神奈川芸術フェスティバル「モモ」
すごい。いまだかつて、これほどまで観客が眠ってしまうオペラ公演に出会ったことがない。隣の人は幕が開いた途端に首を垂れて眠ってしまい、そのまま最後まで目覚めなかった。前の人は連れの肩に頭を乗せスースーいびきをかいている。後ろの席からはスースーどころではなくグーグーといういびきまで聞こえてくる。これはすごい。
ほとんどの観客は「モモ」という名前から童話のようなオペラを想像して来ているに違いない。作曲者の一柳慧が普段どのような音楽を書いているかということも知らずに来ると、まず面喰って、そして眠たくなってくることは仕方がない。
一柳さんはオーケストラの作曲家だと思う。以前、「ベルリン連詩」という歌曲入りの交響曲の初演を聴いた時は結構感動した。しかし、オペラには合わないような気もした。少なくとも「モモ」ではなく、もっと別の題材であればおもしろかったかもしれない。
ただ、決して今回の公演がつまらないわけではなかった。キャストも合唱もオケも良かったし、山本容子の美術・衣裳も新鮮だった。物語そのものもおもしろいし、見方を変えれば楽しい公演になる。
「モモ」という題材のためか子供を連れて来ている人も多かったのだが、そのなかで近くにいた子供が演奏中に「おもしろいね」と兄弟に話しかけていた。周囲の眠りこけている親とは対照的なことである。オペラを知っている大人が観ればなんか変で眠たいこの公演も、オペラとういう概念が形成されていない子供が観ればおもしろく思うのだ。こういう見方は、今回の公演だけではなく、現代のオペラを作ったり鑑賞したりする場合には大切なのかもしれない。現代作品をオペラと思わなくなったら、オペラの歴史は終わってしまうのだから。
(12月6日 神奈川県民ホール)
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