東京オペラ・プロデュース「妖精」

ワーグナーが完成させた最初のオペラを、実際に舞台で観てみたいという、明らかにマニア向けの公演である。日本初演らしい。

以前にも、東京オペラ・プロデュースでワーグナー2作目の「恋愛禁制」を観ているし、3作目の「リエンツィ」も藤沢で観ているので、大体どういう作風かは想像がつくし、ストーリーによっては退屈するかも、という想像もつく。それでも食指が動くということは、私もマニアなのだろうか。自分では初心者のつもりでいるのだが。

物語は、人間の王子と妖精の王女が一度結婚するものの、妖精という出自を知ったために一度離れて、困難の果てに再度結ばれるとうい、単純な物語。ところが、話はすんなり進まず、長い。休憩を含めると4時間近くかかる。ワーグナーだから長くても、「そういうものか」と思えるが、他の作曲家の第1作で、それもこんな単純なストーリーでこんなに長ければ、うんざりすりかもしれない。もっと単純にできそうなものである。RPGのような細かさで、後年の「指輪」と同じ作者であることが納得できる。それでいて、なんとなく退屈させない展開であるので、観ている方も「つまらない」と割り切ることもできずに、かえって疲れる。それでもストーリーの中に、剣とか竪琴とか魔法の指輪といったアイテムや、結婚相手の出自についての禁問など、後々の作品の要素がよく出てくることには、さすがに多少の驚きがある。

指揮は、イタリアのマルコ・ティトット。ドイツ・ロマン的な音楽には聴こえてこなかったが、初めて聴く作品であるので、それがどういう処理をされた結果なのか、または作品本来の音色なのか、わからない。ただ、印象に残るメロディもなく長い作品でありながら、最後まで十分に楽しませてくれる指揮であったし、オケ(東京ユニバーサル・フィル)もそれによく応えていたと思う。

キャストは予想以上に、(レパートリーになるとは思えないのに)作品への取り組みが真剣で、みな完璧にこなしていた。長いオペラの中に、とてつもなく長いアリアが置かれているのに、きっちりと魅了させられる演奏であった。

演出(松尾洋)も、結構処理しにくい場面が多いのに(自分の子供を殺す(生き返る)、変装が突然解ける、妖精がいきなり登場する、石に閉じ込められた妖精が現れる、など)、わかりやすく処理されていて、玄人職人的な演出の施された舞台であった。

結果的に、「退屈するかも」という不安は完全に覆された、おもしろい公演であったが、それも舞台や演奏がきっちりとしていたからであったと思われる。こういったレベルの高い舞台であっても、やはりマニア向きの公演という感はぬぐいきれず、人生で一度は観てみたい作品だが、また同時に、一度だけでもいいと思えたのである。

2008年2月17日 新国立劇場中劇場)

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