新国立劇場「ラインの黄金」
私は録音や録画より舞台でオペラ鑑賞をする方なので、スタンダード作品であっても日本であまり舞台にかからない作品は、ほとんど観たり聴いたりしたことがなかったりする。「ラインの黄金」についても、1994年の関西二期会の公演以来、今回がやっと2回目の鑑賞になる。(もっとも、時折、断片的であっても、録音・録画に接する機会はあったので、物語も音楽もまったく忘れてしまうようなことにはなっていないが。)
だから、キース・ウォーナー演出による新国立劇場の舞台は、2001年のプレミエのときには私は観ていなかった。ただ、当時の評価はあちこちにたくさん出されていたので、舞台の様子は大方つかめていた。肯定的な批評も否定的な批評もたくさん出されていたし、写真つきのレポートも多かったので、それらを読みあさるだけで、なんだか公演に行ってきたみたいな感じになるほどであった。だから、今回がこの演出を自分の目では初めて観るはずなのに、なんだかそんな気がしなくて、セットも結構大胆なはずなのに、そのことでびっくりするようなことにはならなかった。
幕が開いてしばらくは、そういう架空の既知感にとらわれ、冷静に観ているつもりであったが、舞台が進むにつれて、その批評から想像していたよりは遥かに物語の展開に忠実な演出であることが分かってきた。意外にも、幕開けから最後まで、「ラインの黄金」として、おもしろく観ることができた。もし仮に初演時の評価をまったく知らずに、今回いきなりこの舞台を観たとしても、幕開けはそのセットに多少びっくりすることになっても、結果的には十分に納得していたのではないかと思う。
音楽の面でも、強力な布陣で臨んでいるような感じではないのだが、ワーグナーとしては多少こぢんまりとした感じの新国立劇場にしては、適度なキャスティングであったと思う。特にエレナ・ツィトコーワは、新国立劇場にいろいろな役で登場して、そのたびにピッタリ役にはまった感じの演技を魅せてくれるのだが、今回のフリッカも、ウォーナーの演出によく合っていて、舞台を分かりやすくしていた。(また、これとまったく同じことがファフナーの妻屋秀和にもいえる。)ダン・エッティンガーの指揮も適度な過不足ない規模の演奏で良かったのだが、東京フィルが最初はそれに十分応えていたものの、演奏がすすむにつれ多少疲れが見えてきたりしたのは、許容範囲とはいえ、オケの現時点での限界か。
私は、これまでリング各作品は、こまぎれに1回ずつ、単独作品としてしか舞台で観たことがなく(今回もそうだが)、いつもそれで不足は感じなかったが、今回はじめてリング通しで観てみたいと感じた。
(2009年3月7日 新国立劇場)