前回の質問
Q:ジャコ・パストリアスはウエザー・リポートの2代目のベーシストなんですか?
A:ウエザー・リポートからミロスラフ・ヴィトウスが脱退した後、アルフォンソ・ジョンソンというエレクトリック・ベーシストが加入しました。ジョンソンは現在も活躍中の素晴らしい演奏家ですが、新しいバンドを作ることになってウエザー・リポートを辞めたので、ジャコが3代目のベーシストになったのです。
限られた時間で70年代以降のジャズをすべて紹介することはできませんが、今回は晩年のマイルスから現在最先端にいる演奏家の一人、ジョン・ゾーンまでを取り上げていきたいと思います。
1."Time After Time" Miles Davis "Live Around The World"1989
40年代末の「クールの誕生」から50年代末の「カインド・オブ・ブルー」、60年代末の「ビッチェズ・ブリュー」、と常にジャズの最先端の位置にいたマイルス・ディビスも70年代後半以降は肉体的条件の悪化などでたびたび音楽活動を休止したこともあり、さすがにジャズの歴史を変えるような作品の創造はしていませんが1991年に亡くなるまで精力的にレコーディングやツアーを行い、日本にも何度か訪れています。
今回は晩年のライブ録音(死後の1996年に発表されたもの)から、当時のライブでよく演奏されていたシンディ・ローパーのポピュラー曲「タイム・アフター・タイム」を聴いてみましょう。
講座の第一回で紹介した、マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」などで重要な演奏者の一人であったジョン・マクラフリンは、70年代は「マハビシュヌ・オーケストラ」などの自分のバンドで大活躍しました。
その後、これも第二回に紹介したフラメンコ・ギタリストのパコ・デ・ルシアとの共演など素晴らしい演奏を残しています。
今回は90年代にギター、エレキ・ベース、ドラム(パーカッション)というトリオ編成で活躍していた頃の演奏を聴きましょう。ギターのイントロの後、エレキ・ベースでテーマ・メロディーが提示されますが、このベース奏者ドミニク・ディ・ピアッツァも「ジャコ以後」のベーシストで素晴らしいです。インド出身でタブラも演奏するドラムのトリロク・グルツのソロの後、みんなで「口パーカッション」をするところが珍しいですね。
ジョン・マクラフリンの後、マイルス・バンドのギタリストは何度か変わりましたが、次に紹介するジョン・スコフィールドはその中でも最も重要な演奏家です。
まずはベースのマーク・ジョンソンのグループ「ベース・デザイアーズ」での演奏を聴いて下さい。マーク・ジョンソンは晩年のビル・エバンスのパートナーとして有名な素晴らしいウッド・ベース奏者です。
もう一人のギタリストはビル・フリゼル。ドラムはジャコとともにウエザー・リポートの黄金時代を築いたピーター・アースキンです。
今度はスコフィールドのリーダー・アルバムから一曲。
このアルバムには「ベース・デザイアーズ」時代の相棒ビル・フリゼルが参加して、スコフィールドと実に対照的なプレイを聴かせます。
さて、ビル・フリゼルは現代のジャズを代表する実にユニークなギタリストであります。
彼のリーダー・アルバムは「フリゼル・ミュージック」としか言いようのないなんとも興味深い音楽で、何を紹介しようか迷いましたが今回は、コープランド、アイブズなどアメリカの現代作曲家からボブ・ディラン、マドンナまで「アメリカの音楽」のフリゼル流の解体・再構築を試みた1993年のアルバムから聴いて下さい。
モダン・ジャズ・テナー・サックスの巨人ソニー・ロリンズの曲、ブラス・バンドでおなじみのスーザのマーチ、スタンダード曲、と三曲のフリゼル流の解釈を聴いて下さい。
フリゼルはまた、非常に多様な活動をしています。スティーヴ・レイシイと組んでフリー・ジャズをやるし、自分のバンドで「フリゼル・ミュージック」の探求をする、またいろいろなミュージシャンのセッションに参加してレコーディングも多いです。しかしどれを聴いてもフリゼルの音はすぐわかるほど個性的です。
