藤原歌劇団「カルメン」
時間もお金も余裕のある生活をしているのであればいいのだけど、あいにく私はそういう人ではないので、自分の行く公演は厳選しなくてはならない。演目、指揮、演出、キャスト、合唱、オケ、会場など(及びそれが予算内の料金であるか)を勘案して選ぶのだけど、その時々によって何が優先されるかは変わってくる。毎回楽しみのポイントが違うところもオペラのおもしろさであるのだが。正直、今回のキャストでの「カルメン」であれば、全く目に留まるところではなかったのだが、やはりチョン・ミュンフン指揮のフランス国立放送フィルとなれば、どうしても引っ掛かってしまう。まだ一度もチョン・ミュンフンの指揮を聴いたことがないし、外来の座付きオケではなく、コンサート・オケを聴くのも実に久しぶりだ。もうほとんど、オペラを観に行く気持ちではなく、コンサートを聴きに行く気持ちで出かけた。
最初の一音から明らかに今まで聴いた「カルメン」の前奏曲とは違っていた。指揮もオケもどちらも良ければこれほど違ってくるのであろうか。なんだか、どんなに新国で一級の指揮者を呼ぶことができても、こんなにいい響きをオケから出すことはできないだろうな、という一種の残念な気持ちさえ感じられた。指揮さえ良くたって不十分で、オケだけ良くても不十分で、しかも指揮とオケの相性もよく合っていないとダメであろう。まるでコンサートのような響きを出している。音がきれいに大きい。やたら大きいのではなく、すっきりと大きい。日本のオケでもコンサートであればそういう演奏は楽しめるのであるが、ピットに入ってまで期待できない。
当初、この指揮とオケであれば、わざわざ「カルメン」なんかでなく、もっとサン・サーンスとかベルリオーズとかグノーとか、わくわくするような演目にしてくれればいいのにと思っていた。しかし、「カルメン」で正解である。今まで体験したことのある「カルメン」の響きとは断然に違うということが明らかになって、分かりやすい。
ところで、チョンは譜面台に指揮用の大きなスコアでなく、辞書のように製本されたスコアをまるでバイブルのように置いていて、しかも一度も開かず全て暗譜であった。おまけに幕間の場面転換以外はずっと立ちっ放しで(セリフの時も)あったが、これらはチョンのいつものスタイルなのであろうか。
ピットの中に気をとられて、ほとんど舞台を観ていなかったが(当然歌はちゃんと聴いている)、かなり普通の舞台。共催のオランジュの野外劇場の雰囲気に合わせて、作りは大きいが、何かびっくりすることも感心することもなかった。演出も(実はよく観なかったが)なんということもない。
さすがに藤村実穂子のカルメンをはじめ、キャスティングは良くて、フランスのオケの大音響にも決して負けていなかった。また日本と韓国の合体合唱も良かったし、児童合唱もきっちりしているのは(たとえ合唱指揮の良さがあったとしても)、チョンの指揮の全体に与える影響だろうか。
(2004年9月19日 新国立劇場)
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