東京オペラ・プロデュース「カルメン」
「フィガロの結婚」や「ボエーム」は、どんな内容であっても何度でも際限なく舞台を観てみたいと思うが、なぜか「カルメン」についてはそうは思わない。何も考えずむやみに「カルメン」を観ることは心の中でセーブしていて、何か期待する要因があれば観てみようという気持ちである。その理由は置いておいて、今回の期待する点はカルメンの小畑朱美である。昨年、今回と同じなかのZEROで、すばらしいブランゲーネを歌ってびっくりさせてくれたので、また違う役で聴いてみたいと思っていた。それがカルメンだったということである。
さすがに今日もキャストの中で一番安定した歌を聴かせてくれた。とても良い。少しだけ気になることといえば、あまりにしっかりとした声なので、カルメンの身軽さが少ないようにも感じられた。やっぱりブランゲーネのように腰のすわった役をじっくり歌うとその魅力が十分に発揮できるのだろう。
その他では、ドン・ホセの塚田裕之も声がよく出ていた。高音がよく出るが、同時に硬質な響きも出てくる。これは1幕や2幕では暖かさに欠けているようでちょっと戸惑ったが、4幕までくるとその声質が舞台の緊迫感に合ってくるようになった。ミカエラの及川睦子も、前に聴いた「ヴァンパイア」よりも良く響いていた。
馬場紀雄の演出は、作品の原則を崩さずに自由な処置を施した適確なもの。タバコ工場も山の中の密輸団もそのままであるが、あまり大げさな動きはさせずに視線の変化などで心理描写していく。脇役の表現もしっかりしていて、ダンカイロとレメンダードはジャケット着用で、歌手本人の素である日本人のおじさんの雰囲気そのもので、コミカルにも残酷である。(演出家の意図では、男性社会が舞台であることの表出だろう。)幕切れは、刺されて崩れるカルメンをホセが抱きかかえてキスをするという正統的なものだが、妙に印象的で、慣れているシーンなのに感動できた。
松岡究指揮のオケもいつになく良く聴こえた。(合唱は、座の合唱団に静岡の富士宮市民合唱団を加えたもので、歌はいいのだが、若干統制がとれていないように感じられた。)
東京オペラ・プロデュースといえば、キワモノではないのに日本で舞台にのらない作品(特に日本初演)を手掛けるイメージが強いし、私もそういう作品が目当てで公演に出かけていたのだが、そういうところがメジャー作品に手を出すと、意外にもその作品の楽しさが再確認できるものである。
(2006年3月25日 なかのZERO)
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