大田区民オペラ協議会「夕鶴」
誰がつうを歌うのかという点が、「夕鶴」上演の最大の注目点になる。与ひょうが誰で指揮者は誰ということはその次の注目点になってしまう。今回は塩田美奈子と澤畑恵美のダブルキャスト。市民オペラにしてはかなり豪華なダブルキャストといえる。本来なら両方聴きたいところだけど、「夕鶴」を2日続けて聴くのは少々パワーがいるし、両者とも他の演目でもよく聴いているので今回は澤畑恵美さんの日だけ聴きに行った。なぜ澤畑さんの方かというと、もうそれは個人的な好みの問題になってくる。
舞台は、物語の原点の佐渡の海岸をイメージしているらしく、与ひょうの家をできるだけ端に寄せて荒涼感を出していた。背景は、和紙のような質感の短い幕をいくつも重ね、その幕を動かすことによって舞台の広がりと閉塞感を切り替えていた。(2階席からだったので、この幕の意味合いは確認できなかったが、色や模様からするとつうの織った布を意図しているのではなさそうだ。)
キャストは澤畑さんをはじめ4人ともとても良かった。よく声も響くし、演技も自然。それから子供の合唱が驚くほど良かった。子供にもいくつかソロの部分があるが、ホールがいいのか本当に声がいいのか、無理のない声でちゃんと2階席まで響いていた。しかもこの子供たちまでダブルキャストだというから驚いてしまう。
指揮(中村ユリ)も演出(伊藤明子)も女性。指揮や演出にも女性らしい繊細な感性を、なんていうことを期待している時代でなく、女性であろうが男性であろうがどんな大胆な解釈を持ち込んでくるかが問われるところ。伊藤明子の演出も、前回の「ドン・ジョヴァンニ」のようなひねった幕切れを期待したが、今回は感動的な処置は少なかった。
「夕鶴」のような大人の合唱が登場しない作品を市民オペラでとりあげると、一体何が市民によるものなのだろうか。確かに子供たちは市民の中から選ばれたにしても、全てのキャストがプロだと、どのあたりに市民が参加していることになるのだろう。プログラムには合唱団員募集と出ているのだから、合唱団は存在しているはずで、合唱のない作品を上演するとなると出番がなくて反対しないのだろうか。オペラの制作に携わったことがない者から見ると、ちょっと不思議に思う。
(3月21日 大田区民ホールアプリコ)
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