新国立劇場「エレクトラ」
決してレアでマニアックな作品ではなく、メジャーでポピュラーな作品とされているのに、上演頻度は少なく、劇場に訪れた観客全員が楽しめるような作品ではない。他には「ルル」とか「トリスタンとイゾルデ」もそういう系列の作品ではないだろうか。一体この作品のどこがおもしろいのだろうか。音楽もおもしろくなければ、ストーリーもおもしろくない。歌がないのはまだいいとしても、全体に暗い。眠くなる以前に苦痛だ。でもオペラ好きとしては知っておかなくては。……そう思って、私が「エレクトラ」のLDを観たのは、まだオペラ初心者だった頃。R.シュトラウスのオペラなんて、まだ舞台で観たことがなくて、かろうじてクライバーの「ばらの騎士」の映像に感動していた頃である。
それからどれくらいの年月が経ったのか定かでないが、私もオペラ上級者とはいえなくても、初心者の域を脱したのではないだろうか、と感じるようになってきた。(思い過ごしか。)今年に入って「エジプトのヘレナ」「インテルメッツォ」と、R.シュトラウスのオペラを全くの予備知識なしに舞台を観て、とてもおもしろく楽しむことができた。確かに「エレクトラ」との作風の違いはあるかもしれないが、「サロメ」も「アラベラ」もついでに「死と変容」も「ティル・オイレンシュピーゲル」もすべて同じ作曲者の音楽だと分かるようになってきて、どれも美しいと感じられるようになってきた。そろそろ「エレクトラ」が観たい。そう思い始めた頃に、丁度気になるキャストをそろえた公演に当たった。
とはいえ、若干の不安はあった。LDを観たのは遥か昔だし、それ以後「エレクトラ」には接していない。それに私は「休憩なし」という公演に息苦しさを感じてしまう方なのだ。そういうこともあって、珍しく開演前にプログラムでストーリーをおさえて、開演を待った。
そうして始まった最初の一音から、すっかり「エレクトラ」に入り込んでしまった。一旦、心がとらえられて集中してしまうと、あっという間に1時間45分が過ぎてしまった。聴いていて、途中で怖くなったり嬉しくなったりしてきて、どんどん「エレクトラ」にはまり込んでいく。微動だにできない。これは作品本来の音楽のすばらしさと、それを十分に再現できた指揮やキャストの素晴らしさの両方が良かったからであろう。上演としても最高の出来なのではないだろうか。初めての「エレクトラ」なので断言はできないが、「エレクトラ」の上演がいつもこんなに感動できるものではないと思う。なんといっても、エレクトラのナディーヌ・セクンデの熱演と、ウルフ・シルマーの指揮と、ハンス・ペーター・レーマンの分かりやすく迫力のある演出によるのだろう。カラン・アームストロングやナンシー・グスタフソンといった充実の配役も安心できるところであったが、予想外に良かったのがオケの響きである。今回の公演の唯一の不安材料はオーケストラであったのだが、よくこのオケから「エレクトラ」の美しい大音響が出せたものだと思えるほど十二分に響いていた。
(2004年11月20日 新国立劇場)
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