東京二期会「ダフネ」
ギリシャ神話における月桂樹生成譚だと思うのだが、オペラのストーリーとしてはバロック的であって、20世紀のものとは思えない。オペラの世界では、ひとりの女性に二人の男が言い寄るとなれば、通常はその女性はどちらかの男とくっつこうとして、すんなり三角関係の話題になるはずである。ところが、ダフネの場合、女性がどちらの男をも拒むものだから、物語としてはおもしろくない。なんの話かわからないうちに、気がつけば一方の男がもう一方の男を殺しているのである。それであげくにダフネが木に変身する。もちろん神話の世界なので、そういうものだと思うしかないのだろうけど、普段なじみがあるわけではないので、にわかに引き込まれる話ではない。
こういう話なので、演出も全うなものではインパクトがないからかもしれないが、今回はダンスの演出家(大島早紀子)を起用していた。しかし、この作品に、ダンスの演出家を使った必然性がわからない。当然ながらダンスが多用されているが、R・シュトラウスのこの作品に舞曲性があるようには思えない。私としてはオペラの演出にダンスを使うことを拒否するものでもないし、今回の演出も決して悪いとは思わないのだが、上演が珍しい作品である上に、音楽がダンス向きではないと思われるので、この公演での意義がイマイチ不明である。大島さんも、もっと違う作品でオペラを演出してみたかったのではとも思う。
もっとも、今回の公演がこういう感想になることはなんとなく予測はできたし、この公演の第一の目的は、なんといっても若杉弘が指揮するR・シュトラウスの音楽を聴けることにある。私はまったくこの作品の音楽を知らなかったのだが、序奏からとても美しい響きで、この音楽を聴くことができただけでも、私にとってのこの公演の価値は十分にあった。
(2007年2月12日 東京文化会館)