東京オペラ・プロデュース「ルイーズ」

「ルイーズ」は初めて観る。(プログラムを信じれば、日本では1966年以来のようだから、当時まだこの世にいなかった私にしてみれば、初めてでも当然となる。)もともと、初めて見る作品でもCDなどで予習せずに、いきなり生の舞台に接する性質なので、オペラ初心者のころは、結構作品そのものへの衝撃の連続だった。それも最近は少なくなってきたが、この「ルイーズ」では久しぶりに作品の中に感情移入してしまった。

ごく簡潔にストーリーの展開を示せば、貧しくても普通の両親と年頃の娘の3人家族で、娘に男ができて、両親が反対するのに、娘は男のもとへ家出してしまうという話。第1幕での家族の夕食の場面からして、なんとなく親しみがもてる。貧しいとはいっても、アパートの部屋で普通に食事ができる程度。父親が仕事から疲れて帰ってきて、3人で黙々と食事を始める。明るくも暗くもないゆったりとした音楽が奏でられる中、黙って家族が食事を続けるシーンなんて、安っぽいホームドラマのようで、オペラ的ではない。音楽は、「お金がなくても、家族が健康であれば幸せ」といった雰囲気を醸し出す。食事が終わって、父親はくつろぎ、母と娘が台所で食器を片付けている。そんな中で、娘の彼氏のことが話題になる。

そのあと3時間以上もかかるオペラなのだが、要は、娘の結婚に親が反対するという、平凡な設定。母は、娘の彼氏がいわゆるボヘミアンで定職を持っていないことから反対し、父は、母の反対に押される形で、時期尚早と反対する。娘は彼に一途である。娘にしてみれば、もう親の言いなりになる年ではないと言う。

確かに、娘の言うことは表面的には正しく、両親の反対は形式的な理由でしかない。でももっとよく考えろ、と親が忠告する気持ちはよく分かる。娘が男と一緒になること自体に反対するわけではないが、その男がどういう奴か分からなければやっぱり反対するだろうし、ましてや付き合ってまだ間もないというのであれば、なおさら待てと言いたくなる。(オペラの舞台上だけをみれば彼氏も娘に対して誠実なのだが、やはりボヘミアンなので本当のところはどういう男なのだろうと、(私は)不安になる。)両親の理解のなさに娘は生意気な言葉まで言い出すが、私からすればそんなに簡単に甘く考えてはいけないよ、と親の気持ちになってしまう。なんのことはない、私は自分の娘がルイーズのようなことになった場合のことを知らずに連想していて、オペラの中に没頭してしまっていたのだ。

もっとも、このオペラの本当の(というか影の)主人公はパリという都会である。もし田舎であれば、相手の男のことも分かるだろうし、娘が家出したとしてもたかがしれている。大都会で娘が男のもとに走り去ってしまうとなると不安になって心配する。幕切れで、父親が最後に憎むのは相手の男でなく、パリなのである。

ほとんど作品の(というよりも、ストーリーの)感想になってしまったが、それだけ作品に没頭できたということは、演奏自体が作品の良さを伝えるだけの出来だった、ということだと思う。ただひとつ物足りなかったところは、大都会パリが背景に感じられなかったということぐらいで(演出が悪いというわけではないが)、それがかえって、一家族的な問題として身近に感じられる要因にもなっていた。

2007年1月27日 新国立劇場中劇場)

戻る