第9章 筋ジストロフィー患者を取りまく福祉制度
ここでは家庭にいる筋ジスの方々が受けられる福祉制度について記載しました.他に,各地方自治体によっては制度が異なるものもありますので,詳細は最寄りの市町村役場か福祉事務所,各地域の保健婦または身体障害者相談員などへ相談してください.
(1)身体障害者手帳
身体障害者手帳が交付されれば,医療的・経済的・社会的に様々な援助が受けられますので,取得することを勧めます.この手帳は援助の対象者であるという証明書ともなりますし,出かける際などは携行すると良いでしょう.障害の程度によって等級が決められ,受けられる援助が変わりますので,障害の程度が変化した場合は,同様の手続きで書き換えることを勧めます.詳細は福祉事務所へ問い合わせてください.
(2)医療を受ける制度
身体障害児(者)の医療を保証する制度で,治療費の全額あるいは一部が支給されたり,施設に入所した際に,適切な治療・訓練を受けることが出来ます.尚,家族の収入に応じて一部自己負担になる場合もあります.
- 高額医療
健康保険,国民保険の本人とその家族が対象となります.健康保険を利用して治療した際,自己負担が63,000円を上回った分について後払いで支給されてきます.詳しくは,治療を受ける医療機関へ問い合わせて下さい.
- 育成医療(18歳未満)および更正医療(18歳以上)
障害児(18歳未満)や障害者(18歳以上)が手術などにより障害の程度を軽くしたり,取り除いたり,進行を防ぐなどの治療を,指定医療機関で受ける事ができます.対象は身体障害者手帳を持っている人です.手続きなど,詳細は保健所へ問い合わせて下さい.
- 進行性筋萎縮症児(者)の措置・委託
家庭療育が難しくなった時等,入院し必要な治療,訓練,生活指導を行う制度です.*手続き:指定医療機関に診断書の作成を依頼し,18才未満は児童相談所へ, 18歳以上は福祉事務所へその診断書とともに申し込みます.調査,判定を経て,保護者へ通知が行くことになります.詳細は児童相談所または福祉事務所へ問い合わせて下さい.
- 障害児(者)医療費助成
障害児(者)が医療を受ける際の医療保険の自己負担分や,更正・育成医療の自己負担 分を助成する制度ですが,その対象者は身体障害者手帳1・2級で社会保険,国民健康保険加入者となります.詳細は市町村の福祉課または保険課に問い合わせて下さい.
(3)補装具
補装具を装着することによって,日常生活での活動性を改善することを目的とします. 義肢・装具・車椅子・電動車椅子・座位保持装置・歩行器・歩行補助杖・収尿器・頭部 保護帽等の交付や,修理も可能です.
18歳未満の児童については,座位保持椅子・起立保持具・頭部保持具・排便補助具・ ヘルメット等の交付・修理ができます.義肢・装具については,その構造,機能,使用す る材料などで細かく分類されていますので福祉事務所とよく相談して下さい.
*手続き:福祉事務所で補装具交付申請書,診断書用紙を入手し,指定医に診断書を作成依頼して 前年度の源泉徴収表または,課税証明書,及び身体障害者手帳を添えて福祉事務所へ提出 して下さい.費用は本人や家族の所得によっては一部自己負担となる場合もあります.
(4)日常生活用具の給付・貸与
重度の身体障害者に対して,その日常生活を容易なものにするため,用具の給付・貸与を行います.費用は本人または家族の所得により一部自己負担となる場合があります.
主な用具として,浴槽・湯沸器・便器・特殊便器・マット・椅子・電動タイプライター ・ワープロ・特殊寝台・福祉電話・火災警報機・自動消火器・緊急通報装置など,また浴 室,便所の改造費の給付などもあります.申請方法など詳細は福祉事務所へ問い合わせて下さい.
(5)税の控除,減免
- 障害の程度が一定以上である場合は,所得税,住民税,事業税,相続税,贈与税などにおいて減免などの措置があります.手続きについては税務署,勤務先の給与担当課 ,市町村役場の福祉課などへ問い合わせて下さい.
- 自動車物品税免除,自動車税,自動車取得税
免除の対象となる車は,障害者が自分で運転するか,障害者のために生計を同じくするものが運転する場合の車です. 対象となる障害程度などについては福祉事務所か,自動車税事務所へ問い合わせてください. 障害者本人以外のものが運転する場合,身体障害者については市町村長が,身体障害児については県福祉事務所長が発行する生計同 一証明書が必要です.
