喜歌劇楽友協会「ジプシー男爵」

 J.シュトラウス2世の没後100年ということだけど、日本では彼のオペレッタはまだまだ「こうもり」だけしか知られていないように思う。今回上演された「ジプシー男爵」も、フォルクスオパーの来日公演以外では、この喜歌劇楽友協会でしか上演されていないとかで、私も威勢のいい行進曲以外は音楽もストーリーも全く知らなかった。しかし、昨年のバーデン市立劇場の「ヴェニスの一夜」に続いて、シュトラウスにはこんなオペレッタもあるのか、と再認識させられる作品だった。

 作品そのものは、「なんて暗くて重いオペレッタなんだろう」というのが正直な感想。恋の駆け引きなんていうものは無く、対立や争い事のシーンが大半。しかもベオグラードでの戦争という背景が、偶然にも現実とダブり深刻さを増す。音楽は確かにオペレッタらしいが、でも底抜けに楽しいというものではない。笑いをとるオペレッタではない。このように列挙するとおもしろくなさそうだが、それはこの作品に「こうもり」のような内容を期待した場合であって、むしろオペラだと思って観る方がいいかもしれない。ともかく、つい昨年までJ.シュトラウス=金の時代=「こうもり」という認識しかなかった私にしてみれば、「ヴェニスの一夜」と「ジプシー男爵」に接することによって、シュトラウスの世界が一層広がることになった。

 喜歌劇楽友協会を聴くのは3年半ぶりになるのだが、今までの公演レベルから予想していた以上の内容だった。特に男声陣は総じて良かった。「ジプシー男爵」を取り上げるのは5回目になるとかで、そういった回数を重ねた安定感は舞台の雰囲気からして違う。エウフォニカ管弦楽団もしばらく聴かないうちに音が豊かになっていた。

 少し注文するとすれば、挿入曲がオリジナルの曲に比べ軽く浮いていたこと。個人的な感覚の問題だと思うが、挿入曲は入れなくてもいいと思う。それともうひとつ、これは音楽的には全く関係ないことだが、ポスターが地味すぎる。

(5月15日 森ノ宮ピロティホール)

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