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實語教

作者不詳
(塙保己一 編、太田藤四郎 補『續羣書類從』第32輯下・雜部96
 續羣書類從完成會 1924.8.15、訂正3版 1957.7.15
※ 任意に書き下し文を付した。

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 山高故不貴。以有樹爲貴。  山高きがゆゑにたっとからず。樹有るをもって貴しと爲す。
 人肥故不貴。以有智爲貴。  人ゆたかなるがゆゑに貴からず。智有るをもって貴しと爲す。
 富是一生財。身滅即共滅。  富はこれ一生のたからにして、身滅ぶればすなはち共に滅ぶ。
 智是萬代財。命終即隨行。  智はこれ萬代よろづよの財にして、命はるともすなはち隨ひて行はる。
 玉不磨無光。無光爲石瓦。  玉磨かざれば光無し。光無ければ石・瓦たり。
 人不學無智。無智爲愚人。  人學ばざれば智無し。智無ければ愚人たり。
 倉内財有朽。身内才無朽。  倉の内の財は朽つること有り。身の内の才は朽つること無し。
 雖積千兩金。不如一日學。  千兩の金を積むといへども、一日學ぶに如かず。
 兄弟常不合。慈悲爲兄弟。  兄弟けいていも常に(は)合はず。慈悲を兄弟と爲す。
 財物永不存。才智爲財物。  財物ざいもつも永く(は)存せず。才智を財物と爲す。
 四大日々衰。心神夜々暗。  四大日々に衰へ、心神夜々に暗し。
 幼時不勤學。老後雖恨悔。
 尚無有所益。
 幼時勤め学ばずんば、老後恨み悔ゆといへども、
 なほ益するところ有るなからん。
 故讀書勿倦。學文勿怠時。  ゆゑに書を讀みては倦むことなかれ。文を學びては怠る時なかれ。
 除眠通夜誦。忍飢終日習。  眠りをはらひて通夜よもすがら誦み、飢ゑを忍びて終日ひねもす習へ。
 雖會師不學。徒如向市人。  師に會ふといへども學ばざれば、いたづらに市人に向ふがごとく、
 雖習讀不復。只如計隣財。  讀むを習ふといへどもまざれば、ただ隣の財をかぞふるがごとし。
 君子愛智者。小人愛福人。  君子は智者を愛し、小人は福人を愛す。
 雖入富貴家。爲無財人者。
 猶如霜下花。
 富貴の家に入るといへども、財無き人と爲らば、
 なほ霜下の花のごとく、
 雖出貧賤門。爲有智人者。
 宛如泥中蓮。
 貧賤の門より出づといへども、智有る人と爲らば、
 あたかも泥中の蓮のごとし。
 父母如天地。師君如日月。  父母は天地のごとく、師君は日月のごとくなれども、 [TOP]
 親族譬如葦。夫妻猶如瓦。  親族は譬へば葦のごとく、夫妻はなほ瓦のごとし。
 父母孝朝夕。師君仕晝夜。
 交友勿諍事。
 父母には朝夕に孝に、師君には晝夜に仕へよ。
 友と交はりてはあらそふことなかれ。
 己兄盡禮敬。己弟致愛顧。  おのが兄には禮敬を盡し、己が弟には愛顧を致せ。
 人而無智者。不異於木石。  人にして智無き者は、木石に異ならず。
 人而無孝者。不異於畜生。  人にして孝無き者は、畜生に異ならず。
 不交三學友。何遊七覺林。  三學の友と交はらずんば、なんぞ七覺の林に遊ばん。
 不乘四等船。誰渡八苦海。  四等の船に乘らずんば、誰か八苦の海を渡らん。
 八正道雖廣。十惡人不往。  八正の道は廣しといへども、十惡の人は往かじ。
 無爲都雖樂。放逸輩不遊。  無爲の都は樂しといへども、放逸の輩は遊ぶまじ。
 敬老如父母。愛幼如子弟。  老いたるを敬ふには父母のごとくにし、おさなごを愛するには子弟のごとくにせよ。
 我敬他人者。他人亦敬我。  我、他人を敬せば、他人もまた我を敬せん。
 己敬人親者。人亦敬己親。  おのれ人の親を敬せば、人もまたおのが親を敬せん。
 欲達己身者。先令達他人。  おのが身を達せんと欲せば、まづ他人を達せしめよ。
 見他人之愁。即自共可患。  他人の愁ひを見ては、すなはちみづから共にうれふべし。
 聞他人之喜。則自共可悦。  他人の喜びを聞きては、すなはちみづから共に悦ぶべし。
 見善者速行。見惡者忽避。  善を見ては速やかに行ひ、惡を見ては忽ち避けよ。
 好惡者招禍。譬如響應音。  惡を好めば禍を招く。譬へば響のこゑに應ずるがごとし。
 修善者蒙福。宛如隨身影。  善を修せば福を蒙る。さながらかたちに隨ふ影のごとし。
 雖富勿忘貧。或始富終貧。  富めりといへども貧しきを忘るるなかれ。あるいは始め富めども終には貧し。
 雖貴勿忘賤。或先貴後賤。  貴しといへども賤しきを忘るるなかれ。あるいは先には貴けれども後には賤し。
 夫難習易忘。音聲之浮才。  それ習ひ難く忘れ易きは、音聲おんじやうの浮才にして、 [TOP]
 又易學難忘。書筆之博藝。  また學び易く忘れ難きは、書筆の博藝なり。
 但有食有法。亦有身有命。  ただし食有れば法有るがごとく、また身有れば命有り。
 猶不忘農業。必莫廢學文。  なほ農業を忘れざるがごとく、必ず學文を廢することなかれ。
 故末代學者。先可案此書。  ゆゑに末代の學者は、まづこの書を案ずべし。
 是學問之始。身終勿忘失。  これ學問の始めなれば、身終はるまで忘失することなかれ。
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