東京二期会「ラ・ボエーム」
数えてみると、私は「ボエーム」の舞台を17回も観ているが、東京二期会ではまだ観たことがなかった。東京二期会の公演はいつも一定水準を維持しているので、今回も特に誰かが目当てというわけではなかったが、全体としての「ボエーム」の雰囲気に浸れることを期待していたのだが。
舞台が寂しい。「ボエーム」だから寂しい雰囲気を出している、というのではなく、舞台装置が寂しい。経費削減で、抽象的であったり簡素化したりすることはよくあるが、そういった類のものではなく、インパクトが貧弱な舞台装置なのである。「ボエーム」の雰囲気が漂ってこないどころではなく、プッチーニの音楽さえ台無しにしてしまいかねない感じなのだ。それに人物の動きについても、主人公たちから群集に至るまで、単調でおもしろいところがない。自然な感じもしないので、元々大げさな話の展開が白々しく思えてしまって、これでは最悪である。鵜山仁の演出は、これまで「ヴェニスに死す」と「ペレアスとメリザンド」を観たことがあるのだが、実はどちらもなかなか分かりやすく適確な演出だと感心していた。だから今回の「ボエーム」の弱さには、少々驚いてしまった。これは私自身が「ボエーム」を何回も観てイメージを作り上げてしまっているからなのだろうか。(でもカーテンコールでは、やはり演出にだけブーイングが出た。)
音楽面では、ロベルト・リッツィ・ブリニョーリの指揮が、動きを見ているとなんだか良さそうな雰囲気はしてくるのだが、オケがきっちりついてこれていない感じで、ちょっとノリきれていなかった。もう少し指揮とオケの親密さがあれば良かったのに、と思う。
こうなるると、キャストもなんだか合っていないように思えてくる。福井敬のロドルフォとか、大岩千穂のミミなんて、例えばコンサートで「ボエーム」を一曲歌ってくれる分にはすばらしいのだろうが、舞台の上では力が強すぎて、薄幸さがなく、「ボエーム」の雰囲気ではなかった。(飯田みち代のムゼッタは良かったが。)
おそらく、演出、キャスト、指揮、オケの全ての組合せが、アンサンブル主体の「ボエーム」とはミス・マッチだったのだろう。(鵜山仁の演出だって、他のオペラでは期待できそうなのだし。)そういうことではプロデュース側の問題か。
いずれにしても、涙の出なかった「ボエーム」なんて、「ボエーム」を聴きに出かけた意味がない。
(2006年2月25日 オーチャードホール)
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