新国立劇場「サロメ」
新国立劇場のエファーディング演出の「サロメ」を鑑賞するのは3度目になるが、エキゾチックな雰囲気の基本的な舞台は、観るほどにおもしろくなってくる。それは、「サロメ」の場合、はじめての演出だと踊りや生首がどういうふうに処理されるのかを気にしながら鑑賞しなくてはならないので、それがどうなるか分かっているだけでも、キャストの歌やオケの音楽に集中できて、作品の持つ本来的なおもしろさが楽しめるということだと思う。つい先日のムスバッハ演出の舞台の方が、私としては現代に通じる身近な感じがして好きなのだが、それはまた逆に、将来にわたって何度でも鑑賞に耐えられるかどうかはわからないところもあるのも事実である。それに対してエファーディングの演出の方は、聖書を知らない私のような鑑賞者が聖書の世界はこんなものなのだろうかという感じにさせられてきて、それはそれでいい演出だと思う。(それが、身近な問題を取り扱った舞台だと感じさせられない理由でもあるのだが。)サロメが中心に据えられた演出であって(題名役なので当然だが)、そのほかの役はその存在があまり個性を出していない。もちろん、サロメ以外を適当に処理しているということではなくて、ナラボートや小姓にいたるまでその個性はきっちり表現されているのだが、決して異質な存在として表現してはいないので、それだけサロメの特異さが際立つ。
こういう演出の場合、サロメを歌うキャストの演技や雰囲気によって、サロメの性格付けが変わってくるだろうし、鑑賞する方としてもサロメの捉え方が変わってくるのではないだろうか。(それは、ムスバッハのようながっちりと固められた演出にはない点である。)今回のロシア出身のナターリア・ウシャコワは、見た目にはサロメの両極端である少女っぽさも妖艶っぽさもなく中間的な感じがしたのだが、実際に演技を観てみると結構良くて、前半のあどけなさも、踊りの場面からの扇情的な様子もどちらもうまくて、そのつながりもごく自然であった。歌唱の方も、時折、ピットの大音響に比して弱く感じられる箇所があったものの、最後まで場面に応じた歌い方で緊迫さを保っていた。そのほか、ヨハナーンのジョン・ヴェーグナー、ヘロでのヴォルフガング・シュミット、ヘロディアスの小山由美とも、よく響いていて、上演に隙がなかった。特にヴェーグナーは初めて聴いたが、なかなか良かった。
指揮はトーマス・レスナー。指揮に申し分はなかったが、オーケストラ(東京交響楽団)がその指揮に完璧に対応しているとはいえなかった。もちろん、大部分においては弦楽器やパーカッションを中心によくがんばってシュトラウスの音楽を響かせていて、不満を感じる演奏ではない。ただ、もう少し金管がねちっぽく唸れば、もっと良かったのではと感じた。
(2008年2月11日 新国立劇場)