(6)日常生活の援助
- 家庭奉仕員(ホームヘルパー)の派遣
常に介護を要する障害児(者)を抱えている家庭に対して,ホームヘルパーを派遣し, 食事・排泄・入浴などの身体に関することの介助,調理・洗濯・掃除・買い物などの家事の介助,そのほか外出時の移動の介助や生活上の相談相手や助言などを行います.手続きは福祉事務所でホームヘルパー派遣申請用紙に記入して提出して下さい.所得によ り一部自己負担となり,低所得者以外でも利用できます
- ボランティアセンター
ボランティア活動の援助を求める人と,ボランティア活動をしている人との仲介の役割をします.詳細は社会福祉協議会などへ問い合わせて下さい.
(7)福祉手当,年金等制度
- 特別児童扶養手当
20歳未満の身体障害児や精神障害のある児童に対して支給されます.
1級 月額 50.350円
2級 月額 33,530円 (平成7年度)
対象としては身体障害者手帳の1〜3級および,4級の一部,または,療育手帳1〜2度にあたる人です.特別児童扶養手当認定請求書と,指定医による特別児童扶養手当認定診断書及びと本人の戸籍抄本,世帯全員の住民票を合わせて提出します.詳細は市町村役場の国民年金課へ問い合わせて下さい.
- 障害基礎年金
国民年金に加入する以前に障害者であった場合に支給されます.
1級 年額 975,000円
2級 年額 780,000円 (平成7年度)
対象者は国民年金法障害等級1〜2級に該当する人になります.身体障害者手帳1〜2級および,3級の一部が対象の目安となります.
手続きは障害基礎年金裁定請求書用紙,障害基礎年金認定診断書用紙に記入して戸籍抄本,住民票とともに提出します.
- 福祉手当及び特別障害者手当
福祉手当は重度の障害児(20歳未満)に対して支給されます.
月額 14,270円 (平成7年度)
特別障害者手当は20歳以上の重度の障害者に対して支給されます.
月額 26,230円 (平成7年度)
*手続き:上記2つとも市町村役場か福祉課で,福祉手当(特別障害者手当)認定請求書用紙,福祉手当(特別障害者手当)所得状況届用紙,福祉手当(特別障害者手当)認定診断書用紙を受け取って記入し(診断書は指定医に依頼する),戸籍謄本(抄本も可),家族全員の住民票と合わせて福祉事務所の窓口に提出します.詳細は,福祉事務所へ問い合わせて下さい.
対象は,福祉手当が身体障害者手帳の1級,2級および3級の一部,また特別障害手当は1級と2級の一部です.
- 生活保護・・・障害者加算
生活保護を受けている家庭で,障害児(者)がいる場合,基準生活費に加算されま す.手続きは,福祉事務所へ身体障害者手帳など障害を示すものを添えて申し出て下 さい. 詳細は福祉事務所へ問い合わせて下さい.
- 障害児(者)扶養共済制度
この制度は拠出制で,保護者が掛金を支払い,保護者が死亡,または重度障害となった場合,残された障害児(者)に年金が支給されます.
年金掛金・・・1口1、400円〜 *加入された方の年齢により異なり,1人2口までです. 年金月額・・・1口につき20,000円が支払われます.
*加入手続き:福祉事務所にある加入申し込み書及び申し込み告知書用紙(保護者の健康状態を知るための書類です)に記入して,住民票,身体障害者手帳,印鑑を添えて申し込んで下さい.尚,東京都では独自の制度(心身障害児(者)扶養年金制度)のため,内容が少々変わります.詳細は,福祉事務所へ問い合わせて下さい.
(8)障害者社会参加の促進
障害者の社会参加を援助し促進する目的で,地方自治体によっては自動車免許取得や自動車改造費の助成や燃料の助成などを行うところもあります.また駐車のための道路の使用許可もあります.詳細は最寄りの福祉事務所に問い合わせて下さい.
(9)その他
今までの制度の他,各自地体が独自で行っている制度として以下の様なものがあります.詳細は,福祉事務所,社会福祉協議会へ問い合わせて下さい.
- 身体障害者手帳申請者への診断料助成
- 補装具など自己負担金の助成
- 障害児教育
- デイ・サービスおよび在宅重度身体障害者ショート・ステイ(短期保護)
- 小規模通所施設
- 施設入所者自己負担金の助成
- 難病手当
- 見舞金・祝金の支給
- 独り暮し障害者介護人派遣
- 入浴サービス
- 理髪サービス
- 寝具消毒乾燥サービス
- おむつなどの給付
- 車椅子などの貸出
- 福祉バス・通所バス
- 福祉大会,レクリエーション
- バス旅行
参考文献
- 昭和62年度筋ジストロフィー症在宅患者療養の手引き
- 社会保障の手引き,平成6年度版:厚生省社会・援護局監査指導課 編
- 生活ガイドQ&A,平成7年度版:南九州医療福祉枝研究会 編
(吉留宏明)