)スタンレイ・クラーク(b)アイアート・モレイラ(ds)フローラ・プリム(vo)というメンバーです。
70年代から現在までのチックの活躍は多岐にわたり、とても全部紹介することはできません。
レギュラー・バンドとしては、リターン・トゥ・フォーエヴァーはメンバー交代を経て活躍を続けたあと、「エレクトリック・バンド」「アコースティック・バンド」になりました。
その他の特筆すべきプロジェクトだけでも、ゲーリー・バートン(vib)とのデュオ、ハービー・ハンコックとのアコースティック・ピアノ・デュオ、ソロ・ピアノ、ヴィトウス、ヘインズとのトリオなどがあります。
今回紹介したいのは、スペインのフラメンコ・ギタリスト、パコ・デ・ルシアとの共演です。20世紀最大のフラメンコ・ギタリストと呼ばれるパコは、70年代後半から積極的にジャズ・ミュージシャンとの共演を行い、ジャズ・ファン、演奏家に大きな衝撃を与えました。