荒川区民でつくるオペラコンサート「メリー・ウィドウ」

 まず最初に注意しておくことは、オペラコンサートと題されているが、コンサート形式ではなく、オケピットがちゃんとある舞台形式である。その辺のことは私の興味上非常に大きな違いであるので、以前から気になっていたのだが、あまりに情報が少ないところなので、判断しかねていた。しかしどうやら、「コンサートオペラ」でなくて「オペラコンサート」というのは、いわゆる市民オペラ的に合唱母体でつくり上げていくのではなく、オーケストラの演奏会の一環として舞台形式のオペラを上演しているらしい、ということがだんだん匂ってきた。そうなると、かなり音楽的に充実しているのではないか、これはぜひ一度試しに行かなくては、と思えてきたのである。

 そう数年前から感じていたのだけど、ほとんど宣伝しないところなので、チケット入手方法さえ分からない。だから毎年見逃していた。それが今年に限って、家庭内事情で公演当日に会場の近くを通りかかることになった。しかも「メリー・ウィドウ」で小栗純一が出る、という情報も得た。これはどうしてもと思い、チケットをどうにか公演1週間前にメールで入手したのである。

 演奏が始まってみると、確かにオケの鳴りはいい。コンサート・アマ・オケとしては珍しく、毎年ピットの経験があるためか(それ以外に普通のコンサートや第九もこなしているらしい)、歌手や舞台の流れに合わせての響きは、アマ・オケでは他にないほどだ。レハールの切なさも十分にかもし出されていて、安心してうっとりすることもできる。もう少し表現力のある指揮者に振らせてみれば、とてもおもしろくなると思われる。(荒川区民交響楽団)

 舞台の方はごく簡単なセットしかない。合唱も男声陣の手薄は、どこの市民オペラでも仕方ないとはいえ、ちょっとどこかの大学のサークルとかからでも集まってもらいたいところ。このあたりに「オペラコンサート」としている、ここのオペラの方針が現れているような気がする。

 ただキャストはよく、特にハンナの渡邊史はよく役に合っていた。容姿も演技も、当然声もハンナ・グラヴァリに適っていて、もっと大きな舞台での登場が望まれる。ダニロの小栗純一は定番だが、どういうわけか最初ノリがよくなくて、グイっと引き込まれることもなければ、台詞もトチったりしていた。(もうダニロほど若くないということか。)とはいえ、歌になると、ほとんど身に染みついているがごとくに観客を魅了させていて、その様はまだ十分に余裕が感じられる。その他、ツェータ男爵(村田芳高)が若々しい動きをしていて、この役としては新鮮な印象が得られた。

 久しぶりのレハールで、私は自分についてのことを忘れていた。私は、プッチーニ同様レハールでも涙を流してしまうのである。第2幕で突然視界が潤んで、このことを思い出したのである。

(2004年7月31日 サンパール荒川)

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