新国立劇場「ラ・ボエーム」

 私は時折、偏頭痛に悩まされる 。視力が悪いからだろうか。レンズの厚い重たいメガネをかけているからだろうか。ひどい眼精疲労を伴う偏頭痛が月に2度ほど襲いかかってくる。頭痛薬でしのいでいるが、何かいい対処はないだろうか。

 確かにその日は朝から偏頭痛で苦しんでいたが、鎮痛剤を飲んで長い午寝をして、回復しているはずであった。だけど、どうもいつもの「ボエーム」のように迫ってくるものがない。何でなのだろうか。もしかしたらキャスティングのせいではないだろうか。多分、今売り出し中という感じの人が大半で、いまいちノッてこない。演技もなんだか演出どおりの動きで、自分のものになっていないような感じである。よく言えば、何をしているのかがとても分かりやすい演技をしている。まあ、キャストについてはそれほど期待するところはないと予想できていた。(むしろ日本人歌手でもっとミミやロドルフォを聴きたくなる人がいるのでは、と思う。)それより、井上道義の指揮がなんとなく期待外れっぽい。こんなはずではない。モーツァルトとかプッチーニとかでは井上道義は安心できると思っていたのは、京都市交響楽団時代に聴いた私の記憶だけのことだったのか。いやそれとも東京フィルとの相性のせいか。そんなことを考えているうちに第2幕が終わった時には、偏頭痛がぶり返していた。

 第3幕までくると、キャストの方はだいぶ良くなってきた。初日だったので、まだ調子がつかめなかったのだろうか。ロドルフォには完全に満足するまでにはいかないが、ミミやマルチェッロなんかは安心して聴いていられるようになってきた。もしかしたら、このあと日程を重ねるごとに良くなっていくかもしれない、という予感がしてくる。

 井上道義の指揮については、こんなはずではない、と感じている人はまだ他にもいるのだろう、第4幕の始まる前に指揮者に対してブーイングがとんだ。幕間に指揮者にブーイングがとぶのは珍しいが、このあとの指揮は(気のせいではないとおもうが)断然に良くなった。プッチーニのうねりはもちろんのこと、感情に合わせた起伏も、ピアニッシモのでの表現も、これこそ「井上道義のボエーム」を聴きに来たのだ、と満足できるものに仕上がっていた。

 拍手喝采をおくるほどの「ボエーム」ではないな、と思いながらも、最後にはお決まりどおりに泣いてしまって、おまけに偏頭痛も消え失せていた。

(2004年9月25日 新国立劇場)

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