ルーマニア国立歌劇場「カルメン」
古風、というかオーソドックスな舞台だった。思い返してみれば、外来団体の「カルメン」を観るのはこれがはじめてのことだが、国内のプロダクションによるものは時々観ていて、「カルメン」自体は10回目の舞台鑑賞になる。だけど、どの舞台も強烈な印象には残っていない。(今年1月の新国立劇場のマイナスの印象はパンチ力があったが。)同じく10回以上舞台を観た「フィガロ」や「ボエーム」に関しては、いついつどれそれの公演が特別良かったと振り返ることができるのだけど、「カルメン」に関しては可もなく否もなくという舞台にしか巡り合っていない。(一方でこれは、私自身が一定の年齢に達するまで「カルメン」の内容を軽視していたことにもかかわっているかもしれない。)敢えて挙げるとするなら、一昨年の船橋市民オペラの「カルメン」が結構おもしろかったと言えるほどだ。
今回の公演は特に目立った演出意図もないうえに、各キャストも型にはまった演技しかしないので、「どうぞ音楽を楽しんで下さい」という感じの舞台になっていた。もっともこういった上演内容は演出家や出演者の力量の問題ではなくて、プログラムにもインタビューが載っていたが、カンパニーとしての方針らしく、元をたどればルーマニアのオペラ事情によるところがあるらしい。
キャストの中ではミカエラのメラニア・ギオアルダが良かった。しっかりした歌唱なので可憐なミカエラではなかったが、来日演目が「カルメン」でなかったら、立派なヒロインになっていたと思う。カルメンのガブリエラ・ドラグシンは時折スタミナ不足。踊りと歌が重なるとどちらかが手薄になるといった感じ。
オーケストラは金管がよく響いていて良かったのだけど、弦楽器のうねりがそこに埋もれてしまっている感じ。金管が不安定になりがちな日本のオペラの伴奏とは正反対だ。
特別目立ったことの無いまま進む舞台だったが、最後の場面でホセがネクタイを締めてきっちりした恰好でカルメンの前に現れたのは、私としては初めて見た。国内のプロダクションだと大抵、やつれた恰好で登場するのだけど、きっちりした恰好というのは見たことが無い。だけどこれも、何らかの意図があってのことではなく、闘牛場に出かける時はおしゃれをして行かなければ、というルーマニアの人たちの至極当然な発想からきているものと思う。
(6月12日 よこすか芸術劇場)
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