これは、ニューヨークのこれまた一筋縄ではくくれないジョン・ゾーンの「ネイキッド・シティ」というバンドで活躍していた時の録音です。
このバンドはあらゆる音楽の要素を放り込んで精緻で恐ろしく難しい編曲と一見無造作で荒々しい演奏で点描したような音楽です。ただ「ネイキッド・シティ」プロジェクトのジャケットは露悪趣味の極みとでも言うようなもので一部の良識派には酷評されました。
アルト・サックス奏者・作曲家・即興演奏家であり自分のレコード・レーベルも持つジョン・ゾーンは実に多様で精力的に活動している音楽家です。8.のCDジャケット(内側に佐伯俊夫のイラストや昔のSM雑誌からの写真等を使用している)でわかるように(笑)親日家で何度も来日していて日本文化への関心も高いです。
彼が90年代から行っているプロジェクトの一つが「MASADA」で、彼自身のルーツでもあるユダヤ系の音楽の探究です。
クレズマーと呼ばれる伝統的なユダヤの民俗音楽を取り入れた「ジャズ」で、今日聴くのはゾーン(as)、デイブ・ダグラス(tp)、グレッグ・コーエン(b)、ジョーイ・バロン(ds)というカルテットで演奏されます。
このメンバーでの「MASADA」は1994年に一日でほぼCD4枚分の録音を行っています。最終的にスタジオ録音10枚、世界各地でのライブ盤が約10枚ほど発表されました。
すべてゾーンのオリジナル曲でタイトルはヘブライ語でつけられています。クレズマーの旋法をもったメロディーが印象的で、グループ全体は初期のオーネット・コールマン・カルテットを思わせますが、ジャズの歴史を全てふまえた上でのまさに現代のジャズのエッセンスのような演奏だと僕は思います。
ちょっと視点を変えてロックの方から70年代以降のジャズを見てみましょう。
フランク・ザッパは60年代からロック界の奇才・天才・怪人・・と呼ばれたもの凄い音楽家ですが、1976年のジャズ界からランディー・ブレッカー(tp)マイケル・ブレッカー(ts)を加えたライブ盤を紹介しましょう。
ザッパはR&B、現代音楽、ジャズ、などをロックに導入しながらあくまでロック本来の猥雑さ・いかがわしさを失わずに恐ろしく高度な音楽を作り続けた音楽家だと思います。
紹介する2曲はボーカルなしで続けて演奏されますが、注目すべきは「ブラック・ページ」にみられる超絶技巧です。この曲は、まずドラムのテリー・ボジオ(ザッパとやっているボジオは本当に格好いいなあ!)を中心にした打楽器アンサンブルで演奏された後、ザッパの「メロディーがないとむずかしいかな?ではニューヨークの君たちのために”カンタン・バージョン”もえんそうしよう、踊っていいよー」というMCがあり、演奏後「踊れたー?」とふざけたことを言っています(踊れるわけない!)
ロック・リズムと現代音楽的な変拍子の融合をライブで軽々と演奏する能力には驚かせられます。
最後は70年代以降のビッグ・バンドの状況を見てみましょう。
重要な活動をしたビッグ・バンドは、ヨーロッパのアレキサンダー・フォン・シュリッペンバッハたちのフリー・ジャズのビッグ・バンド、アメリカで活動した穐吉敏子のビッグ・バンド、そしてギル・エバンスのバンドであると思います。
今回はギル・エバンスの1980年のライブ録音から聴いて下さい。ギル・エバンスは1940年代から活躍していたアレンジャー、作曲家、バンド・リーダーですが、常に最先端の音楽を追究する芸術至上主義ゆえ、メジャー・レーベルからは敬遠され1988年に亡くなるまで経済的には不遇でした。
1970年代以降の作品も費用のかかるスタジオ録音作品は少なく、マイナー・レーベルからのライブ録音が主になっています。この作品はギル、菊池雅章、ピート・レヴィンの3人のキーボード、エレキ・ベース、ドラム、パーカッション、サックス2人、フレンチ・ホルン、トランペット3人、トロンボーン2人、という14人編成で「雲のような」アンサンブルから素晴らしいトランペット・ソロが現れます。
暑い中、最後まで聞いて頂いて誠にありがとうございました。少しでもジャズを楽しむ助けになりましたらうれしいです。ご縁がありましたらまたお会いしましょう。