藤沢市民オペラ「リエンツィ」
大阪や高知に住んでいても藤沢市民オペラの名前はどこからともなく知れてくる。関東地方の市民オペラで、他の地方にまでその評判が伝わってくるのは藤沢だけだ。だから、市民オペラの西の横綱は堺、東の横綱は藤沢、と勝手に決めつけていた。以前から何度も観てきた堺はともかく、藤沢は一度も観たことが無かったのに、そう決めていた。
ところが不思議なことに、これほど有名な藤沢市民オペラは毎年公演があるわけではなく、不定期なのだ。だから、関東に引越してきて3年待ってようやく藤沢市民オペラの公演に出会えることになった。しかもワーグナー初期の大作「リエンツィ」の日本初演。演目からして「さすが!」と言いたくなる。
さて、初めて藤沢を聴いて、まず何より合唱の人数の多さに驚かされた。何百人いるのかわからないが、とにかく多い。しかも上手い。大きな合唱から小さな合唱まで乱れることなく、立派に歌っている。7つの合唱団の合同だというが、この合唱の力はさすがに日本で他に見当たらない。
キャストは、大きな合唱に負けないためには、プロのいいところを配している。私が観た日は、福井敬、工藤博、福島明也などといった面々。しかもトリプル・キャストだから、これまた驚いてしまう。
舞台も大きく作っていて、市民オペラとは思えないほど。(合唱の数が多いので、大きな舞台じゃないと全員のらなかったからかもしれない。)
オーケストラは金管が活躍する場面が多いのに、その金管が少し不安定だった。他のパートも悪くはなかったが、表現豊かとまではいかなかった。オーケストラも市民交響楽団だったが、他の市民オペラではプロ・オケを使うところが多くなっているのにこの点は音楽的に少し弱い。(市民参加で統一している意義は十分理解できるが。)
原曲は5時間を超えるそうだが、随所にカットを施しているのは、現実的であるものの、登場人物の心理変化が早すぎて理解が追いつかないこともあった。これは作品そのもののせいでもあるだろうから、仕方ないかもしれない。それでも、指揮の若杉弘と演出の栗山昌良は日本初演のこの作品を、わかりやすく丁寧に上演してくれた。
評判に違わぬすばらしい藤沢市民オペラであったが、客席に座って「ここもやっぱり市民オペラだな。」と思うことがひとつあった。それは、客層。合唱に知り合いが出てくると、「あそこにいるわよ。」「どこどこ?」「ほら、あの右の方の……」としゃべり出すおばさんたちである。これは市民オペラの宿命だが、たとえ藤沢であってもこの宿命からは逃れられないことがわかった。
(11月22日藤沢市民会館)