新国立劇場「スペインの燦き」(「スペインの時」他)

 平日とはいえ開演30分前に駆けつけてZ席1,500円が残っていたのだから、ラヴェルのオペラとバレエを一夜で上演しようとした場合の集客力はこの程度のものであるということが知れてくる。オペラの客とバレエの客が分離されていて、オペラの客にとってもバレエの客にとっても、不完全燃焼しそうな構成ととらえられているのだろうか。などと評しつつも、私自身バレエ単独では観ようとは思わないオペラの客であるし、発売と同時に(たとえハインツ・ツェドニクがでるとしても)チケットをおさえようとは思わなかった。だけどよく考えてみると、東京交響楽団によるラヴェルの音楽を存分に楽しむ公演だととらえてみると、前半も後半も俄然おもしろうそうに思えてくる。特に「ボレロ」がどのように響くかも大いに楽しみなところである。

 「スペインの時」は、後半にバレエがあることと関係あるのか、あるいは演出上のことなのか、奥の方まである広い舞台にほとんど何も装置を置かずに上演された。こういう舞台の場合、声を客席に反響させる効果が減じてしまうのでは、といつも感じる。(今回は歌手の力のおかげで、そんなことはものともしていなかったが。)スペインなのかどうかもよく分からない舞台だが、時計はちゃんと出てくるので、妙な解釈を施しているのではなく、多分後半の舞台の雰囲気との統一性からであろう。そもそも演出も、バレエの振付が同じく担当しているのである。作品自体が盛り上がるものでもないので、淡々と無難に終わったような印象が残る。

 後半はバレエの「ダフニスとクロエ第二組曲」、パントマイムによる芝居を付けた「洋上の小舟」、バレエの「ボレロ」と続いた。「ダフニスとクロエ」も「洋上の小舟」も前半同様、無難に終わらせたという感じであったが、「ボレロ」に至って格段におもしろくなった。今夜の公演はこの「ボレロ」で頂点を迎えるように仕組まれていた。普段からバレエを観るわけではないので、そういうバレエの客の観点ではないが、モダンで鮮やかな衣裳と装置で終始華やかである。そして、「スペインの時」の最初に出てきた小道具の時計を、ここで再登場させて公演全体のまとまりを見事につなぎとめている。

 そして何より、「ボレロ」の音楽そのものの響き。この曲は響きの良いオーケストラによって響きの良いホールで聴くに限るのだが、それがこの劇場でどう響くのか。新国立劇場でのオーケストラの響きの良さを改めて実証する結果になった。歌手を気にせず、存分に鳴っているオーケストラを新国で聴くことができただけでも、私としてはこの日は大満足であった。

(2004年2月19日 新国立劇場)

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