新国立劇場「カルメン」
新国立劇場では3回目のプロダクションになる「カルメン」だが、開場10年で3制作目ということは、過去2回はあまりパッとしなかったという判断が劇場側としてなされたということであろう。私自身も過去2回とも観ているが、確かに最初のプロダクションはつまらなかったし、2回目は悪くはないが、繰り返し観てみたいとまでは感じなかった。ただ、「カルメン」で、キャストに頼らず演出だけの魅力で毎年観たくなるような舞台を作ることは、あまりにも定番作品だけに、かなり工夫しないと難しいだろうということも想像できる。
今回は鵜山仁による演出。1幕を観るかぎりは、常套的な流れの舞台で、納得できないところはない反面、またもや平凡な公演になるのでは、という予感がしていた。しかし、2幕、3幕とすすんでいくうちに、だんだんと、カルメンとホセに絞って(当たり前だが)熱を帯びてくるような展開になってきた。この二人の色恋沙汰の痴話ばなしとして、舞台を捉えているような感じである。カルメンのファム・ファタール性などとは切り離して、純粋な男女間の物語とすることで、カルメン特有のキャラクターは薄められるものの、遠いセビリアのはなしから、ごく身近にでも起こり得るリアリティーのある出来事へと、本質を単純化しているのである。2幕で閉店して灯が落ちた酒場においてカルメンがホセのために踊るシーンも、3幕でミカエラがホセを連れ戻すシーンも、最終幕でホセがカルメンにつきまとうのも、微妙に現実感が出ている演出であった。
今回の舞台での現実感は、演出だけでなく、キャストによるところも大きかった。カルメンのマリア・ホセ・モンティエルとホセのゾラン・トドロヴィッチが熱演であったし、結構ふたりとも容姿が良くて見た目にもストーリーに熱中できる。厳密に評すると、モンティエルは、顔はスペイン人らしいのだが腕も胸も色白で、まだ若さが感じられ、その上よくニコニコしているので、カルメンにしては少々かわいらしすぎる。トドロヴィッチは、顔も体格もしっかりとしていて、自信のある人間のような感じがして、ホセにしては情けなさが不足している。外見だけからすると、男が女を強引に力で押し倒してしまいそうなホセとカルメンである。ただ、それが悪い方には感じられず、逆に身近にいそうな男女として感じられた。
ジャック・デラコートの指揮する東京フィルは、5年前も新国立劇場の「カルメン」で聴いたのだが、そのときは結構良い印象であったのに、今回は多少硬質な感じで、ウェット感が物足りない気がした。それはそれで、フランス人の指揮らしいところもあって、前回のプロダクションには合っていたということであろう。今回の舞台ではイタリア人の指揮の方が、よく感じが出せたのでは、と思う。
(2007年12月9日 新国立劇場)