浜松市民オペラ「魔笛」

 ここは、私が観た「市民オペラ」の中では一番立派な会場を使っているのではないだろうか。考えてみれば日本各地に立派な劇場ができているが、そのほとんどが県の施設である。すなわち「県民オペラ」の体裁をとっているところで立派な会場を使っているところはあるが、「市民オペラ」は大抵使い尽くされた市民会館が会場である。藤沢もそうだが、堺の会場の窮屈さは舞台上とのギャップで特筆すべきものがある。その点、この浜松は市で立派な劇場をもっているので、市民オペラとしては他にないほど立派な舞台での上演となる。但し、正直なところ舞台セットにかける予算はそう多くないとみえて、簡単な張りぼてのセットしか使っていなかったのだが、その張りぼてが立派な舞台機構を駆使して右に左に大げさに動くものだから、妙な違和感があった。

 キャストは関東・関西のプロに地元の声楽家を加えた形だが、概して良かった。端役の中にはちょっと難ありと思われる部分もあったが、地方市民オペラでこれだけのレベルであればしっかりしたものである。(歌唱原語・台詞日本語の上演だったが、夜の女王が韓国の人なのに全く自然な日本語の台詞を使っていたことには驚いた。)合唱は、やはり男声のしかも低音部に若干もの足りなさを感じたが、この点についてはどこの市民オペラでも状況は変わらないことだと思われる。オーケストラは、さすが楽器の街の交響楽団(浜松交響楽団)だけあって、よく響いていた。ただ時々、曲の入りぎわと終わりぎわに躊躇さが感じられたが、これは指揮者との相性のせいなのだろうか。

 演出は全く無難にまとめられていた。地方都市での上演であれば平凡な演出は仕方のないことかもしれない。その中で、パパパの二重唱でのたくさんの子供たちの仕草は、とても愛らしく、このシーンで久々の絶品だと感じられた。よく練習されている子供たちであることは一目瞭然であるし、やはりこの場面は平凡に幸福感を出すのが一番である。カーテンコールでも思わず念入りに拍手してしまった。

 浜松の市民オペラは初めてであったが、演奏レベルの感想としてはまずまずであるのに、何より立派な会場との水準の乖離があって、本来これほどの公演で感じられるべきではない集中感の欠如が感じられた。むしろ使い古されててもいいから、もっと適当な規模の市民会館での上演であれば、演奏への集中も凝縮されて、感動できるのではと思われた。

(2004年8月8日 アクトシティ浜松)

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