5.全身の観察と評価について
全身を観察することは,患者さんの健康状態を明らかにし(正常か異常か),健康に影響する要因・問題を早期に発見し,予防・回復の為のケアに役立ちます.また病院での治療が必要と判断するための基礎情報として活用れますので重要な役割を担っています.
全身の観察には多数の項目がありますが,ここではバイタルサイン(生命の徴候),日常生活動作(食事・睡眠・排泄・清潔)など基本的な観察事項について説明します.(1)バイタルサイン
バイタルサインとは,人間が生きている状態を客観的に示すもので,基本的には体温・呼吸・脈拍・血圧の4つの徴候を総合的にみることです.
@体温 一般的には腋下・口腔・直腸で測定します.臨床では 37℃を基準にしていますが,体温が高いかどうかの判断はその人の平熱を基準にします.感染しているか(風邪をひいているか)どうかの大切な指標となるので毎日のチェックが必要です.
A呼吸 呼吸数・リズム(ただし人工呼吸器がコントロ−ルで 設定されている場合は,一定である)・深さ,呼吸音の聴取,呼吸に伴う患者の表情・顔色・口唇色・爪の色等を観察します.
B脈拍 脈拍をみるということは,指先でその背景にある心臓の状態を知るということです.基本的にはトウ骨動脈(手首にある動脈)で測定します.脈拍数,リズムがポイントとなります.脈拍はさまざまな要因に影響を受けるので,できるだけ状態が安定している時に測定して下さい.
C血圧 脈拍と同様に心臓の状態を知るために重要となります.脈拍と血圧は心不全を合併している患者では特に重要な指標となります.
D経皮的動脈血酸素飽和度測定(SpO2)
パルスオキシメ−タ−と呼ばれる機器で痛みを伴わずに血中の酸素の量と脈拍を測定できます.一般に正常値のSpO2は95〜98%とされています.90〜95%の場合は要注意であり,90%以下の場合は何らかの対処が必要です.ただし,多少の誤差がありますので,異常値を示した場合は,異なる指に換えて再度測定してみて下さい.
E意識状態
脳の中に酸素が十分にいかないと意識障害を起こすことがあるので注意が必要です.名前を呼んではっきり応答できるか.頭がボ−としたり痛みはないか.日中にもかかわらず「ウトウト」していないか,めまいがないか.など気をつけて下さい.(2)日常生活動作
@食事
食事を規則正しく十分摂取することは全身状態を維持するとともに感染予防のためにも大切です.しかし,病気の進行・高年齢化とともに食事摂取を阻害するさまざまな問題が生じてきます.毎日の観察が問題を早期に発見し解決する上で重要ですので,基本的なことですが,以下の点に注意して下さい.
a)毎日の食事量の観察,できれば毎食
b)食欲はあるか,吐き気はないか,胃の気持ち悪さはないか
c)嚥下困難はないか,むせはないか
d)水分は一日にどの位とっているか(ただし,制限のある場合は制限を守っているか)
e)全身がむくんでないか,皮膚の張りやつやはどうか
f)口内炎,歯肉炎はあるか
g)体重はどうか(最低でも月に一回は測定する)
h)高年齢で残存歯が少なく義歯を使用している場合,義歯はあっているか
i)主治医より治療食・制限食を必要と指導している場合は,指示に合わせた食事内容となっているかA排泄
排泄(排尿・排便)は,食事と同じく人間の基本的欲求です.それゆえ,その行為が何らかの原因で阻害されると,身体に悪影響を及ぼします.日常の排泄状態を観察し,異常の早期発見に努めましょう.
a)排尿に異常がないか
尿量(一日量と一回量),回数,色,浮遊物の有無,残尿感,排尿困難,尿失禁など
b)排便に異常がないか
便量(一回量),回数,色,臭気,混入物(血液,不消化物),腹部不快,残便感,便秘,下痢などB睡眠
睡眠は,とればとるだけ良いというものではありませんが,そ の人にとって必要なだけ得られているということは,順調な生活 リズムの重要なバロメ−タ−の1つといえます.
a)本人の訴えから睡眠状態を知る
たとえば,「最近寝付きが悪い」,「睡眠時間が短くなった」,「眠りが浅い,熟睡できない」「,昼間ボ−ッとする」,このようなことがよく耳にすると注意が必要です.
b)不安・心配ごと・悩み・孤独感・ストレスなどにより精神面が不安定になると睡眠にも影響がでます.
c)暑さ・寒さ・温度・湿度・換気・寝具などの環境面も影響を及ぼします.C清潔
清潔を保持することは以下のような効果があり,とても重要です.
a)感染を防止する.
b)血液の循環を良くし,発汗・体温調節を円滑にする.
c)本人の爽快感が得られ,精神的にリラックスできる.
d)入浴時は,全身の皮膚の観察ができる良い機会である.
ただし,入浴前には必ずバイタルサインのチェックをして普段と比べて異常がないか確認して下さい.このような観察を毎日行い,少しでも異常があれば注意し,早めに受診することが大切です.
(小西 妻恵)
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