東成学園オペラ「夢遊病の女」
ここのオペラは舞台がとてもきれいにできている。豪華な舞台装置ということではなく、舞台全体が美しく見える。昨年の「愛の妙薬」の時も同じことを感じたので、ここのオペラの特徴のひとつかもしれない。
オペラを鑑賞する時の重要な関心点は音楽的なレベルと演出の二点であるが、舞台の美しさもオペラの楽しさのうちであることには異存はないと思う。確かにきれいな舞台でも音楽が全然だめであったり、演出と全くかみ合っていなかったりすると、その公演はおもしろくなかったことになるのだが、それでもやっぱり舞台は美しいにこしたことはない。
今回の公演、私は第1幕第2場の旅籠の一室が気に入った。寝室と居間に分かれ、居間からはテラスを通じて外に出られる。そして、部屋の白いカーテンを開けると、大きな窓から望めるスイスの雄大な山脈が月光に淡く照らされている。この光景が現れた時は、私は「自分もこの旅籠に泊まってみたい!」と無性に思った。オペラの最中にいきなり旅愁を感じさせられてしまうぐらい美しかった。水車小屋の場面も見えないような細かい所まで装飾していて、舞台をあちこち見回していろいろ発見するたびに感心した。朝もやに包まれた森の小道のシーンも、本物の杉を持ってきたのではと思うほどだった。
舞台を美しくしているもう一つの要因は、村の若者が本当に若いこと。昭和音楽大学の学生ばかりなのだから、二十歳前後の人ばかり。このあたりが、特に男の合唱陣について言えば、市民オペラではまず望めないところであって、村の若者が本当に若いとこれほどまでに舞台が美しくなるのかと、改めて実感させられた。
以上は直接音楽とは関係の無いことばかりだったが、ここのオペラは音楽のレベルも高い。学校主催の公演なので、キャストは藤原などの第一線で活躍している人と、若い卒業生を(今回がデビューの人もいた)混在させているので、安定感のある人と、少々危なっけのある人との差が目立つのは仕方が無い。ただ若い人でも、キャストに選ばれるだけのことはあって声は美しく、これからが楽しみといった感じ。
指揮は菊池彦典。こういったオペラは菊池さんは得意なようで、万全の演奏だった。演出はピエールフランチェスコ・マエストリーニ。昨年の新国立劇場の「セビリアの理髪師」で不思議な演出をしていてちょっと不安だったが、今回はいつもの自然でわかりやすい演出に戻っていた。
(7月10日 グリーンホール相模大野)
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