東京オペラシアター「ラ・ボエーム」
ポスターからしてそそられる。戦前の東京の雑踏のセピア写真。妙にこれが「ボエーム」の情景と合っている。
昨年7月の第1回公演では、新しいグループでどんなものか予想もつかず行ってみて、いきなり日本の学校に舞台設定を移した「道化師」に驚くと同時に感心してしまった。今回は演出家が前回と変わっているのに、興味のそそられる演出で、グループとしての方針なのか。
舞台設定(実際は衣裳設定であるとプログラムにも書いてあった。)は昭和8年から17年頃の東京。どうしてこういった具体的な年代になるかというと、「ボエーム」初演時はその時点で66年前の1830年代が舞台になっているので、現在から66年前の時代設定に変えたということだ。これはなかなかいい。下手に現代に設定を変えるより、ノスタルジックなイメージのある時代に設定した方が、「ボエーム」の場合はおもしろくなる。予算が少ないのか、大道具のセットがないのは仕方がないが、戦前の東京のセットが舞台にのれば第2幕なんかとても絵になっただろうにと思う。
前回は音楽的な面で多少の物足りなさはあったものの、1年もたっていないのにキャストも合唱もオーケストラもかなりパワーアップしていた。若い人が多く、ベノワやアルチンドロなんか若々しくて違和感があるぐらいで、他の市民オペラなんかとは全く逆の感想。アマチュアらしく力みが目立つ人が多い中、ムゼッタ役の人は伸び伸びしていて安心感があった。
正直に言って、オペラ公演にスカラ座やウィーンのように音楽的完成度の高さのみを求めている人は、今日の公演なんかだと満足しないと思う。そういう人は日本はまだオペラ後進国だと感じるだろう。しかし私のようにオペラが舞台上にのるだけで嬉しくなるような初心者だと、東京(および関東)はオペラがあふれていて目移りしてしまう。おまけにおもしろい舞台を提供してくれるグループがまたひとつ増えたとなると、どれに行こうかと困ってしまう。東京に住んでいる人が羨ましいかぎりだ。
(3月22日 セシオン杉並)
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