東京二期会「魔笛」
実相寺昭雄演出の「魔笛」は、前回2000年の公演も東京二期会で観ているし、下野竜也の指揮も初めてだから好きも嫌いもなかったので、そもそもチケットを取ろうかどうか決めかねていた。二期会のキャストは外れがなくて万全なのだが、とりわけ目新しいキャスティングでもないし。そうこうしているうちに、実相寺さんが演出を新しく練り直すということが分かってきた。正直なところ、前回の演出はいかにも実相寺さん的な演出で、つまらくなはなかったが、とりわけ感動できるほどでないように感じられた。だから、少し躊躇していたのだが、新演出なのだったら、どういうふうに変わっているのか、急に興味が出てきて、行くことにしたのである。
前回に比べて、少なくとも私にとっては格段に良くなっている舞台であった。何よりも楽しくおもしろく、そして分かりやすく観せるような出来栄えである。確かに前回と共通の演出もあったし、同じく怪獣が出てくるところも、まあ実相寺さんなのだから許せるところ。しかし、そういう一部を除いて、いかにも実相寺的であった前回と違い、かなり細部まで凝っている演出になっていて、オペラとしてレベルの高い演出になっている。実際の舞台で、なかなか良くできた「魔笛」にはそうそう出会えるものではないのだが、これは私の観てきた今までの「魔笛」の中でも、結構感心できる舞台である。
私の感じたところ、今回の演出にも、「魔笛」に対しての明確な解釈が含まれているようにも思われないし、また演出家の何かしらの主張があるようにも思えなかった。むしろ、「魔笛」という総合作品をすなおに楽しんでいるような感じなのだ。そして、その「魔笛」に対する姿勢が、「魔笛」のおもしろさにピッタリ合っていて、なまじ作品全体の統一感を演出しようとして中途半端な舞台になるより、よっぽど良くできたものになっていた。若干、台詞を作り込んでいる嫌いがあって、それが歌手への負担になってはいないかな、という心配はある。特に、夜の女王をアリアの前にあんなに喋らせてはいけないのではないだろうか、と思ってしまう。(飯田みち代は無難にこなしてはいたが。)
今回の特色のひとつは衣裳であろう。マンガ家のデザインによるものなのでコスプレチックだが、ややもすると暗い景色になりがちな「魔笛」の舞台が、見た目にも楽しくなっていて、この起用は成功だったと思う。(ただ、オペラグラスでのぞくと、すべてのオペラ歌手がコスプレに適していると言い難いものがあるのも事実だが。)
下野指揮の東京フィルは、演出に徹している感じ。舞台と一体感があって、そういう意味では決して不満はなく良かったのだが、悪く言えば演出に埋もれている印象がある。期待するならもう少し指揮者独自の主張があっても良かったのではと思うが、実相寺さんに対する遠慮もあったのだろうか。
もうひとつ公演そのものと関係のない感想を言わせてもらえば、プログラムの表紙がアニメかコスプレの本かと惑うようなデザインであること。これじゃあ、電車の中で読んでいると、私の風貌からしてその方面のマニアかと疑われかねない。
(2005年3月5日 新国立劇場)
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