東京二期会「仮面舞踏会」
東京二期会で「仮面舞踏会」というのもあまり連想しない組み合わせだが、読売日本交響楽団とヴェルディという組み合わせも意外な感じがするので、どういう「仮面舞踏会」になるのか予想できないところが大きかった。結果として、オケもキャストもヴェルディの音楽のおもしろさを再認識する演奏になっていた。
まずキャストは、女声陣3人が作品によく合っていて、とても良く、舞台を引っぱっていた。1幕1場ではリッカルド(福井敬)とレナート(福島明也)の男声陣2人が少しノリきっていない感じがして、その後の展開がちょっと気になったが、1幕2場になってウルリカ(押見朋子)とアメーリア(木下美穂子)が登場してから舞台が引き締まるようになってきた。これにオスカル(大西ゆか)を含めて、女声が終始良くて、男声もそれに引き上げられるような形で、調子を保っていた。
そして何よりも良かったのは、オンドレイ・レナルト指揮の読売日響。最近の読売日響は良くなってきているという噂は、私自身が実演を聴く限りでもそう感じられてきていたが、ヴェルディでもここまで良く聴かせてくれるとは正直予想しなかった。確かにイタリア・オペラにしては多少硬めできっちりした響きに聞こえるが、この作品でオーケストラも楽しもうと思えば、こういう音の方がいい。前奏曲からヴェルディのオーケストレーションの魅力が感じられ、ヴェルディでもこの頃の作品にまでなると、オケの役割も増してきていることがよく分かる。スター歌手をそろえた公演では、もう少し違った伴奏の方がいいのかもしれないが、二期会のヴェルディでは、こういう伴奏が合っているもかもしれない。
一方、演出はイマイチ中途半端な感のするものであった。もちろん私の稚拙な感覚でそう思っただけなのだが、決して奇を衒ったものでもなければ、古色蒼然としたものでもなく、現代としてのオーソドックスな演出であるのは良いとして、一部の処理に多少同意できないところがあった。たとえば、ウルリカのところにアメーリアがこっそり訪れて占ってもらう場面で、リッカルドが全然隠れていない。わざとそういう演出をしているのではなくて、隠れているということになっているのだろうけど、アメーリアもウルリカもすぐ隣にリッカルドいるのに気が付かないという不自然さがある。また、ラストシーンの仮面舞踏会も人の動きが非常に寂しすぎて、ちょっと最後に不完全燃焼感が残る。舞台装置が寂しくたって予算の都合と理解できるが、舞踏会で人の動きが寂しいのはよくない。確かに主要人物の動きがよく分かるという利点はあるものの、肝心の大人数の舞踏に紛れての暗殺とは程遠いものになってしまっている。他の作品の舞踏会シーンであればまだ我慢できても、この作品は舞踏会自体がタイトルになっているのだから、そこはうまく処理してほしかった。全般的には、結構原曲通りのボストンの雰囲気を出そうとしているのであったから、作品への忠実さを細部まで徹底していれば、と思った。
(2007年9月8日 東京文化会館)